理不尽を許さぬ剣と、恋する乙女。不器用な監査官の気高い背中に、私はもう夢中です
理不尽を許さぬ剣と、恋する乙女。不器用な監査官の気高い背中に、私はもう夢中です
ガキィィィィィィィンッ!!!!
火花が散り、甲高い金属音がポポロ村の広場に木霊した。
近衛騎士団長ガルドが、セリアの細い肩めがけて無慈悲に振り下ろした大剣。それを、突如として間に割って入ったクロードが、たった一本の細身のミスリル剣で完全に受け止めていた。
「なっ……!?」
ガルドの獣の瞳が、驚愕に見開かれた。
獅子の獣人である彼が渾身の力で振り下ろした一撃は、並の騎士なら盾ごと粉砕されるほどの威力がある。しかし、目の前のプラチナブロンドの青年は、表情一つ変えずに片手でその凶刃を押し留めているのだ。
「……何の罪もない市民に対し、暴力で屈服を強いる。その理不尽の極み……法務省の監察官として、そして私個人の正義として、絶対に許しません」
クロードの青い瞳が、吹雪のように冷たい怒りに燃えていた。
彼の足元から、チリチリと白い冷気が立ち上り、真夏であるはずの広場の空気が急激に凍てついていく。剣を交えた部分から、霜がガルドの大剣へと這い上がり始めた。
「き、貴様っ! ただの帝国の役人風情が、我らレオンハート近衛騎士団に盾突く気か!」
ガルドが吠え、さらに力を込めて剣を押し込もうとする。
「ただの役人、で結構です」
クロードは涼しい顔で、剣の軌道を僅かにずらした。
「ですが、法の番人たる私が、野蛮な獣の暴力に屈するわけにはいきません」
シュンッ! と、クロードが手首を返した瞬間。
ガルドの巨体が、自らの力に引っ張られるようにして大きく体勢を崩した。
その隙を逃さず、クロードは剣の腹でガルドの胸当てを軽く叩き、後方へと大きく弾き飛ばした。
「ぐおっ!?」
ズザザザッ! と土煙を上げて後退するガルド。周囲に控えていた近衛騎士たちが、慌てて武器を構え直す。
「クロード、様……」
背後で腰を抜かしかけていたセリアは、息を呑んでその背中を見つめていた。
クロードは剣の切っ先を地面に垂らし、ゆっくりと振り返った。
「怪我はありませんか、セリア嬢」
「は、はい……。クロード様のおかげで、助かりました」
クロードは小さく息を吐き、いつものように片手で胃の辺りを押さえた。
「……全く。あなたという人は、どうしていつも後先考えずに無茶をするんですか。あんな大男の剣の前に丸腰で飛び出すなんて……寿命が縮まりましたよ。私の胃が」
「ご、ごめんなさい……。でも、キャルルさんが連れて行かれそうになって、私、どうしても我慢できなくて……」
セリアが俯くと、クロードは困ったように眉を下げた。
「……あなたのそういう『誰であろうと見捨てられない』お人好しな部分は、美徳であり、最大の弱点でもあります」
クロードは再び前を向き、冷酷な獣人たちを真っ直ぐに見据えた。
「ですが、私はその『優しさ』を、理不尽な暴力で踏みにじるような輩を……反吐が出るほど憎んでいる」
クロードの放つ気高い殺気。
彼は、セリアという『女性』にデレデレして剣を抜いたのではない。
たとえ相手が誰であろうと、権力や暴力で弱者を蹂躙する『理不尽』そのものに対する、強烈な義憤。それこそが、争いを嫌う彼が自らのトラウマである剣を抜く、唯一の理由だった。
(……ああ。やっぱり、クロード様は……とっても、素敵だわ)
セリアの胸の奥で、トクン、と大きく心臓が跳ねた。
普段は「胃が痛い」「書類仕事が増える」と理屈ばかり並べている不器用な青年。けれど、いざという時には恐怖を押し殺し、誰よりも強い信念を持って弱きを守るために立ち上がってくれる。
その気高く、圧倒的に頼もしい背中を見た瞬間、セリアの目には彼が『物語の白馬の騎士』のようにキラキラと輝いて見えていた。
顔が熱い。心臓の音がうるさい。恐怖など、彼が前に立ってくれた瞬間に完全に消え去っていた。
(私……クロード様のこと、本当に、大好き……!)
恋する乙女のフィルターは、今や分厚い防弾ガラス並みの強度を誇っていた。
「……ふん。この男、心音が『理不尽は許さないマン』になってる。セリアさんの前でカッコつけちゃってさ」
キャルルがジト目でクロードの心音を読み取りながら、小さく毒づいた。
だが、その目には確かな感謝の色も浮かんでいた。
(でも……セリアさんを守ってくれたことだけは、認めてあげる)
「貴様ら……調子に乗るなよ!」
体勢を立て直したガルドが、怒りで顔を真っ赤にして咆哮した。
「帝国の役人ごときが、他国の騎士団を攻撃したのだぞ! これは我がレオンハートへの明確な宣戦布告と受け取る!」
「宣戦布告? 笑わせないでください」
クロードは冷ややかな声で一刀両断した。
「ここはルナミス帝国、レオンハート獣人王国、アバロン魔皇国の三か国協定によって定められた『不可侵の緩衝地帯』です。……所属国の承認も得ず、無断で武装部隊を侵入させ、あまつさえ市民の殺害を企てた。宣戦布告を行ったのは、あなた方の方だ」
クロードは空いている左手で、懐から分厚い『六法全書』を取り出した。
「三か国協定違反。並びに帝国法に基づく不当要求および殺人未遂。……あなた方の所属する国へ、法務省から正式な抗議と『莫大な損害賠償』を請求させていただきます」
「なっ……! 小賢しい法律を盾にするか!」
ガルドがギリッと奥歯を噛み締めた、その時だった。
「おーうおうおう! 法律だけやないで、脳筋の獣さんたちや!」
カチャカチャカチャッ!
軽快な算盤の音とともに、薬局の窓からニャングルが身を乗り出した。
「ワイはポポロ村の財務コンサルタント、ゴルド商会のニャングルや! お前らがこの村に牙を剥くっちゅうことは、この村から『三か国対応・ポポロ村お弁当宅配サービス』および『特効薬の流通』を完全にシャットアウトされるっちゅうことやで!」
「な、なんだと!?」
「今、前線で戦っとるお前らレオンハートの兵士たちはな、この村の『極楽・冷感湿布』と『特製バイソン弁当』なしじゃ、一日たりとも正気を保てん体になっとるんや! それを完全ストップされたら……部下の兵士たちが暴動を起こすのは火を見るより明らかやなぁ!」
ニャングルのえげつない『経済制裁(兵糧攻め)』の宣告に、近衛騎士たちの顔色が一斉に青ざめた。
昨晩のキャルルのヤキ入れ(完全回復)でドM覚醒した兵士たちの狂信ぶりを、彼らも道中で嫌というほど見せつけられていたのだ。この村を敵に回せば、内部から軍が崩壊する。
クロードの【法律】と、ニャングルの【経済】。
二つの完全な包囲網によって、傲慢な近衛騎士団は完全に退路を断たれた。
「くっ……! おのれぇぇぇっ! 辺境のゴミ共が、揃いも揃って小賢しい真似を!」
ガルドは怒りで全身の毛を逆立て、完全に理性を失っていた。
「こうなれば手段は選ばん! ええい、村ごと焼き払い、この場にいる全員の口を塞げば証拠は残らん! 使え! アレを使え!!」
ガルドが狂ったように叫ぶと、後方にいた騎士たちが、幌馬車から『何か』を引きずり出してきた。
「あれは……っ!」
クロードが目を細める。
それは、黒い金属で覆われた巨大な大砲のような兵器だった。砲身には禍々しい赤い紋様が刻まれ、周囲の魔力を強引に吸い上げている。
「闇市場で取引されている、違法な広域魔導殲滅兵器……! 騎士団の分際で、あんなものまで持ち出しているとは!」
「ギャハハハハ! 灰になれ! 貴様らも、その忌々しい村も、全て焼き尽くしてやる!」
ガルドの号令とともに、魔導兵器の砲口に、灼熱の炎の塊が収束していく。
それが放たれれば、ポポロ村は一瞬にして火の海と化すだろう。
「させない……っ!!」
その時。
クロードの後ろから、強烈な紫電の雷光が弾けた。
「私の親友と、大切な村に手を出すなァァァァッ!!」
特注の安全靴に仕込まれた『雷竜石』を解放し、全身に紫電と怒りの闘気を纏ったキャルルが、前に躍り出た。
彼女の目は、ヤンデレ親友を守るための『最強の防衛装置』として、完全にスイッチが入っていた。
「クロード! 援護して!」
「……ええ。監査官への呼び捨ては減点対象ですが、今は目を瞑りましょう」
理不尽を決して許さない氷魔法剣士と、親友を傷つける輩は絶対に許さない雷神の月兎。
傲慢な獣たちに引導を渡す、第二章最大のバトルが、今、火蓋を切った。
第7話をお読みいただき、ありがとうございます!
ついにクロードが剣を抜きました!
「私が憎むのは、弱者を虐げる理不尽だ」。
セリアにデレデレだから助けたのではなく、あくまで自分の信念と正義のために戦うクロード。その不器用で気高い姿に、セリアの恋心は完全にヒーローを見るようなキラキラ状態です!
(一方のキャルルには、心音で「セリアの前でカッコつけちゃって」とバレバレですが笑)
そして、クロードの『三か国協定違反(法律)』とニャングルの『特効薬の輸出停止(経済)』による、完璧な追い込み漁!
知略で完全に論破された騎士団は、ついにヤケを起こして違法な魔導兵器を暴走させます!
次回、クロードの絶対零度のサポートと、激怒したキャルルの最終奥義『超電光流星脚(スーパー・ライトニング・メテオ・ストライク)』が炸裂します!
ド派手な物理ざまぁにご期待ください!
「クロードかっこいい!」「セリアのトキメキが止まらない!」「ニャングルの経済封鎖えげつない(褒め言葉)!」
と思っていただけましたら……!
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皆様の星(評価)が、キャルルの雷撃キックの威力をマッハ2まで引き上げます!
痛快な決着へ向かう第8話も、絶対にお見逃しなく!




