傲慢な近衛騎士団と、私の大切な居場所。彼女を道具呼ばわりする輩は、私が許しません!
傲慢な近衛騎士団と、私の大切な居場所。彼女を道具呼ばわりする輩は、私が許しません!
重厚な金属の擦れる音が、平和だったポポロ村の中央広場に重く響き渡っていた。
「……出迎えご苦労。我々はレオンハート獣人王国・近衛騎士団である。我らが第三姫君、キャルル・ムーンハート殿下をお迎えに上がった」
獅子の獣人であり、近衛騎士団長を務める男――ガルドは、傲慢に顎を反らしながら『セリア薬局』の前に立ち塞がった。彼の背後には、白銀の重鎧に身を包んだ数十人の精鋭騎士たちが、感情の読めない冷たい目で村人たちを威圧している。
薬局の扉がゆっくりと開き、中からキャルルが姿を現した。
普段はピンと立っている大きなウサギ耳が、今は恐怖と緊張でペタンと頭に張り付いている。
「……ガルド団長。どうして、ここが……」
「我々の情報網を甘く見ないでいただきたい、キャルル殿下。冒険者の真似事などをして身分を隠していたようですが、昨晩の『満月の暴走』で、派手な雷光と月兎族の治癒能力を見せびらかしたではありませんか。おかげで、あっさりと居場所が割れましたよ」
ガルドの口元が、嘲笑うように歪む。
「それにしても……呆れましたな。王家の血を引く至高の存在が、このような薄汚い辺境の村で、下民どもと店番の真似事とは。王家の威信を泥に塗るおつもりか?」
「ここは薄汚い村なんかじゃないっ! みんな温かくて、私を『ただのキャルル』として見てくれる、大切な私の居場所だもん!」
キャルルが声を張り上げて反論するが、ガルドはフッと鼻で笑った。
「居場所、ですか。ままごとも大概になさってください。殿下、貴女は『月兎族』の王族なのですぞ? その無尽蔵の治癒能力は、他国との戦争において我が軍を無敵にするための『最高の兵器』であり、国の財産だ。貴女の自由意思など、最初から存在しないのです」
ガルドの言葉は、氷のように冷たく、キャルルの心を容赦なくえぐった。
国にいた頃、キャルルは常に籠の中の鳥だった。
周囲の大人たちの心音から聞こえてくるのは、「姫の機嫌をとって力を利用しよう」「戦争が起きれば、彼女を後方に置いて死ぬまで回復魔法を使わせよう」という、どす黒い欲望と打算ばかり。
誰も、キャルルの痛みや心に寄り添おうとはしなかった。
だから、逃げ出したのだ。
自分の命をすり減らしてまで、他人の欲望のための『便利な道具』になるのが嫌だったから。
「私は……戻らない。お父様にも、戦争の道具にもならない。……私は、ポポロ村の村長だもん!」
キャルルが必死に虚勢を張って睨みつけると、ガルドの顔からスッと笑みが消えた。
「……そうですか。どうやら、辺境の下民どもに吹き込まれ、すっかり頭が毒されてしまったようだ」
ガルドはチャキッ……と、腰に提げた長剣の柄に手をかけた。
背後に控える騎士たちも一斉に武器に手をかけ、広場の空気が一気に張り詰める。
「ならば、少々荒療治が必要のようですね。我々は王命により、殿下を『無傷で』連れ戻すよう仰せつかっております。……しかし、殿下をたぶらかしたこの村の連中をどう扱えとは、一切指示されておりません」
「っ!? なに、言ってるの……?」
「簡単なことです」
ガルドは凶悪な獣の牙を剥き出しにし、残酷な笑みを浮かべた。
「殿下が大人しく我々に同行しないというのであれば、この村ごと焼き払いましょう。安心してください、殿下が頷くまで、村人どもを一人ずつ『説得』して差し上げますから」
「そんなっ……! 村のみんなは関係ないでしょ! やめて!!」
キャルルの顔面から血の気が引いた。
(私のせいで……私のせいで、大好きな村のみんなが、セリアさんが傷つけられちゃう……!)
キャルルは、ガタガタと震える両手を強く握りしめた。
このままでは、ポポロ村が火の海になる。それだけは、絶対に避けなければならない。
「わ、わかった……! 私が、私が帰ればいいんでしょ! だから、村の人たちには手を出さないで……っ!」
キャルルが涙を浮かべながら、絶望とともに一歩前に踏み出そうとした、その時。
「ダメです!!」
ドンッ! と。
薬局の中から飛び出してきたセリアが、キャルルの前に両手を広げて立ち塞がった。
「セ、セリアさん!?」
「キャルルさんは、どこにも行きません! あなたたちには、絶対に渡しません!」
セリアは、大柄な獣人の騎士たちを前にして、足の震えを隠せずにいた。前世はただの薬剤師であり、戦闘経験など皆無の彼女にとって、本物の殺気を放つ騎士団は恐ろしくてたまらない。
それでも、セリアは一歩も引かなかった。
「なんだ、貴様は。下民の女が、近衛騎士団に盾突く気か?」
ガルドが不快げに眉をひそめる。
「私はセリア。この薬局の店主で、キャルルさんの『大親友』です!」
セリアは、恐怖で声を震わせながらも、はっきりと宣言した。
「キャルルさんは、自分が血を吐いてでも他人を助けようとする、誰よりも優しくて、お人好しな女の子です。……そんな彼女の優しさを利用して、戦争の道具にしようなんて、絶対に間違っています!」
「ふん。王族の義務を解せぬ平民が、偉そうに口を挟むな。月兎族の力は、国のために使われてこそ価値があるのだ」
「価値なんて、他人が決めるものじゃありません!」
セリアは、ガルドの傲慢な言葉を真っ向から否定した。
「彼女は、道具じゃない! 一緒にお茶を飲んで、クッキーを食べて、笑い合える……私たちの大切な家族です! 嫌がっているキャルルさんを、無理やり連れ去るような理不尽は、私が絶対に許しません!」
その痛切な叫びに、キャルルの目からボロボロと涙が溢れ出した。
(セリアさん……。なんで、こんなに怖い思いをしてまで、私を庇ってくれるの……。私なんかのために、どうして……っ)
キャルルには分かっていた。
セリアの心音からは、微塵の計算も嘘も聞こえない。ただ純粋に、理不尽に虐げられようとしている親友を守りたいという、海のように深く、温かい無償の愛だけが響いているのだ。
「……ほぅ。言うではないか、小娘」
ガルドは低い唸り声を上げ、その瞳に明確な『殺意』を宿した。
「ならば、貴様からだ。殿下をたぶらかした元凶である貴様を血祭りに上げれば、殿下もご自身の立場を理解するだろう」
チャキッ! と金属音が鳴り、ガルドが長剣を完全に鞘から抜き放った。
鋭い刃が、太陽の光を反射してギラリと光る。
「キャルル殿下、よく見ておくことだ。貴女が身勝手な自由を求めたせいで、この女がどういう末路を辿るかをな!」
ガルドが長剣を振り上げ、セリアに向かって無慈悲に踏み込んだ。
「セリアさんっ! 逃げてぇぇぇっ!!」
キャルルが絶叫する。
死の刃が、セリアの細い肩に振り下ろされようとした——まさにその瞬間だった。
「——帝国法第8条。自己または他人の生命に対する急迫不正の侵害に対し、やむを得ず行う行為は、これを罰しない」
スッ……と。
セリアの視界を遮るように、見慣れた長身の背中が割り込んだ。
ガキィィィィィィィンッ!!!!
鼓膜を突き破るような甲高い金属音と、激しい火花が散った。
「なっ……!?」
ガルドが驚愕に目を見開く。
彼が渾身の力で振り下ろした大剣を、突如現れたプラチナブロンドの青年が、たった一本の細身の剣で、いとも容易く受け止めていたのだ。
「……なんの罪もない市民に対し、暴力で屈服を強いる。その理不尽の極み……」
クロード・ランカスター。
普段は胃弱で争いを好まない法務監察官の青い瞳が、吹雪のように冷たい怒りに燃えていた。
彼の足元から、チリチリと白い冷気が立ち上り、真夏の広場の空気が急激に凍てついていく。
「法務省の監察官として、そして私個人の正義として。……私の大切な人たちを理不尽に傷つける輩は、絶対に許しません」
圧倒的な威圧感と、絶対零度の殺気。
純情で不器用な氷魔法剣士が、再びその忌まわしき剣を抜いた。
第6話をお読みいただき、ありがとうございます!
傲慢な獣人騎士団の襲来!
キャルルを「便利な回復道具」としか見ていないガルド団長の理不尽な要求に、キャルルは村を守るために自らを犠牲にしようとします。
しかし、それを全力で止めたのがセリアでした!
「彼女は道具じゃない! 私の大切な大親友です!」
震える足で立ち塞がるセリア。打算のない心音を聞いたキャルルのヤンデレ(激重親愛)メーターは、もう振り切れて宇宙まで飛んでいきそうです!
そして、セリアの絶体絶命のピンチに、ついに我らがヒーロー、クロードの登場です!
「理不尽は絶対に許さない」。
セリアにデレデレだから助けたわけではありません。この理不尽な暴力に対する『静かで冷たい怒り』こそが、クロードの真骨頂です。
(とはいえ、セリアからの好感度はまたしてもストップ高間違いなしですが!)
次回、ついにクロードの【法律】と【氷魔法】が傲慢な騎士団に牙を剥きます!
そして、怒れる親友・キャルルも黙ってはいません!
「セリアかっこいい!」「キャルル泣かないで!」「クロードの登場タイミング最高!」
と思っていただけましたら……!
ぜひ、画面下(または上)にある、
【ブックマークに追加】と、
【☆☆☆☆☆】(評価ポイント)を【★★★★★】にして応援していただけると、最高に嬉しいです!
皆様の星(評価)が、クロードの絶対零度の威力を極限まで高めます!
痛快な反撃が始まる第7話も、絶対にお見逃しなく!




