覚醒!最強の氷魔法剣士。絶対零度の刃の前では、どんな理不尽な魔獣もただの氷の彫像です
覚醒!最強の氷魔法剣士。絶対零度の刃の前では、どんな理不尽な魔獣もただの氷の彫像です
「ギィィィィィヤァァァァァッ!!」
右腕の巨大な鎌を切断された『死蟷螂機』が、苦痛と怒りに満ちた絶叫を上げた。
赤い複眼が凶悪な光を放ち、残された左腕の鎌と、背中の巨大な羽を猛烈な勢いで羽ばたかせる。
ブブブブブブッ!!
空気を切り裂くようなおぞましい羽音とともに、魔獣はその巨体に似合わぬ超高速で宙をジグザグに飛び回り始めた。
人間の動体視力では、もはやその姿を追うことすら難しい。
「い、いけぇぇっ! ネクロバグ! その生意気な役人をミンチにしてやれ!!」
遠くでへたり込みながら、ゲルトが血走った目で叫ぶ。
「クロード様っ!」
セリアが思わず声を上げるが、当のクロードは、雪のように冷たい眼差しで宙を舞う魔獣を静かに見据えていた。
「……速度に任せた攪乱攻撃ですか。単調な上に、無駄な動きが多すぎる」
クロードが手にした白銀のミスリル剣。その刀身から、チリチリと白い冷気が立ち上り、周囲の空気を次々と凍結させていく。
真夏のポポロ村に、季節外れの粉雪が舞い始めた。
「帝国法において、警告を無視し、他者の生命を脅かし続ける極めて悪質な犯罪者には——武力による強制執行(制圧)が許可されています」
クロードが一歩、静かに足を踏み出した。
その瞬間。
ピキィィィンッ!!
クロードの足元から放射状に、大地の水分が一瞬にして凍りつき、巨大な氷の魔法陣が展開された。
魔獣の超高速移動によって生じていた突風が、絶対零度の冷気によって完全に相殺され、動きが鈍る。
「ギシィッ!?」
想定外の冷気に魔獣が怯んだ、その僅かな隙を、クロードは見逃さなかった。
「——遅い」
フッ、とクロードの姿がブレたかと思うと、次の瞬間には、宙に浮かぶ魔獣の目の前に跳躍していた。
重力を無視したかのような、美しく、そして神速の踏み込み。
「ギァァッ!」
死蟷螂機が迎撃しようと、残された左腕の鎌を振り抜く。
しかし、クロードのミスリル剣が、その大鎌の側面に軽く触れた瞬間。
カキィィンッ!
「……ッ!?」
剣と鎌が交差した部分から、凄まじい勢いで氷の結晶が増殖し、魔獣の左腕を一瞬にして分厚い氷塊の中に閉じ込めてしまった。
「武器の差し押さえは完了しました。続いて、身柄を拘束します」
クロードが空中で身を翻し、剣の柄で魔獣の胴体を軽く突く。
ただそれだけで、魔獣の強固な外殻に絶対零度の魔力が流し込まれ、巨大な羽から胴体、そして脚に至るまで、メリメリと音を立てて氷河に飲み込まれていく。
「ギ、ギギギ……ギシィィ……ッ」
機械と生肉が融合したおぞましい魔獣が、瞬く間に美しい白銀の『氷の彫像』へと変わっていく。
地面にズシンッと落下した魔獣は、もはや指一本、羽一枚すら動かすことができない。完全な氷漬けだった。
「ひっ……! 嘘だ、嘘だろ!? あのネクロバグが、何もできずに……!」
ゲルトがガタガタと震えながら、信じられない光景に絶望の声を漏らす。
ルナミス帝国剣術大会において、圧倒的な力で他を寄せ付けず優勝した『最強の剣士』。その真の実力は、辺境の商人が闇市場で手に入れた兵器ごときでどうにかなる次元のものではなかったのだ。
「これで終わりです。……罪を雪ぎ、永遠に凍てつきなさい」
クロードが、地上に着地すると同時に、氷漬けになった魔獣に向けて、静かに剣を振り下ろした。
——パキィィィィィンッ!!!
澄み切った、まるで最高級のグラスを打ち鳴らしたような美しい音が響いた。
次の瞬間。
5メートルを超える巨大な魔獣の氷像が、内側から弾け飛ぶようにして、無数の細かな氷の結晶となって砕け散った。
キラキラと、太陽の光を反射して輝く氷の粉雪が、ポポロ村の空に舞い散る。
グロテスクだった魔獣の肉片も、鋼鉄の装甲も、すべてが絶対零度の魔力によって浄化され、跡形もなく消え去っていた。
「……す、すげぇ……」
瓦礫の中から這い出してきたニャングルが、ポカンと口を開けてその光景を見上げていた。
「なんやあの剣技と魔法……。圧倒的すぎるで。あんなモン、算盤で計算できる戦力ちゃうわ……」
圧倒的な暴力の死神を、たった一振りの剣と美しき氷魔法で退けたクロード。
彼は残心を解くと、手にしたミスリルの剣をカチャリと鞘に納めた。
その瞬間、周囲を包んでいた刺すような冷気と、張り詰めた氷の殺気が嘘のようにフッと消え去った。
「セリア嬢!」
振り返ったクロードの顔には、先ほどまでの冷酷な『最強の剣士』の面影は微塵もなかった。
彼は血相を変えてセリアの元へと駆け寄ると、彼女の肩を両手でガシッと掴んだ。
「怪我はありませんか!? どこか痛むところは! あの俗物が暴れたせいで、破片が飛んできたりしませんでしたか!?」
「ク、クロード様、落ち着いてください。私は大丈夫です、かすり傷一つありませんから」
セリアが慌てて無事をアピールすると、クロードは「……よかった」と深く深く息を吐き出し、そのままガクンと膝をついてしまった。
「えっ!? クロード様!?」
「……はぁ、ダメです。あなたに万が一のことがあったらと思うと……極度の緊張で、猛烈に胃が痛くなってきました……。薬、胃薬をください……」
クロードは片手で胃の辺りを強く押さえ、情けない声で呻いている。
(あんなにかっこよく魔獣を倒したのに、真っ先に私の心配をして、胃を痛めてるなんて……)
セリアは【ドラッグストア工房】から急いで胃薬を取り出し、水筒とともに彼に手渡した。
薬を飲み込み、「……少し、マシになりました」と息を吐くクロードの顔を、セリアはじっと見つめた。
少し乱れたプラチナブロンドの髪。
端正で美しい顔立ち。
普段は理屈っぽくて、すぐに法律と胃痛を言い訳にする不器用な人。
でも、セリアが理不尽な目に遭えば、誰よりも怒り、絶対に守り抜いてくれる、過保護で優しすぎる人。
(……ああ、そっか。私……)
セリアの胸の奥で、カチリと何かがはまる音がした。
前世からずっと、誰かのために自分の身を削って生きてきた。婚約破棄された時も、悲しいというより「また自分の努力が報われなかった」という虚無感の方が強かった。
けれど今、目の前で自分のために胃を痛めているこの青年の姿が、どうしようもなく愛おしい。
『私の大切な人』。
先ほど、クロードが魔獣を前にして放った言葉が、セリアの頭の中で何度もリフレインしていた。
(私、クロード様のことが、好きになっちゃったんだ……)
ドクン、ドクンと高鳴る心臓の音を誤魔化すように、セリアはクスッと微笑み、膝をつくクロードの背中を優しく撫でた。
「クロード様、本当にお疲れ様でした。あなたのおかげで、私は助かりました」
「……当たり前です。私の監視対象であるあなたを、あんな三流のならず者に奪われるわけにはいきませんからね。……それに」
クロードは少し顔を背け、耳を真っ赤に染めながら小さな声で付け足した。
「あなたが作ってくれる胃薬がないと、私は明日から生きていけませんし」
「ふふっ。はい、一生分でも作ってあげますよ」
甘い空気が二人の間に流れる中、
「お、おい! お役人サマ、ねーちゃん! イチャイチャしとる場合ちゃうで! あのおっさん、逃げようとしとるわ!」
ニャングルの怒声で、二人はハッと我に返った。
見れば、自慢の魔獣をあっさりと粉砕され、完全に心が折れたゲルトが、這いつくばりながら森の方へ逃走しようとしているところだった。
「……おっと、そうでした。一番の元凶の掃除がまだ残っていましたね」
クロードがゆっくりと立ち上がり、冷酷な法務監察官の顔に戻って、逃げるゲルトの背中を見据えた。
ニャングルも算盤を構え、ニヤァッと極悪な笑みを浮かべている。
圧倒的な武力によって死蟲機は排除された。
残るは、この理不尽な事件を引き起こした悪徳商会と、その背後にいる王太子への『完全包囲と本当のざまぁ』だけだ。
第13話をお読みいただき、ありがとうございます!
ついにクロードの実力解放!
巨大な魔獣の攻撃を片手で受け止め、絶対零度の氷魔法と神速の剣技で一瞬にして『美しい氷の彫像』に変えて粉砕する。最強の氷魔法剣士・クロードの無双アクションでした!
しかし、戦闘が終わった瞬間に「セリア嬢! 怪我は!?」と血相を変えて駆け寄り、安心した途端に胃痛でしゃがみ込むこのギャップ……(笑)。
そんな彼の不器用で過保護な姿に、セリアもついに自分の『恋心』を自覚しました!
「一生分でも作ってあげますよ」というセリアの言葉、ほとんどプロポーズの返事みたいになっていますね!
次回! 逃げようとする悪徳商人ゲルトを捕縛し、事件の黒幕である『王太子』へと反撃の狼煙が上がります!
全てを失う元婚約者への【特大ざまぁ】がいよいよ始まります!
「クロードの戦闘シーン、かっこよすぎ!」「胃痛でしゃがみ込むの可愛すぎる(笑)」「セリアの恋心自覚キター!」
と思っていただけましたら……!
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痛快な結末へ向かう第14話も、絶対にお見逃しなく!




