勉強会
「じゃあ始めようか」
着いたのは自習室だった。といってもグループ学習専用らしく、数人用の椅子まで用意されている。
「昨日習ったのは執闘医の階級と、配属前実績について」
白い手でノートを開いて、優人は整った字を目で追った。指先が、書き込まれた数字を軽く叩く。
「教科書32ページ、資料集は45ページだね」
「難しいの、昇進の目安?」
目を見開いたのは優人のほうだった。
「まさかとは思ったけど………………もしかして、教材まるごと覚えてるの?」
「うん。もらったその日に、乱丁チェックついでに」
正直、一年でいちばん面倒な作業だ。無駄に多いから、あれだけで1日費やしてしまう。
優人は固まっていたけれど、すぐに顔をやわらげる。
「やっぱり天花はすごいよ。あれ全部、一日で読むなんて」
すごい。
聞き慣れた言葉だ。それでも、優人の場合意味合いが違う。
天才、それ以外の意味で使ってくれるのだ。
そのことに何を言えばいいのか、天花は知らない。
だから、とりあえずノートを開く。
「階級の区分、理解済み。昇進の条件と、配属前実績について教えて」
執闘医の階級など、覚えるのは簡単だ。天使階級がそのまま使われているのだから。
「最低階級は天使。法律と執闘技術のテストでなれる。けど」
「僕たちは学園の生徒だから、卒業したら自動的にって感じだね。あぁでも、天花はもう1つ上かも」
そう言って、優人は自分のノートをめくった。綺麗な文字のまま、箇条書きでまとめられている。
「配属前実績――読んで字のごとくってやつだね。それで昇進基準相当の実績を残していたら、それに応じて最初の階級が変わっていく」
頭に浮かぶのは4月の頃だ。
襲ってきた感染者を投げて、沈ませて、引き渡して――
二次被害なんて、しいていえばアスファルトがちょっと割れた程度だろう。
つまり、天花の初期階級は。
「大天使」
第8位――普通なら、一般人を守り通せた天使のみが掴める階級。
あの日、天花は犯罪感染者を沈めることで街を守った。
誰も見ていなかったかもしれない。
けれど、あれは確かに防犯カメラの範囲だった。それに駆けつけた執闘医たちだって、ちゃんと分かってくれたのだから。
優人も昇進条件のメモをさらりとなでる。
「権天使……はないか。いくら生け捕りにしたからって、第7位は小隊長だもんね」
ただただ現実的な未来予測だ。
天花の実力を目の当たりにして、だからって大風呂敷を広げはしない。
これが瀬戸なら「絶対権天使からだろ」とか調子のいい事をいうのだろう。
つぐみが何をいうのか、それは今の天花には分からないけれど。
そういえば。
「瀬戸とつぐみ、いないね」
天花のつぶやきを、優人の耳は聞き逃さない。
「あぁ、あの2人なら先に帰ったって。邪魔しちゃ悪い………とか言ってたよ」
邪魔、なんて。そんなこと、天花は――――――
「……………………昨日のお礼、言おうと思ったのに」
「もう充分だって。昨日も、今朝もお昼も言われたから」
事実をやんわりと告げて、優人はわずかに首をかたむけた。淡い色の瞳に、白い毛先がかるく流れる。
「それより、もっと色々なことを話したい。それはきっと、あの2人も同じだと思うよ」
寮に帰るころには夕方になっていた。
といってもルームメイトなどいるはずもない。
そもそも最上階貸し切りなのだ。防音仕様のおかげで、誰の声も届かない。今響いている音といえば、銃声くらいなものだろう。
すいません夏バテ気味です
【謝罪】更新について
2026年8/10~8/17の間、投稿できないかもしれません。
お盆休みというやつです。
作者の中身が身動き取れなくなるので、先に伝えさせていただきました。




