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私と彼の新しい生活  作者: 竹野きひめ
第五話 彼と私と遊園地
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5-3 俺と彼女とパレード

怒った顔をしてお金をひったくり並びにずんずん歩く彼女にひらひらと手を振ってから伸びをした。

やっぱり慣れない事はするもんじゃない。

辺りを見回し屋台の側の岩を模したベンチに座る。

ポケットに手を突っ込めば彼女の手を入れていない方には電源が切れた携帯とタバコとライター。

とりあえず携帯の電源を入れたくなるのを堪える。

持ってきてみたは良いけれどやっぱりそれの電源を入れてしまえば急に現実味が増すような気がする。

タバコも一緒だ。

俺は家ではほとんど吸わない。

唯一書斎だけは通じる物があって吸ってしまう時があるけれど。

つまる所仕事している時、人の目がある時だけ吸いたくなる。

見られていると緊張するんだ。

ちゃんと自分は出来ているだろうかと心配になる。

それを誤魔化すために吸っている。


「礼」


呼ばれて顔を上げるとむっつりした顔で紙に包まれたそれを持っている。

はいはいっと足を大きく広げて座っていたのを止めて横にすこしずれる。

これで彼女も座れるはずだ。

普段ならお礼を言いそうなのに相当怒り心頭らしく座ったまま紙を剥いて肉に齧り付いている。

柔らかいらしいそれは簡単に身がほぐれて彼女の口の中へ消えていく。


「いっただきまーす」


紙を剥いて同じように食べればなるほど確かに美味しい。

甘めのソースは肉の柔らかさとよく合っている。


「ふまひ」


齧ったままそう呟くと蹴られた。

蹴られた?

踵のある本革の茶色のブーツは俺の弁慶の泣き所を蹴った。


「いっへっ」


そのまま言うとまたそこを蹴られる。

ちょっと待て、そこは反則でしょうと足を前にずらすとそれでも蹴ってくる。

ちょっと隣の人が迷惑そうだよと慌ててその足を手で制すると顔を上げて思いっ切り睨まれた。

ごくりと彼女の喉が動いてから低い声で言う。


「口に物入れたまま喋らないの」


そんなソースが付いてる口で言われても迫力ないっすと笑いそうになりながら何度か頷くとようやく納得したのかまた肉に噛り付いていた。

彼女が怒っているのはそれだけじゃない事はよく分かってる。


「今日の礼はなんか違う」


まだ肉がついているそれを持ったまま俺の方を見ないで言う。

そりゃ分かるように露骨に変えてるからなぁと思いながらそう?とだけすっとぼけた。

骨まで齧りそうな彼女からそれを取り上げべたべたするソースを紙ナプキンで拭ってからゴミ箱へ持っていく。

ちょうど回収していた従業員がそれをにこやかに受け取ってくれた。

愛想笑いを浮かべてから彼女の元へと戻……って、居ない。


マジかよと呟き辺りを探すが一向に見つからない。

どこ行っちゃったんだかと諦めてポケットから携帯を出そうとした時、園内のスピーカーが音楽を鳴らした。

人ごみの中でも響くそれに耳を傾けるとパレードがやるんだって。

パレード?

初めて来るから分からなくてたまたま歩いてた掃除夫を止めて聞けばまっすぐ歩くとそれが見れるらしい。

お礼を言いその先を見つめる。

人が確かに集まっていてその中に小さな彼女の姿は無かった。


「まさか、ね」


と呟くもとりあえず行ってみようと歩き出した。

近づけば音楽はより一層大きくなり人が多くなる。

その先には着ぐるみのキャラクターが派手に飾りつけられた山車に乗って手を懸命に振っていた。


なるほど。

滅多に出て来ないキャラクターが必ず見れるんだとよく出来たシステムだなと感心すると人ごみがへこんでいる所がある。

すいませんとか言いながらそこに近づけばやっぱり居た。

背後に回っても気付かない程一生懸命手を振ってる。


なんだ、やっぱり女の子だわ、と変に感心してからそーっとその手をつかんだ。

ぎょっとして振り返る彼女のその気まずそうな顔と言ったら無かった。



とりあえず山車が全部居なくなるのを待ってから解散する人々の流れに乗ってさっきの場所まで戻る。

真っ赤になった彼女はちらちら俺を見ているけれどあえて無視。

うーとかあーとかさっきから呻いてるけどそれも無視。


「……礼」


足が止まりくいくいと腕を引っ張られてようやく彼女の方を見た。

良く出来ましたというように笑って見せる。

でも怒ってるんですよ、本当は。


「迷子になるって言ったでしょ」

「はい」

「どうして勝手に動いたの」

「パレードが」


子供を叱りつけている気分になるのはどうしてだろうと思う。

見下ろす彼女は小さいからだろうか。


「見たいならそう言ってくれればいいのに」

「待っててくれるかなーって思って」

「……まぁ見つからなかったら電話するよ」


その言葉に怪訝な顔をする彼女に諦めて携帯を見せてやる。

電源は入ってないよと画面を開ければそこはブラックアウトしたままだ。


「持ってきてたんですか」

「そりゃね、何かあったら困るもの」


その何かとは会社関係じゃない。

こうやって迷子になったり天災が起きたという仮定だ。

うーっとまた呻いてから俺を睨む。


「持ってきてるなら最初からそう言ってくれれば良いのに」

「いや、持ってきてないなんて最初から言って無いでしょ?涼だって聞かなかったし」


そうですけどと呟く。


「ほら、何か言う事あるでしょ」


いつもの彼女らしからぬ謝罪を言わない顔にそう告げると渋々ごめんなさいと呟く。

まぁ、何か心こもってないけど、良いかと歩き出す。


今朝あんな風に側に居てくれるって言われて本当に嬉しかったんだ。

だからこの有名な遊園地の名を出されても快諾した。

それでもって甘えてみようと思った。

それが俺の考えの半分、残りの半分の内の半分は滅多に言わない我儘だ。

祐樹と酒井にたまにしか漏らさないようなそれを彼女にぶつけてる。

残りの半分は純粋に楽しいという気持ち。


大体好きでも無かったらこんな所誘わないだろと思う。

それなのに彼女はどこか隠すように楽しんでいる風を装ってた。

でもさっきのですごい安心したんだけど、と思う。


心のどこかで彼女は普通じゃないって思っていたのが晴れたんだ。


やっぱり普通の女の子だったなぁ、と。

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