ツンデレ商人の『反脆弱性』ビジネス。三か国の軍隊を「胃袋とチート薬」で完全掌握しました
ツンデレ商人の『反脆弱性』ビジネス。三か国の軍隊を「胃袋とチート薬」で完全掌握しました
「ねーちゃん、儲かりまっか!」
カランコロン! と勢いよく店舗のドアが開き、ニャングルが両手に抱えきれないほどの麻袋を引きずって入ってきた。
『セリア薬局』がオープンしてから二週間。店は連日、ポポロ村の住人たちで大賑わいだったが、今日のニャングルのテンションは異常だった。
「ドサッ!」と重たい音を立ててカウンターに置かれた麻袋の口から、キラキラと輝く銀貨や金貨が溢れ出した。
「ええっ!? ニャングルさん、これ、どうしたんですか!?」
「どうしたもこうしたもあらへん! ねーちゃんの作ったチート薬の売上や! ほれ、こっちの袋も、あっちの袋も全部やで!」
ニャングルの背後から、ポポロ村で雇われたおばちゃんたちが、次々と金貨の詰まった袋を運び込んでくる。
セリアは目を丸くして、自分の【ドラッグストア工房】のパネルを確認した。
売上に比例して、ポイントが爆発的に増え続けている。すでに初期ポイントの何十倍もの数値だ。
「いくらなんでも、村の皆さんだけでこんなにたくさんお薬を買うはずが……」
「アホやな、村の連中相手だけの商売ちゃうわ! ワイが目をつけたのは、このポポロ村を取り囲む『三か国の軍隊』や!」
ニャングルは愛用の魔導黒檀算盤をカチャッと弾き、ドヤ顔で胸を張った。
ポポロ村は、ルナミス帝国(人間)、レオンハート獣人王国(獣人)、アバロン魔皇国(魔族)の国境が交わる緩衝地帯だ。村の周囲には、互いを牽制するために各国の警備部隊が常に駐屯している。
「あの連中、いっつも最前線でピリピリしとるやろ? 特にルナミス帝国軍の兵士なんか、前線じゃ『ゲロオムレツ』とかいうタイヤみたいに不味い支給食を食わされとる。そこでワイは閃いたんや!」
ニャングルが展開したのは、ポポロ村のおばちゃんたちを大量雇用して作る『三か国対応・ポポロ村お弁当宅配サービス(通称:ルナ・イーツ辺境版)』だった。
「ルナミスの兵士には、強烈なニンニクとシープピッグの背脂を効かせた『二郎系マシマシ弁当』に、ねーちゃんの【超強力・胃腸薬】をセットにして売ったんや! 不味い軍用食で荒れた胃も治るし、スタミナもつくから兵士は涙流して買っとるで!」
「じ、二郎系……胃腸薬……なるほど、理にかなっていますね」
「レオンハートの獣人兵には『バイソンの極厚ステーキ弁当』と、ねーちゃん特製の【極楽・冷感湿布】のセットや! 獣人の熱しやすい闘気をクールダウンさせるのに最適やと、隊長クラスが箱買いしとる!
アバロンの魔族兵には『赤ワイン煮込み』と、ねーちゃんが出した【高級スキンケア化粧水】をセットや! 魔族の女騎士や将軍連中が『戦場の乾燥肌に効く!』って狂喜乱舞してリピーターになっとるわ!」
ニャングルの言う通り、セリアが【ドラッグストア工房】で何気なく出した日用品や市販薬は、最前線で過酷な環境に身を置く兵士たちにとって、まさに『神の恩恵』に等しかった。
「三か国が小競り合いをして疲弊すればするほど、ワイらの弁当とねーちゃんの薬がバカ売れする! 争い(カオス)を利益に変える、これぞ究極の『反脆弱性』ビジネスやで!!」
カチャカチャカチャカチャッ!!
ニャングルの算盤が、摩擦で火を吹きそうな勢いで弾かれる。
損得勘定と強欲の塊のような男だが、その実、利益はしっかりとおばちゃんたち(村の労働者)に還元しており、村全体の経済を回しているのだから大したコンサルタントだ。
「すごいですね、ニャングルさん……! 困っている兵士さんたちの健康も守れて、村のみんなも豊かになるなんて、最高のお薬の使い道です!」
セリアが手放しで絶賛すると、ニャングルは「へへっ」と照れくさそうに猫耳をピコピコと動かした。
「……まぁ、ねーちゃんが最初にワイを無償で助けてくれた、あの『打算なきアホみたいな優しさ』の分くらいは、キッチリ利子つけて返したるっちゅうこっちゃ」
ニャングルがそっぽを向いた、その時。
「——ええ、全く見事な手腕です。法務省の人間としても、舌を巻くしかありませんね」
調剤室の奥から、分厚い帳簿の束を抱えたクロードが姿を現した。
彼は片手で胃の辺りを押さえながらも、その青い瞳にはニャングルへの明確な感賛の色が浮かんでいた。
「ニャングル。あなたが構築したこのシステム……ただの金儲けではありませんね? これにより、ポポロ村は軍事的な『絶対不可侵領域』になりました」
「へっ、お役人サマにはバレとったか」
ニャングルがニヤリと笑う。
セリアはきょとんとして二人の顔を交互に見比べた。
「えっと、どういうことですか、クロード様?」
クロードはセリアに向き直り、一つ咳払いをして解説を始めた。
「簡単なことです。今や三か国の兵士たちは、セリア嬢の薬と、この村の弁当なしでは前線での正気を保てない体になっています。もし、どこかの国の上層部が『ポポロ村を武力で制圧しろ』と命令を下したとしても……現場の兵士たちが『セリア薬局の薬が買えなくなるなら反乱を起こす!』と猛反発するでしょう」
つまりニャングルは、セリアの薬を『人質』……いや、『命綱』として三か国の胃袋と健康を掌握し、武力に頼らない完璧な防衛網(胃袋安全保障条約)を作り上げたのだ。
「なるほど……! ニャングルさん、天才ですね!」
「おうよ! 喧嘩なんてアホのすることや。血を流すくらいなら、銭と美味い飯を流せっちゅうこっちゃ!」
ニャングルが高笑いする中、クロードはスッとセリアの横に立ち、彼女が薬をすり潰すために持っていた乳鉢と乳棒を静かに取り上げた。
「あ、クロード様? まだ調合の途中……」
「いけません」
クロードの真剣な声に、セリアはビクッと肩を揺らした。
「帝国労働基準法、第32条。あなたは今朝から4時間ぶっ通しで薬の調合を続けています。過労は万病の元……あなたがいなくなっては、私の胃痛を誰が治すというのですか」
「えっ、でも、注文がたくさん……」
「注文の管理と納期調整は、コンサルタントであるニャングルの仕事です」
クロードは冷ややかな視線でニャングルを射抜いた。
「いくら利益が出ようとも、セリア嬢を過労死させるようなブラックな労働環境は、この監察官である私が法的に決して許しません。ニャングル、今日の注文はここまでです。これ以上の発注は『在庫切れ』として突っぱねなさい」
「チッ、お役人サマは過保護でいかんなぁ。しゃあない、今日は店じまいや!」
ニャングルは肩をすくめながらも、嬉しそうに金貨の袋を奥の金庫へと運び始めた。
クロードは「はぁ」といつものため息をつくと、用意していた温かいハニーかぼちゃの紅茶が入ったカップを、セリアの手にそっと握らせた。
「さぁ、休憩にしましょう。お茶請けに、タローソンで買ってきた甘いお菓子もありますから」
「……ふふっ。ありがとうございます、クロード様」
「勘違いしないでください。あなたが倒れたら、報告書を書く私の仕事が増えるから言っているだけです」
そっぽを向くクロードの耳は、やはりほんのりと赤い。
セリアは温かい紅茶を飲みながら、この優しくて頼もしい仲間たちとの、辺境での幸せな生活を噛み締めていた。
だが。
ポポロ村での『セリア薬局』の異常な大成功の噂は、風に乗り、確実に王都へと届き始めていた。
セリアが去った後のルナミス帝国では、彼女が密かに管理・調合していた特効薬のストックが底を尽き、王太子アルベルトの元に各所から悲鳴と苦情が殺到していることなど、今のセリアは知る由もなかった——。
第5話をお読みいただき、ありがとうございます!
ニャングルのえげつない(でも誰も不幸にならない)ビジネスモデルが炸裂しました!
三か国の軍隊を「マシマシ弁当」と「チート薬」で依存させ、絶対に村に手を出させないという『反脆弱性ビジネス』。ニャングル、最高のコンサルタントです!
そして、相変わらずセリアを休ませることに全力を注ぐ過保護なクロード。
「ブラックな労働環境は、俺(法務省)が許さない!」という心強いヒーローのおかげで、前世で過労死したセリアも、今世ではホワイトなスローライフを満喫できそうです。
しかし、ラストで不穏な影が……。
セリアを手放した王都側が、いよいよ薬不足で破綻(ざまぁの足音)し始めます!
「ニャングルの商売上手、スッキリした!」「クロードの不器用な優しさが尊い!」「王太子側の自滅が楽しみ!」
と思っていただけましたら……!
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次回、王都側の焦りと、ポポロ村への不当な圧力が迫ります。お楽しみに!




