5-5 彼と私と我儘
はちみつの香りが漂うそこは私の一番好きなキャラクターだ。
付き合わせていたからと遠慮していたが、一日中付き合ってもうなんでも良いやとグッズコーナーへと礼を引っ張っていく。
急に明るくなる店内に目が一瞬眩むもそこはもう我を忘れる場所だった。
見渡す限りのハチの巣をイメージした店内の装飾、そして溢れるはちみつを濃く煮詰めたような色をしたキャラクターグッズの数々。
「はぁぁっ」
感嘆の吐息を漏らす私の横で彼は呆れたようにそこを見回した。
あえてこういうキャラクター専用のお店は避けていた。
「涼はこれが好きなのね」
ふーんと呟いて周囲の人の頭越しにそれらを見つめる。
うんうんと頷き手短な棚から見て回る。
溢れるはちみつ色が目に痛い、じゃなくて眩しい。
フリーターになってからは滅多に来て居なかったから目新しい物ばかりだ。
隅から隅まで舐めるように見てから隣の棚に移る。
ぬいぐるみの横はたくさんの平らは袋に台紙と共に入ったストラップやキーホルダーがフックに掛かっている。
みんなこっちを見てるよと思わずひとつ手に取ると彼がひょいっとそれを取り上げた。
「後は?」
その言葉に首を傾げると笑う。
「さっき言ったでしょ?涼の為ならいくら使っても良いって」
「でも」
「良いから、何が欲しいの?」
彼の言葉にその手に持っているストラップを無理矢理回収して棚に戻す。
それから本当に何でも買ってくれるのかと確認してから中央にあるレジの後ろ、一番たくさんぬいぐるみが置いてあるコーナーへと人を掻きわけ進んだ。
小さい子がモニターに映し出されたアニメに夢中になってる。
その脇の一際高い棚を見て頷く。
あれ、あれが欲しい。
その視線の先には1m弱あるキャラクターの大きなぬいぐるみ。
「……あれ?」
彼が私の視線の先を同じように目で追ってから呟く。
ぼんやりとした顔、ぼてっとした体、無駄に派手な服。
それら全部がキャラクターを盛り上げる要素となって可愛く見えるんだ。
「あれ」
その問いにそう返すと怪訝そうな顔をしてから小さい子の後ろに立ってえいっと手を伸ばす。
棚の一番高い所なのに少し背伸びをしただけで彼の手は確実にぬいぐるみをとらえて下へと下ろす。
彼が持っても大きいそれはやっぱり間近で見るとすごくかわいくて思わず抱き着く。
ふわんとしたお腹が顔にあたってぬいぐるみ特有の少し油臭い匂いがした。
「本当に好きなんだね」
その手が離れてぬいぐるみは私の手の中に収まった。
顔を埋めたままうんうんと頷くとそれだけで良いの?と聞かれる。
いい加減にしようと顔を上げてぬいぐるみが前を向くように抱きなおした。
「これだけでいいよー」
とそのぶっ太い腕を片手で操作して上下に動かしながらそう言うと彼が吹き出した。
結局それだけ買ってもらって袋詰めしてくれるというのを断って抱き締めて歩く。
周りの視線は羨望半分、蔑み半分と言ったところだろう。
こんなのここでしか出来ない。
両手で抱えないと落っこちてしまいそうで、でも、片手で頑張って小脇に抱えて歩く。
もちろん片手は彼のポケットの中だ。
「やっぱり袋に入れて貰ったら?」
たまに立ち止り抱え直す私に彼が言うが全力で首を振った。
だって、他でもない、礼が買ってくれたんだよ。
見せびらかしたいに決まってるじゃないか。
「くどい」
そう短く答えてお城の前の花壇の側のベンチに座る。
綺麗に花が植えられたそこは昼間はともかくこの寒空の中座っている人はほとんど居ない。
ぬいぐるみを横に置いて立っている彼に対して反対側をぺちぺち叩いた。
「えー、寒いじゃん」
石で出来たそれは確かに冷たいけどぐっと睨みコートの裾をぐいぐい引っ張れば彼は諦めて隣に座った。
鞄から携帯を取り出して時間を確認する。
お城が見えるそこからそのライトアップされた先を見る。
音楽が突然鳴って大きな音と共に空が明るくなる。
大輪の色とりどりの花が雲ひとつない濃紺の空に咲き乱れる。
「……花火だ」
ぽつりと呟く彼の顔を見つめる。
照らされてそれはよく見えて子供のような顔に吹き出した。
今日の彼は変だった。
本質的な所は変わらないけど今までと違った。
何て言うかそれは子供みたいだった。
我儘を言われていると気付いたのはあの射的の所だった。
甘えられてると気付いたのは食べようと思ったホットドッグを食べられた時だった。
それでも結局最後は私の為に喜ぶ事をしてくれた彼を特等席で見せてあげたかった。
15分もしないうちに花火はあっという間に散ってしまって空は濃紺に戻る。
ライトアップを止めていたお城にそれが戻り写真を取るお客さんが集まってくる。
「ねぇ、今度来る時はカメラ持ってこようね」
子供っぽく甘えて我儘を言う彼に敬語を使うのは馬鹿馬鹿しくてそう告げるとちょっと驚いた顔をしてから笑った。
いつもの安心させるような笑顔。
「それから、今年はもっと佐久間礼を知ろうと思うの」
空を眺めていた顔を彼に向ける。
その顔は困ったようなそれでいて嬉しいような複雑な顔をしていた。
「もっと礼の仕事や気持ちをちゃんと知って、貴方に相応しい女になる。朝は大見栄切ったけどまだ一緒に居るには力不足だと思う」
ポケットに入っていた彼の手が私の頬にあたる。
暖かいなぁって思いながら笑みを浮かべる。
そんなに不安そうな顔しないで欲しい。
大丈夫だから、絶対負けないから。
「だから、ずっと一緒に居ようね」
第五話 彼と私と遊園地 完
ブックマークと評価と感想ありがとうございます。
そして見に来てくださってる方も本当にありがとうございます。
実は結構頻繁にチェックしてにやにやしています。
この場をお借りして厚く御礼申し上げます。
本編より長くなりそうですが、ごめんなさい、まだ結構続きます。




