顔合わせ
「そ、じゃあ行こ」
受験票をしまい、天花は歩き出す。
学園の、いろんなところが集合場所らしい。
教室に入っていく生徒。
階段をのぼる生徒に、降りる生徒。
渡り廊下に出る生徒まで。
追いついた瀬戸が窓の向こうに視線を投げる。
「しっかし面倒だな。エキストラ配置の時間稼ぎか?」
「この辺り一帯、広いから」
どこまでが範囲なのだろう。通学路なら踏み切り前くらいまで? それとも善良なる一般市民の方々にご協力たまわって、商店街のほうも範囲なのだろうか。
そんなことを考えながらだったからだろうか。
集合場所には井上執刀医と、天花の知らない生徒がもう揃っていた。4人とも
つり目の先輩が二人を睨む。動きに合わせて、チョーカーのチャームが大きく揺れた。
「遅いわ……って」
性格のキツそうな瞳が天花に――より正確にいうのであれば、天花の制服にすいよせられた。
「あんたが噂の特待生かい? 取り巻き侍らせて殿様出勤なんて、ずいぶんと偉いんだね」!
「やめろイヅナ」
間に入ったのは猟犬候補生の先輩だ。イヅナと同じ赤のリストバンドが、昼下がりの陽光で色目立ちしている。
「仲間割れしてる場合じゃないだろ、後輩いじめんな。それに」
「集合時間には間に合っているのです~」
遮ったのは軽い声だった。
軽そうな色の髪を揺らし、その先輩はふわふわと天花たちに顔を向ける。
「先輩方がごめんなさいね、悪気はない……かもしれない……と思い込めなくもない……? んですけど~、痴話喧嘩を始めると長くって~」
瀬戸が軽薄という意味の軽さなら、この先輩は軽妙……なのだろうか。妙、という部分には疑問が残るが、少なくともあの2人の先輩方よりは話が通じるかもしれない。
これは試験で、相手は先輩。
ここからの口調は「おふぃしゃる」だ。
「そうなんですね」
右手は胸元へ。
左手でスカートの裾をつまむ。
「私は高嶺天花です。天花、とお呼びくださいませ」
初対面の目上には礼儀を尽くす主義だ。
一礼する天花の隣に瀬戸が並ぶ。
「俺は聖瀬戸、天さまのクラスメイトです。お三方は、お知り合いで?」
「い~え~。私は初対面でしたよ~。千篇一律です、2年です~」
「3年、露払玄人だ。で、この嫌味な女が」
「十把一絡だよ。分かったらとっとと並びな」
下座をさして十把先輩が鼻をならす。いちおう説明時間にはなってないはずだが、これでは遅刻者に対しての物言いだ。
とはいえ、「こういう」人には面従腹背で丸く収まることを天花は知っている。
音もなく並ぶ1年生2人に、先輩方はなにも言わない。代わりに井上執刀医が、細い瞳孔の瞳で天花と瀬戸を見た。
「騒がしくなったが、時間どおりだな。少し早いが、模擬武器を配ろう」
全員に信号刀。
くわえて天花・瀬戸・千篇先輩の非感染者トリオには信号銃と実弾銃。
「自由にした感染者たちは、全員が特殊服を着ている。戦闘不能判定で白くなる黒衣だ」
臨戦学校で天花たちが着たのと同じようなものを、犯罪感染者も着ているということらしい。
服だけしか反応しないなら狙うべきは、などと天花が考えている間に説明は結ばれていく。
「俺はギリギリまで介入しないから、それで各自どうにかするように。俺からは以上だが、質問はあるか? 特に1年2人」
質問もなにも。
犯罪感染者を猟犬候補生の先輩2人が嗅ぎつける。
善良なる一般市民の方々に扮していたら、保護の動きを見せる。
抵抗があれば即迎撃。
それだけのことだ。単純な二者択一、なんの不明点があろうか。
「私は理解しました」
さらりと答える天花の横で、瀬戸が「じゃあ、ひとつ」と片手をあげた。そして、
「俺たちはどの辺をまわるんですか?」
わりと基本的な未説明事項を突いた。
先輩方がわずかに反応する気配。
とりあえず試験官を視界におさめておけば、などとは考えてないのだろうか。
「それくらいなら開示できる」
答えて、井上執刀医は西のほうを見やる。
「西に出て、住宅街をまわって学園に戻る。瀬戸たちは地理とか大丈夫か?」
「俺はみなさんの後をついときますよ。天さまは地図くらい見ただろ?」
「当然。あと、たまに走ってる」
最近はランニングの距離だって伸ばせるようになってきた。今50メートル走するなら、きっと春よりタイムはのびているだろう。
そうか、と井上執刀医は満足げな顔になる。
「なら問題なさそうだな。他に質問はなさそうだし、行くぞ井上班!」
「「「「はっ」」」」
――拝ませてもらおう。
犯罪感染者が、どう被害者ヅラしてくるのか。




