表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/38

Critical Aim

今日はライフルの日だ。


正直、天花の体にいちばん合っていない銃。それでも、執闘で使う実弾銃ランキング第1位なのだ。極めない手はない。


普通の撃ち方では不安定になってしまう。

だから、こうして仰向けで撃つのだ。邪魔者だった胸元の肉塊2つは、体の向きを変えるだけで頼もしい固定台に変わる。

銃身を太ももで挟み込めば、ずれることなどありえない。


引き金を引く。

弾――といっても訓練用で殺傷力は低いが――が飛び出て的を穿つ。中心をだ。

第二、第三の弾が開いた穴を素通りする。


その繰り返し。

これだって、天花にとってはただの作業だ。ちょうどいい姿勢、ちょうどいい角度を覚えておく。そしてちょうどいい強さで引き金を引くだけなのだから。


十発撃ち終え、天花は体を起こす。見るのはもちろん、さっき撃った的のほうだ。

「無動無風、クリア。けど」


こんなの、実戦じゃ使えない。


今は室内で決まった的を撃っている。だから当たるだけでしかない。


空調を入れる。

空気の流れは肌で感じるほどだ。止まらない風に、黒い前髪が軽く揺れ動く。

いちおうではあるが、風の再現だ。もちろん風向きも風量も把握済みだが、


撃つ。

的の、中央の円に当たる。

ただし本当の中心より、少し風下。


風の感じをいくら覚えても、狙ったところを射抜けるかは別の話だ。

やっと、中心を射抜けるようになったというのに。


ほほえんだまま唇を噛んで、天花はまた銃を構える。

結局、これしか知らないのだから仕方がない。愚直にやり続ければ、凡人は天才と呼ばれるまでに至る。そんなこと、天花がいちばん知っている。



銃をおろしたのは、それから99発撃った後だった。

硝煙の香りが天花の鼻を刺す。


この部屋もずいぶん煙くなったものだ。火薬と雷管の焦げた香りは、もう壁に染みついてしまった。防臭の壁紙も換気扇もあるとはいえ、そう簡単にとれはしない。これでも初めて足を踏み入れたときは、いかにも新築といった香りに満ちていたのだが。


そんなことを感じながら、天花は銃を持ち替える。

実弾銃から信号銃。臨戦学校でも使ったものだ。

構えて、反転。


ホログラムの人の群れだ。

心臓なら殺せる。

ヘッドショットでも殺せるだろう。

どちらも、天花の手にかかれば余裕である。


逃げようとする人影。

逆に、迎え撃ってきそうな人影。


天花は静かに、ただ引き金を二回引いた。

ホログラムのふくらはぎに、足の甲に、黒い染みが浮かび上がる。

命中だ。


「生け捕り、19358人目」

記録する声にも力がこもる。


最近ではホログラムを動く仕様にしても、1000発に1発外すか外さないかだ。信号銃の冷たさが手のひらに伝わり、けれど天花の手はかじかまない。

「残り998……あぁでも昨日はできなかったし1000人追加かな」





生け捕り1834人。

殺害166人。

実際の執闘なら、きっとそんな結果だっただろう。


銃をしまっている間に結果を整理し、天花は実弾銃の的のうしろで片膝をついた。手入れされた分厚い手が、散らばるプラスチックをつまみ上げてはビニール袋に落としていく。

「冷たくなってる。2000発撃ったから?」


いくらプラスチックとはいえ、撃ちだしているのは銃身だ。しかも硝煙が示すとおり、実際に火薬と雷管が火を吹いている。外からは見えないというだけで、それなりに熱はあるのだ。

だからいつも、信号銃を撃っている間にどうにか冷ましているのだが。


「いつもぬくいのに」

冷ます時間が倍になるだけで、ここまで違うなんて。いっそ明日から1日2000発に増やそうか。





こんなにも硝煙の香りがこびりついた部屋で、こんなに長く時を過ごした。

おかげで廊下に一歩出るだけで、空気をおいしいと感じてしまう。別にあの硝煙が駄目というわけではないのだが、煙くさいのは気に食わない。


これはどんど焼きでも、ましてや枯草を燃しているわけでもないのに。





お風呂、といっても天花が大浴場まで行くことはない。

別に見られて情けない体にはしてないし、見られるのは慣れている。

だが硝煙をまとって大浴場に行くというのは、さすがの天花でも申し訳なさが勝ってしまう。

そんなわけで、天花専用フロアの露天風呂を独り占めするのが常なのだった。


湯船に身を委ねる。それだけで天花の顔はゆるんでしまう。

なにしろ、この瞬間だけは胸元の重さから解放されるのだ。筋トレの副産物とはいえ、育ちすぎたかもしれない。

「…………まぁいっか、減るもんじゃないし」


さすがにライフルのフォームを開発するまでは大変だったけれど。

それでも夏になる前に完成した事実は大きい。


だって、夏にはアレがあるのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ