Critical Aim
今日はライフルの日だ。
正直、天花の体にいちばん合っていない銃。それでも、執闘で使う実弾銃ランキング第1位なのだ。極めない手はない。
普通の撃ち方では不安定になってしまう。
だから、こうして仰向けで撃つのだ。邪魔者だった胸元の肉塊2つは、体の向きを変えるだけで頼もしい固定台に変わる。
銃身を太ももで挟み込めば、ずれることなどありえない。
引き金を引く。
弾――といっても訓練用で殺傷力は低いが――が飛び出て的を穿つ。中心をだ。
第二、第三の弾が開いた穴を素通りする。
その繰り返し。
これだって、天花にとってはただの作業だ。ちょうどいい姿勢、ちょうどいい角度を覚えておく。そしてちょうどいい強さで引き金を引くだけなのだから。
十発撃ち終え、天花は体を起こす。見るのはもちろん、さっき撃った的のほうだ。
「無動無風、クリア。けど」
こんなの、実戦じゃ使えない。
今は室内で決まった的を撃っている。だから当たるだけでしかない。
空調を入れる。
空気の流れは肌で感じるほどだ。止まらない風に、黒い前髪が軽く揺れ動く。
いちおうではあるが、風の再現だ。もちろん風向きも風量も把握済みだが、
撃つ。
的の、中央の円に当たる。
ただし本当の中心より、少し風下。
風の感じをいくら覚えても、狙ったところを射抜けるかは別の話だ。
やっと、中心を射抜けるようになったというのに。
ほほえんだまま唇を噛んで、天花はまた銃を構える。
結局、これしか知らないのだから仕方がない。愚直にやり続ければ、凡人は天才と呼ばれるまでに至る。そんなこと、天花がいちばん知っている。
銃をおろしたのは、それから99発撃った後だった。
硝煙の香りが天花の鼻を刺す。
この部屋もずいぶん煙くなったものだ。火薬と雷管の焦げた香りは、もう壁に染みついてしまった。防臭の壁紙も換気扇もあるとはいえ、そう簡単にとれはしない。これでも初めて足を踏み入れたときは、いかにも新築といった香りに満ちていたのだが。
そんなことを感じながら、天花は銃を持ち替える。
実弾銃から信号銃。臨戦学校でも使ったものだ。
構えて、反転。
ホログラムの人の群れだ。
心臓なら殺せる。
ヘッドショットでも殺せるだろう。
どちらも、天花の手にかかれば余裕である。
逃げようとする人影。
逆に、迎え撃ってきそうな人影。
天花は静かに、ただ引き金を二回引いた。
ホログラムのふくらはぎに、足の甲に、黒い染みが浮かび上がる。
命中だ。
「生け捕り、19358人目」
記録する声にも力がこもる。
最近ではホログラムを動く仕様にしても、1000発に1発外すか外さないかだ。信号銃の冷たさが手のひらに伝わり、けれど天花の手はかじかまない。
「残り998……あぁでも昨日はできなかったし1000人追加かな」
生け捕り1834人。
殺害166人。
実際の執闘なら、きっとそんな結果だっただろう。
銃をしまっている間に結果を整理し、天花は実弾銃の的のうしろで片膝をついた。手入れされた分厚い手が、散らばるプラスチックをつまみ上げてはビニール袋に落としていく。
「冷たくなってる。2000発撃ったから?」
いくらプラスチックとはいえ、撃ちだしているのは銃身だ。しかも硝煙が示すとおり、実際に火薬と雷管が火を吹いている。外からは見えないというだけで、それなりに熱はあるのだ。
だからいつも、信号銃を撃っている間にどうにか冷ましているのだが。
「いつもぬくいのに」
冷ます時間が倍になるだけで、ここまで違うなんて。いっそ明日から1日2000発に増やそうか。
こんなにも硝煙の香りがこびりついた部屋で、こんなに長く時を過ごした。
おかげで廊下に一歩出るだけで、空気をおいしいと感じてしまう。別にあの硝煙が駄目というわけではないのだが、煙くさいのは気に食わない。
これはどんど焼きでも、ましてや枯草を燃しているわけでもないのに。
お風呂、といっても天花が大浴場まで行くことはない。
別に見られて情けない体にはしてないし、見られるのは慣れている。
だが硝煙をまとって大浴場に行くというのは、さすがの天花でも申し訳なさが勝ってしまう。
そんなわけで、天花専用フロアの露天風呂を独り占めするのが常なのだった。
湯船に身を委ねる。それだけで天花の顔はゆるんでしまう。
なにしろ、この瞬間だけは胸元の重さから解放されるのだ。筋トレの副産物とはいえ、育ちすぎたかもしれない。
「…………まぁいっか、減るもんじゃないし」
さすがにライフルのフォームを開発するまでは大変だったけれど。
それでも夏になる前に完成した事実は大きい。
だって、夏にはアレがあるのだから。




