表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/45

試験道中

優等生らしからぬことを思いながら、天花は他のメンバーの後を追う。


校門から一歩外に出れば、そこはもう一般の世界だ。教師に守られるなんて、そんな甘い考えは通用しない。


そんなことは、この試験を受ける全員が承知のことだ。現に井上グループの先輩方は、気を緩めてなどいない。

右を十把先輩が、左を露払先輩がそれぞれ警戒している。猟犬候補生の鼻が探すのは、感染者がもつという香り…………らしいが、天花はどんな香りかなど知らない。優人やつぐみなら分かるのだろうけれど。


千篇先輩はのんびり歩いてる…………ように見えて、指が引き金にかかっている。おまけに真顔だ。


それだけの緊張感。

いくら天花でも気を抜けば、すぐ微笑みなど消え去ってしまうだろう。

いや、こと今回は笑顔など逆効果か。ヘラヘラするな、まじめにやれ的な。


井上執闘医の顔を盗み見ても、表情など読み取れない。無表情でこそないものの、さっきから表情筋が仕事放棄しているようにしか見えないのだ。


なんというか、


「ふぁーあ…………」


瀬戸なんてあくびしている始末だ。

「って、どーしたんですか十把(じっぱ)先輩。そんな怖い顔して」

十把(とおは)だ!」

噛みつくように叫んで、先輩はすぐ右の警戒に切り替える。


「それより、試験中にあくびだなんていい度胸だな」

嫌味だって視線を合わせようともしない。


そんな先輩を、瀬戸は逆に眺めているくらいだ。

「いやこれ、回診(パトロール)の試験でしょ。なら別によくないすか、ちょっとだらけても」


――――――正気?


さすがの先輩三人も、これにはぎょっとしたらしい。三者三様に、異口同音の責め文句を投げつけている。

当然だ。

そんな怠惰で、不適切きわまりない発言。

天花も、実弾銃を撃ちかけてしまうところだった。


完全アウェイの空気の中、瀬戸は軽く肩をすくめて言ってのけるだけだ。

「だって、執闘医のみなさんもガチガチに警戒なんてしてないでしょ」


――――――それは。

天花の脳裏に、いつもすれ違う執闘医のみなさんが浮かんでは消えていく。


いかにも警戒している感のあるときは、あった。

けれど、それは「行方不明の猟犬がいる」とかそういうレベルだ。

そうでなければ、たしかに談笑しながらの回診(パトロール)道中だった。下校中、天花もなんど話しかけられたことか。


だから、天花は批難の言葉を思いつけない。


けれど先輩方、特に十把先輩は違ったらしい。

「だから何だい、これは試験だよ。ひとりの油断が全員の不合格につながるんだ」


その目が、右の曲がり角の先を鋭く見据えた。

歩みが止まる。

代わりに、赤いリストバンドの右手が目まぐるしくサインを刻む。


――――――未登録感染者3、10時の方向、距離800、流血なし。


「挟み撃つよ。聖はアタシと、特待生は露払に続きな。二年は潜伏狙撃」


異論など、あるはずもない。






露払が走る道は、ランニングでも通ったことがない。

細い道だ。車一台分の道が、東京にもあるということに天花は少しだけ目を見開く。こんな狭い道路、田舎の象徴でしかないと思っていたのに。


いや、だからこそここまで栄えたのか。

道に戦車の跡はない。

流れていく景色、そこに植わる家々はどれも無事だ。どこぞの高層ビルよろしく崩れている、なんてことはないだろう。


しいて言うなら錆びた薬莢が転がっているくらいだろうか。それでも、もう元の色が分からないくらいだ。

だいたいの形で銃の種類なら分かるけれど、それ以上をたどれるほど天花の視力も動体視力も強くない。つぐみなら分かっただろうか。髪色だけで、天花の変装を見破ったあの瞳なら。


走って、

走って、

曲がって、

て、

曲がって、

走って――――――


露払先輩の足が止まる。

曲がり角の、かなり手前だ。ブロック塀が切れているのは分かるが、カーブミラー含めて目視じゃ誰もいない。


たしかに右のほうは何やら声が、と目を向けかける天花に先輩はハンドサインを刻む。


発見。


配置完了。


カウントダウン。


先輩が信号刀を抜く。

天花も、いつでも撃てる。



もうハンドサインはない。

それでも脳内で



秒針は



0を示した。


突入――――――!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ