追い詰められた敵の凶行。ルール無用の魔獣【死蟲機】が村を襲い、絶体絶命のピンチに陥ります
追い詰められた敵の凶行。ルール無用の魔獣【死蟲機】が村を襲い、絶体絶命のピンチに陥ります
ゼルバ商会を合法的に村から追い出し、ポポロ村に再び平和な午後が訪れた。
『セリア薬局』の店内では、ニャングルがご機嫌な様子で売上を計算し、セリアは薬棚の整理をしている。
「へっへっへ。悪徳商会が消えて、これで三か国への薬の流通ルートは完全にワイらの独占や。ねーちゃん、これからは笑いが止まらんほど儲かるで!」
「ふふっ、ニャングルさんは本当に商魂たくましいですね。でも、これからは少しだけ生産のペースを落としますよ。クロード様にまた怒られてしまいますから」
セリアがカウンターの奥へ視線を向けると、クロードが指定の席でハニーかぼちゃの紅茶を飲みながら、難しい顔で書類を読んでいた。
「……セリア嬢。私は怒っているのではなく、法務省として適切な労働指導を行っているだけです。それに……」
クロードはふと書類から目を上げ、窓の外へと視線を向けた。
その青い瞳が、僅かに鋭く細められる。
「……嫌な予感がします。胃の奥が、氷のように冷たくざわつく……」
「え? クロード様、また胃痛ですか? すぐにお薬を……」
セリアが【ドラッグストア工房】のパネルを開きかけた、その瞬間だった。
——ズドォォォォォォンッ!!
村の郊外から、地響きを伴う巨大な爆発音が轟いた。
「きゃあっ!?」
激しい揺れに、セリアは棚に掴まりしゃがみ込む。陳列されていた薬瓶がいくつか床に落ちて割れた。
「な、なんや!? どっかの国の軍隊が攻めてきたんか!?」
ニャングルが血相を変えて立ち上がる。
クロードはすぐさまセリアの側に駆け寄り、その肩を抱き起こした。
「怪我はありませんか、セリア嬢!」
「は、はい。大丈夫です……でも、今の音は一体……」
外からは、村人たちの悲鳴と、建物を破壊する凄まじい轟音が連続して響いてくる。
三人は急いで店の外へと飛び出した。
そして、信じられない光景を目の当たりにした。
「ギャハハハハハ!! ざまぁみやがれ!! 俺の人生を終わらせたお前らも、この村ごと地獄へ道連れだ!!」
土埃の向こう側で狂ったように高笑いしているのは、先ほど店から追放したはずのゲルトだった。
だが、問題は彼ではない。彼の背後で、太陽の光を不気味に反射する『巨大な異形の怪物』だ。
体長は5メートル以上。鋼鉄と生肉が融合したようなおぞましい外殻。赤く濁った複眼。
そして、両腕には何でも切り裂く巨大な鎌が備わっている。
「……な、なんやあれ……魔獣なんか!? 体が機械みたいになっとるで……!」
ニャングルが震える声で呻く。
「古代の禁忌、【死蟲機】……それも、高い機動力と殺傷力を持つ『死蟷螂機』型ですか」
クロードがギリッと奥歯を噛み締めた。
「あの男、闇市場で法外な兵器を手に入れていたようですね。自分の破滅を悟り、ヤケを起こしたか」
「ギシィィィィィッ!!」
死蟷螂機が不気味な機械音を鳴らしながら、巨大な鎌を一振りした。
それだけで、凄まじい真空の刃が発生し、近くにあった村の監視塔が真っ二つに両断されて崩れ落ちる。
「逃げろ! 早く避難するんだ!」
「子供をシェルターへ!」
平和だったポポロ村は、一瞬にして阿鼻叫喚の地獄と化した。
法律も、知恵も、金銭も通じない。そこにあるのは、純粋で圧倒的な『ルール無用の暴力』だけだ。
「させない……っ! この村の平和は、私が守る!!」
その時、銀色の鎧を纏ったケンタウロス族の自警団リーダー、マンミアが駆けつけてきた。
彼女は四つの蹄で大地を強く蹴り上げ、時速80キロを超える猛スピードで死蟷螂機へと突進する。
「チャージ・タックルッ!!」
全身に闘気を纏ったマンミアの体当たりが、死蟷螂機の胴体に激突する。
鈍い金属音が響き、巨大な魔獣の体が数メートル後ろへ押し流された。
「今だっ! 《メビウス》ッ!」
マンミアは怯んだ魔獣に対し、背負っていた分銅付きの鋼鉄鎖を投げ放った。蛇のようにうねる鎖が、死蟷螂機の両腕の鎌に絡みつき、動きを封じる。
ケンタウロス族の圧倒的な馬力で、マンミアは魔獣を力任せに引きずり倒した。
「いける……! マンミアさん、頑張って!」
セリアが祈るように両手を握りしめる。
「トドメだ! 《アグニ》ッ!!」
マンミアは左腕に構えたパイルバンカー付きの盾を、魔獣の頭部へと叩き込んだ。
ガシャンッ!! という爆音とともに、超高圧で鋼鉄の杭が射出される。
——しかし。
ギィィィンッ!!
火花が散り、強固な鋼鉄の杭は、死蟷螂機の黒光りする外殻に弾き返されてしまった。
「なっ……馬鹿な!? 鋼鉄すら貫くアグニの杭が、全く通らないだと!?」
驚愕するマンミア。
死蟷螂機は忌々しげに複眼を光らせると、絡みついていた鋼鉄の鎖を、あっさりと力任せに引きちぎってしまった。
「ギシィッ!!」
「しまっ……!」
振り抜かれた巨大な鎌の腹が、マンミアの体を直撃する。
「きゃあっ!!」
ケンタウロス族の巨体が宙を舞い、民家の壁を突き破って瓦礫の中に沈み込んだ。
「マンミアさん!!」
セリアが悲鳴を上げる。
「ギャハハハハ! 無駄だ無駄だ! その魔獣は鋼鉄すら紙切れみたいに切り裂くんだよ! さぁ、やれ! あの薬局にいる生意気な役人と小娘を、細切れの肉片に変えてやれ!!」
ゲルトの狂気に満ちた命令に従い、死蟷螂機は背中の巨大な羽を広げた。
ブブブブブッ! というおぞましい羽音とともに、魔獣は宙に浮かび上がり、セリアたちのいる『セリア薬局』へと一直線に突っ込んでくる。
「アカン! ねーちゃん、逃げるで!! こんなモン、算盤弾いとる場合ちゃうわ!!」
ニャングルがセリアの腕を掴もうとするが、セリアは恐怖で足がすくみ、一歩も動くことができなかった。
(嫌だ……怖い……!)
死蟷螂機の巨大な鎌が、無慈悲に振り上げられる。
圧倒的な暴力の死神が、セリアの命を刈り取ろうと迫る。
——その時だった。
スッ……と。
セリアの前に、見慣れた長身の背中が立ち塞がった。
「……はぁ。本当に、野蛮な真似は嫌いなんですがね」
クロードだった。
彼は片手に持っていた分厚い『六法全書』を、パタンと静かに閉じた。
そして、腰に下げていた細身の鞘に、ゆっくりと右手をかける。
「クロード様……! ダメです、逃げて……!」
セリアの悲痛な叫びを背に受けながら、クロードの青い瞳は、迫り来る魔獣を氷のように冷たく見据えていた。
「——帝国法第8条。自己または他人の生命に対する急迫不正の侵害に対し、やむを得ず行う行為は、これを罰しない」
カチャリ、と。
柄から美しいミスリルの刃が抜かれた瞬間。
周囲の空気が、急激に温度を下げ、白く凍りつき始めた。
「正当防衛の要件は、完全に満たしました」
ルール無用の絶望に対し、ヘタレなはずの法務監察官が、ついにその『本当の刃』を抜いた。
第11話をお読みいただき、ありがとうございます!
今回は、リーガルざまぁでは解決できない「純粋な暴力」との対峙です。
自警団リーダー・マンミアも奮闘しましたが、禁忌の魔獣【死蟲機】の前には一歩及ばず……!
絶体絶命のピンチに陥ったセリアの前に、ついに我らがクロードが立ち塞がります!
「正当防衛の要件は、完全に満たしました」
六法全書を閉じ、剣を抜くこの瞬間のギャップ! 普段はエプロン姿で過保護なお兄さんが、最強の剣士としての正体を現します!
次回、クロードの真の実力解放! 天才氷魔法剣士の圧倒的無双アクションにご期待ください!
「ついに剣を抜いた!」「クロードかっこよすぎる!」「正当防衛(物理)キター!」
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白熱の第12話、絶対にお見逃しなく!




