5-4 俺と彼女とホットドッグ
あれから怖くない汽車の乗り物だのジャングルを探検する小型船だのに乗って外はすっかり暗くなった。
さすがに海沿いとあって風が冷たくなる。
煉瓦色のマフラーに顔を埋めて彼女を見るとどうやら寒いらしく同じように白いマフラーに顔を埋めている。
グレーのダウンジャケットに白いマフラー、デニムのミニのスカートを履いている。
同じ服ばかりで嫌気がさしたのか何なのかインターネットでちょこちょこ買ってるみたいだ。
「寒い?」
我儘を言うたって甘えるのだって限界がある。
やっぱり根本的な所で彼女は大事だからそう気遣ってしまう。
「寒い」
マフラーに口元を埋めたまま答える。
あれから口数少ないものの嫌がりもせずついて来てくれていた。
辺りはほんのりと明るいライトが頭上で光っているだけだ。
このエリアは暗いらしい。
「じゃあ暖かい所行こうか」
そう言うとうんうんと頷く。
それでそのまま道なりに歩いてようやく出発点まで戻った。
ずいぶん掛っちゃったなぁと明るい土産物が並ぶ通りを見る。
その城がある方に飲食店が二軒。
どっちにしようかなと迷って小腹も空いていたのでホットドッグの店に入る。
「なんかすごいお腹空くよね」
と勝手に二つと暖かい珈琲を頼んで残念ながら店内に席は無く外へと出た。
紙のトレーに乗ったそれをテーブルの真ん中に置いて珈琲を手渡す。
それを受け取り砂糖を入れてかき混ぜてるのを見てから蓋を開けて啜る。
体が冷え切ってるからか物凄く熱い。
「舌火傷したかも」
ごくりと飲んでからそう告げると彼女は自分で持ったコップを見つめた。
ふーふーと息を吹きかける姿に笑う。
「すぐ冷めるでしょ」
カップを置いてホットドッグを取りケチャップとマスタードを掛けてから頬張る。
温めたパンに茹でたソーセージというここじゃなければ絶対買わないようなそれは空腹もあってか美味しかった。
もぐもぐと咀嚼を繰り返しあっという間に食べ終わる。
手をつけない彼女に食べないのと尋ねると首を横に振るだけ。
仕方ないとそれを手に取り紙を剥こうとする。
「そう?晩御飯これで済まそうと思ってたんだけど」
途端に手が伸びて俺の手からひったくって食べている。
くつくつと笑いながらそれを見つめる。
「現金だな」
その言葉にうぅっと呻いて顔を真っ赤にする。
そりゃそうだ。
他人から見れば湯水の如く金が出てくる俺を見れば他の女ほどじゃないにしたって涼がそういう目で見たって可笑しくない。
「ほへんなはい」
咥えたまま慌ててそう呟く彼女のついに吹き出した。
「口に物を入れたまま喋らないの。……ま、気にしないけどね、俺は」
ホットドッグを口から離して彼女が俺を見つめる。
どっちの意味にも取れるように曖昧に言ってしまうのは俺の悪い癖だ。
「どっちもだよ。別に口にホットドッグ入れたまま喋っても俺の前だけなら構わないし、俺のお金で良い思いしたいって思ってもそんなに気にならないよ」
「どうしてですか」
ホットドッグを包み紙ごとテーブルに置いて彼女が顔を上げた。
その顔には不安と疑問が混じりあっている。
「どうして?どっちについて?」
「俺の金の方」
「んー、それが当たり前だっていうのもあるけど、涼の為ならいくら使っても良いかなって思えるからだと思う」
これは本音だ。
そうじゃなかったらプラチナのアクセサリーなんて送らないしドレスだって靴だって買わない。
むしろパーティに連れて行こうなんて思わない。
それなりに金が掛る事は覚悟の上だ。
「えー、なんかそれはそれでちょっと嫌だ」
そんなに金食い虫じゃないと思うんですけどとぼやく頭をそっと撫でると眉をしかめたまま唇を突き出した。
ぶりっことも思えるそれも滅多にやらない子がやれば可愛く見える。
「しょうがないんじゃない、こればっかりは。それとも家賃半分持ってくれる?」
そう尋ねれば首を真横に何回も振った。
いや、家賃なんて掛ってないんだけどね、持家だからとはその様子が面白くて言えなかった。
「無理です、絶対、無理。いくら働いても足りない」
もう食べないらしいホットドッグを勝手に取ってばくりと齧る。
冷めてるけどまぁまだ食べれる。
「あっ!」
手を伸ばす彼女を避けながら最後の一口まで美味しく頂いてからようやく飲みごろを迎えた珈琲を飲んだ。
「あー、あー……今日の礼は本当に意地悪です」
食べられてしまって声を漏らし空になった包み紙を切なそうに指でなぞってる。
危うく珈琲を吹く所だった。
そろそろ機嫌を良くしてもらわないと後々響きそうだなと思う。
「さて、今度は涼の行きたい所へ行こうか。どこから攻める?」
二周目の探検へと手を伸ばして誘えば彼女は恨めしく俺を見てから手を取った。
ゴミを持って立ち上がり一緒に捨てに行く。
夜のパレードが始まるらしくてちらほら席取りをしている姿が目立ってくる。
「夜は見なくていいの?」
俺を引っ張って歩き始める彼女の後姿に声を掛ければ振り返ってからそれはそれは大事な事を伝えるように真剣な顔をして呟いた。
「夜はキャラクターに手を振っても気付いて貰えないから良いんです」
その言葉にもう今日何度めかの吹き出しをしてからそりゃそうだねと同意して歩き始めた。




