表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/32

つまらないんたびゅー

第2章の幕開けです。


それから、勝手ながらジャンルを変更させていただきました。


旧 ローファンタジー

新 パニック


この改変が改良か、それとも改悪か。

コメントいただけますと幸いです。


それでは、引き続き『殺シ生キル病』をお楽しみください。

自分の記憶こそ、世界でいちばん信用できる。


それが彼女の持論だ。




タクシーの中、天花はひとつ息を吐いた。もちろん、微笑みは絶やさずに。



東京の街並みは消えて、もう景色には必ず山が映りこんでいた。いつからこんなことに、など考えるだけ時間の無駄。ただ、この地形が記憶に焼きついている――――天花が閉口するには充分すぎた。


本当なら古典の授業を受けていたのに。

眠気を知らないふりして海馬を動かす、その苦行が今は恋しい。


どうしてこんなことに。

1973回目の回想映画が、天花の脳内で上映される。




6月になってすぐのことだった。

学長室に呼ばれて、1人で出向いた。


中にいたのは才子学長。

「待っていたよ、高嶺」


妙に固い響き、なんて思う暇もなかった。

差し出された書類に、「山梨校 インタビュー企画 (生放送ニュース内)」と書かれているのを見つけてしまった。


「……あの、これは」

「ああ……両科に特待生がそろった記念のインタビューだ。執闘科特待生・高嶺天花。内務科特待生・高嶺空花。2人にゆかりのある山梨校でってことらしい」

「……ずいぶんと素敵な時間なんですね」


皮肉は止まらなかった。


「6時間目が終わって少し経ったころ、ですか。放課後、授業のついでのように受けられるなんて…………ここからじゃ2時間はかかると思いますけど」


書類ごしに、電話機をいじる音が聞こえた。

「なら、断りの電話を」

「待ってください」


思い出されるのは時刻表。

思いつくのはひとつのアイデア。


「考えがあります」




山梨校に電話する、それは変わらない。

最初は断って、話が流れたらそれはそれでよし。

流れなくても、


「ふたつ、条件があります」

「ひとつは、交通費は山梨校の経費にすること。これは山梨校の提案で、私は特待生。特権の範囲内のはず」

「ひとつは、その際の手段とルートを私が決めること。もちろん、山梨校側はすべて受け入れるものとする」

「このインタビューに間に合わせるなら、午後の授業に出られない。私にそれを強いるのなら、依頼者もこれくらいするのが筋ってものでしょう」




結局、こちらの条件はすべて通った。


だから天花は、タクシーに乗っている。

ちょうど高速を降りたところだ。ひさしぶりのこの街並みは、ほとんど何も変わっていない。


旧家。

田んぼ。

畑。

草木。

公園。

新しめな家。

そして、すべての背後に山、山、山。


ほとんど変わり映えしなくて――――――変わらないまま、山梨校についた。見たこともない教師が、血相を変えて走ってくる。


そういえば、と今さら天花は思い出す。渋滞がない場合ですら、5分前につくスケジュールだったことを。


「領収書ください、あて名は『黒十字学園 山梨校』」





「天花さん到着でーす」

案内されたのは内務科の教室だった。それでも机は片づけられて、椅子も3人分だけになっている。

スタンバイ済みなのはアナウンサーと、


「ちょっと、遅いんだけど」

ねっとりとヤジを飛ばす、ひとりの生徒だ。


制服は白く、履いているのはパツパツのスラックス。深海魚みたいな顔で、ボサボサの黒髪はひとつに縛られている。丸いメガネの奥で、ぎょろついた黒目が天花を睨んでいた。

「昨日のリハにも来なかったし、どーゆーつもり?」

「企画書、読んだ」


だからすべて覚えているし、あの程度しかないならリハーサルなど不要。むしろ座って質問に答えるだけのことに、なぜ予行演習までしなければならないのか。


短く答えて座る、その間にカメラは回ったらしい。



「それでは、インタビューさせていただきます。山梨テレビの音史(おとし)調(しらべ)です。よろしくお願いいたします」

座ったまま、アナウンサーが頭を下げた。つられて会釈する天花の横で、もう1人の生徒がカメラ目線で薄い胸を張る。


「内務科初の特待生、高嶺空花です。山梨校高等部1年で、中学は普通のとこに行ってました」

張っているのは胸なのに、ボタンが飛びそうなのはお腹のほう。低いだみ声も相まって、正面から見るだけじゃ中年男性かと見紛えてしまう。


早々に、天花を映すカメラマンが手を向けてきた。この合図はカメラが回った証拠、企画書7ページに書いてあった。


だからこそ、天花は表情など変えない。

「ごきげんよう」

ただ澄んだ声で告げるだけだ。

「東京校の高嶺天花と申します。執闘科1年、特待生です」

自分がどこの誰で、どんな存在なのかを。


そこから先はただの作業だ。

企画書に書いてあった質問を、さもアドリブのようにアナウンサーが暗唱する。

長々と空花が答える。

天花に話がふられる。

195786通りの回答シュミレーションから、いちばん合いそうなのを選んで口にする。


「やっぱり特待生になるのって、大変でしたか?」

「いや簡単ですよ? だって正解を塗りゃ満点なんですから。実技がないぶん、不確定要素もないし。まぁそのぶん内容は執闘科のよりムズいと思うんですけど、そこはうまいこと。ってかむしろ、執闘科の方が運要素強いと思いますよ」

「運要素……その点どうなんでしょう、天花さん」

「……正直、あると思います。だから1日2時間は実技に当てています」


勉強しなくていいなら、その5倍は訓練に当てられる。

でも、ぜんぶの教科のぜんぶの問題を解く時間を考えると。


これが限界になってしまう。


「2時間!? すごいですね」

「ランニングと筋トレと狙撃訓練、あと木刀で素振り。それだけやっていればそのくらい経ちます」





「お二人は双子なんですよね。仲はいいんですか?」

「そりゃもちろん! ……と言いたいとこなんですけど、妹からなぜか嫌われてて。内務科に入れなかったからって、八つ当たりしないでほしいんですけどね。昨日もリハがあったのに、来なかったんですよ。前乗りして泊まればいいじゃんって、何度もメッセージ送ったのに」

「そ、そんなにお姉さんのことがお嫌いなんですか?」

「いえ、嫌いとかそういうのではなくて。……姉も『天カス』なんてあだ名をつけてくれたりとか、色々ありますし。ただ、今日は水曜日でしょう? リハ不参加はそれが理由ですよ。あと、私は自分で選んで執闘科なので。中等部のときから決めていました」


すべて本当のことだ。

だから、長くなりすぎた。

答えて、天花はほほえみを保つ。嫌なモノさえ見なければ、あるいは世界の模様として認識しておけば。


そうすれば、どんなに穢らわしく映るモノだとしても。





「あぁ、そうなんですね。ちなみにお二人はそれぞれ、なぜその学科を?」

「それはほら、まだ殺生病の薬ってないでしょう? だから作ってみようと思って。そりゃ異物無効化のせいで薬も効かないってのは有名ですけど、だったら血清とか作れないかなとか。それに、献血の血は半分以上が薬づくりに回されるって話もあったりして」

「そうなんですか、なんだか素敵ですね。天花さんは?」

「可能性のありそうな人ならいたので。ならその人を信頼すべきかと」


というか、このアナウンサーは情弱なのだろうか。

血清のアイデアは、蛍さんのものだ。

それを高嶺空花は、自分のオリジナルみたいに話して。

それをコロッと信じるなんて。


……まぁ、これだけ山に囲まれてたら仕方ないのかも、だけど。


………………山火事って、とっても燃えるとか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ