過去が近づいてくる
雲が太陽を覆っていた。柔らかな光の筋が学院の紋章を照らしていた。
その真下の窓の前に、指揮官の人影が腕を組んで学院全体を眺めていた。
執務室の中では三つの声が聞こえていた。
「ダメダメダメ」ミラの声はいつも通り大きかった。「生徒たちはネテリアに行けるレベルにない」
「私が持っているデータは違うことを示しています、教官」コルヴィンは持っていた書類を叩きながら答えた。
ミラは二度跳ねてコルヴィンの前に立った。「しょぼい紙一枚がマナの複雑さを理解できるわけがない」
「緊急事態が起きた場合に生徒が対応できる必要がある」アルドリックは両者に向けて言った。
「ダメダメダメ!」ミラは彼を指差しながら答えた。「マナをうまく使えることのほうが重要よ。何かあったら逃げればいい、戦う必要はない!」
三人の間でやり取りが混乱した状態で続いた。
「静かに」
指揮官の声は声を荒げることなく三人を沈黙させた。
「議論するために呼んだわけではない」窓から離れ、教官たちの方向へ歩いた。
「このミッションは最重要事項であり、私たちは両世界の間にある伝統を守る必要がある」
「しかし、学生の命が依然として最優先事項だ」
ミラが二度跳ねて指揮官の前に立った。「最も優秀な生徒を選抜すべきです。そうすれば狩りは早く終わる」
アルドリックが一歩前に出た。「自分自身で対処できることを重視すべきです」
「もしミッションが本当に危険な状況になった場合、彼らは自力で戻らなければならない」
「ダメダメダメ。ミッションに時間がかかれば一人になる可能性が高まる」ミラが反論した。
コルヴィンはメガネを直した。「より代替のきく生徒を送るべきでしょう」
「正気か!?」アルドリックが叫んだ。「マエナは命が最優先だと言ったばかりだ!」
「生贄にしろと言っているのではない。最悪の場合の損失を最小化する話をしているだけだ」
アルドリックは拳を握り、コルヴィンへ向かって直進した。
「止まれ、アルドリック」マエナが命じた。アルドリックは急停止した。
「コルヴィンの言うことにも価値がある」
ミラはマエナを見て、一度跳ねた。
「その場合はCクラスの生徒を送ることになる」
「それでは生贄にするだけだ!」アルドリックは腕を振りながら声を上げた。
マエナはゆっくりと執務机のほうへ歩いていった。
「もう一度だけ言う。お互いに議論するために呼んだわけではない」
指揮官はゆっくりと手を木の上で滑らせた。
「決定と責任は私だけのものだ。ただ観点を聞かせてもらうために呼んでいる」
三人の教官が沈黙した。
アルドリックはマエナの方向へ手を伸ばした。その動作をミラが腕を掴んで止め、首を振った。
コルヴィンが沈黙を破った。「私が用意したリストがここにあります。各選択の根拠も記載しています、指揮官」
近づいて数枚の書類を執務机に置いてから、執務室を出た。
ミラが二度跳ねて指揮官の背後に立ち、一枚の紙を机に置いた。「これが私のです」
「この重みも私が背負います」ミラは小刻みに跳ねながら退室した。
アルドリックはゆっくりと近づき、乱雑に書かれた一枚の紙をマエナの手の隣に置いた。
「俺が連れて帰ります」アルドリックは退室する前に言った。
指揮官は二枚の書類とアルドリックの紙を手に取った。
一つひとつ報告書を確認しながら座り、思考を整理した。
計画を確認する。
それぞれの観察点。誰が選ばれるべきか、そして優先順位で並べられた理由。
それは一つの名前でより明確になった。
二つのリストで一番上にいた。コルヴィンの書類では最後尾だった。
「カイン・ダウンフォール」指揮官は天井に向けて顔を上げながらつぶやいた。
「学生に賭けなければならないのか」
マエナは天井を見つめ続けた。やがて鐘が二度鳴り、アルカノーヴァ中に響き渡った。
時間は、前進してほしくない者たちを裏切っていた。
学院の教室が満ちていき、次の授業の準備が整った。
Cクラスは前日の訓練を再開するために訓練場に集まった。
Aクラスはコルヴィンとの授業を始めようとしていた。
生徒たちは教室に座り、先生を待っていた。
「終わりなき拷問が始まろうとしている、ディラン」カインは席でとろけながらため息をついた。
「二時間だけだって、ははは」ディランは椅子に体を預けながら言った。
コルヴィン先生が扉を開けて入ってきた。閉めてから直接執務机へ歩いた。
「ノートを用意しなさい。今日はネテリアと共有する歴史に集中します」
力のない生徒たちが先生の指示に従った。
コルヴィンはネテリアで起きた八十年の衝突を説明した。ゲートを初めて渡ったときのことから始まり、悲劇を生んだ最初の衝突の年々を経て語った。
マナへの理解がどう発展していったか、ネタリがそれをどう操るかの観察について。
その世界で発見した素材の重要性。植物や鉱物の持つ圧倒的な差異。
「先人たちが行った探索は常に衝突に終わった。だからこそかつては採集者と突撃者に分かれていたのです」
言葉と黒板への板書の間、鉛筆がノートを走る音が聞こえた。
授業が進むにつれ、カインの体はどんどん液体になっていった。逃げ出したいのか存在しなくなりたいのか、定かではなかった。
コルヴィンの授業は、大きな椅子が動く音に遮られた。先生が振り返った。
ピンクのツインテールをした女子生徒が立って手を上げていた。
「セラ、どうぞ」コルヴィンが言った。
「先生……ネテリアへのミッションの特別な理由は何ですか?」セラの顔は真剣で混乱していた。「なぜ前倒しにしたんですか?」
コルヴィンはチョークを机に置いた。全生徒が見えるところに立ち、セラに座るよう手で示した。
「不安に思っているのはわかります。ではミッションについてと、なぜ今選抜を行っているのかを説明します」
先生はゆっくりと息を吸った。これが話し続けるサインだった。
「全ては私たちがネタリとの間で経験した最後の武力衝突から始まります。両世界の重要な人物がそれぞれ同じことを感じました。この衝突は私たちを徐々に死に追いやっているだけだと」
「ネタリ軍の将軍ライゼン、そして私たちの指揮官マエナです」
先生はゆっくりと教室の端から端へ歩きながら説明を続けた。
「両者は戦いのたびに、何十年も続く両世界間のサイクルをどう終わらせるかを議論する秘密の会合を持ちました」
「激しい一年の後、両世界の間で合意が成立しました。協定です」
コルヴィンは手を持ち上げ、アルカノーヴァの紋章に触れた。
「到達した解決策が、今日私たちが知るシステムです。ネテリアのギルドに雇われるプロとして養成されるヴォイドストライダー」
再び教室の中央で立ち止まり、横向きになって手を下ろしながら話し続けた。
「指揮官が交渉した理由はシンプルでいて深いものでした。私たちは彼らの資源が必要であり、彼らは自分たちの世界に生息する怪物を狩る際に失う命を守りたいのです」
「ネタリは弱くない。しかし彼らの人口は私たちほど多くない。一人の損失が持つ影響は私たちより大きい」
「彼らはマナとのつながりがより深い。その住民の半分は戦闘員ではない」
コルヴィンはユニフォームに刺繍された紋章を強く掴んだ。
「アルカノーヴァとクロスゲートの創設はネテリアの鏡写しです。そこでライゼンは征河道と神花海ギルドを創りました」
「目的は専門的な関係を維持することであり、それは年々成長してきました」
カインを含むすべての生徒が静かに聞いていた。カインは液体になるのをやめていた。
「しかし、十年間の平和と相互協力は八十年の暴力の重さに勝てなかった。私たちのゲートが接続している王国で緊張が高まっていた」
「シンワ王国です」
コルヴィンは生徒から生徒へと目を移しながら話を続けた。
「彼らの懸念は正当でした。私たちのヴォイドストライダーがミッションで彼らの世界を行き来していた。彼らにとってはかつての敵が自分たちの習慣と地形を学んでいるように見えた」
「別の戦争が始まる前にそれを止めるために。マエナはライゼンと会い、両者は王国に正しい道を歩んでいることを示すための計画を立てました」
先生の言葉がしばらく止まった。セラに、ディランに、最後にカインにと目を移した。
「今からちょうど十年前に計画を実行に移しました。両学院間の特別ミッションです」
「一年次の優秀な生徒たちがネテリアへ渡り、征河道の選抜生徒たちと合同でミッションを行います」
「意図は明確でした。変化がすでに起きていることを王国に示すこと。有望な若者たちがお互いを殺し合っていないことを」
生徒たちは目を見開いた。コルヴィンが語る歴史の重みは圧倒的だった。
彼らにとってネテリアとの平和とヴォイドストライダーの役割は、生活の中で自然なものだった。
「ネタリと一緒にミッションをするとは知らなかった」
「私は知ってた、姉が……」
「お姉さんの話はもういいって」
先生は言葉を消化する時間を与えてから背を向け、背中を見せた。
「通常このミッションは四月に行われます。ネテリアでの入学式典の翌日です」
「五人のヴォイドストライダーとアンブラルナイト一人が往復に同行します」
コルヴィンは執務机のほうへ二歩歩き、喉を鳴らした。背中が生徒たちから見える唯一のものだった。
「征河道の三年次に達したばかりの生徒がアルカノーヴァの一年次生に同行します。未来のヴォイドストライダーへの歓迎の方法です」
「将来一緒に働く可能性のある者たちへの」
「今回は違います。このミッションは十周年の記念です。だから一年次生は五人だけが行きます。残りの五人は他の学年から選ばれます」
チョークを持ち直し、黒板へ向かい続けた。
「それがなぜ今選抜を行っているかとミッションの前倒しの理由です」
「特別ミッションについての情報はここまでです。今日の授業を続けましょう」
コルヴィンは時間を無駄にせず、扱っていたテーマに戻った。
全生徒が先生のペースについていこうとノートを取った。
できた者は誰もいなかった。教室に聞こえるのはコルヴィンの声だけで、鉛筆の書く音は伴奏しなかった。
授業の最後の三十分は引きずるように過ぎた。
アルカノーヴァの鐘が鳴った。ゆっくり立ち上がる者もいれば、まだ座ったままの者もいた。
コルヴィンが執務机へ向かうとき、一人の生徒が教室を素早く出るのが見えた。
ルカンが勢いよく扉を開けて出た。ほとんど走っているような速度で脚を動かしていた。
西棟の教室をつなぐ廊下を最初に駆け抜け、学院の反対側へと急いでいた。
その棟はBクラスの生徒たちで埋まり始めていた。
その外側からはまだ、訓練場から強い熱気が漂っていた。
Cクラスは激しい訓練の締めくくりにいた。体力強化の基礎練習が授業の全体を占めていた。
規定のサーベルを使った繰り返しで締めくくられる。
「エラーラ!姿勢のバランスが崩れている、それが斬撃のずれを引き起こしている」
「はい、教官」もう一度ポジションを取り直し、動作を繰り返した。息は上がり続け、額に汗が流れていた。
繰り返すたびに、エラーラは体にしがみついてくる疲れの重さを感じた。最後の動作はあまりにも不格好で、転びそうになった。
「エラーラ、グラウンドで十分休め」教官が言い、別の生徒へ注意を向けた。「サーベルの持ち方が違う、手首を折るな」
エラーラはゆっくりと歩きながら、額の汗を拭った。呼吸は荒く速かった。
グラウンドに着くと、ただ体を落とし、石の冷たさに体を預けた。
膝を曲げ、肘を膝の上に置いた。両手に顔を埋めた。耳に届くのは雑音と霞んだ声だけだった。
呼吸を整えようとしながら、ある考えに没入していた。自分をここまで追い込ませている何か。
足りない息を取り戻そうとしているとき、一つの声が彼女に向かった。
「授業が終わって五分経ってるのに先生はまだ私たちを苦しめてる」アナリスがエラーラの隣に倒れ込みながら言った。
すべてがスローモーションに見えた。肩に手を感じ、そのトランス状態から引き出された。
「エラーラ、大丈夫?」アナリスが心配そうなトーンで言った。
「うん、ありがとう」エラーラは体を起こし直しながら、小さな安堵を感じた。
アナリスが少し近づいた。「本当に?今日は昨日よりずっと自分を追い込んでいた」
答えずに、エラーラの視線が上を向き、夕暮れへの変化を始めた空を見た。
エラーラは頭を下げ、隣の仲間を見た。
「私……ある人に付いていかないといけない」
「カインのこと?」アナリスが聞いた。
エラーラは像のように固まった。「なぜカインなの?」声に埃が混じったようだった。
「ははは!」アナリスが大きく笑った。「本当に聞くの?あなたが彼といるときを見れば明らかじゃない」
「違う、それに、いつも三人でいるし」エラーラは友人の目を見ながら答えた。
アナリスは指を一本立て、二人の間に置いた。
「一緒にいるとき、あなたは一人の人しか見ていない」
「でも自分をそんなに追い込まないでよ、カインのことも知ってるけど、あなたがこんなに苦しんでいるのは彼の望むことじゃないはずだから」
エラーラは顔を逸らし、視線を訓練場の芝生に落とした。
「問題は彼が……行かないといけないってこと」柔らかく呟いた。
「ごめん、エラーラ、聞こえなかった」アナリスは首を傾けながら言った。
エラーラは目を閉じ、何かを言おうと自分を説得した。
友人のほうへ向き直り、ゆっくりと口を開けた。何か言おうとした瞬間、教官の声が止めた。
「十五分後に理論の授業のために教室に来なさい!」
声は座っていた二人の若い女性に向けられた。
「アナリス、仲間が片付けを終えるのを手伝いなさい」
「はい、教官」立ち上がりながら答えた。
「授業で会いましょう、エラーラ」言い終えると、訓練場の奥へ走っていった。
エラーラはアナリスが離れていくのを見ていた。呼吸がゆっくりになっていた。
「もう最後の授業だけ……」膝をさらに折り、両腕で抱えた。「私は……約束した」
「私がそう決めた」
仲間が出す音を聞きながら、少し視線を上げた。
彼らはふざけたり笑ったりしながら、道具を片付けていた。
エラーラはその様子に注意を向け、口を引き結んだ。
「よし……あと一つの授業」勢いよく立ち上がった。エネルギーが戻ったからではなく、別の何かが彼女を駆り立てていた。
「ここで立ち止まるわけにはいかない……」
脚を振り払って、戦闘理論の授業の教室へ歩き始めた。
訓練場と東棟をつなぐ入口へ向かった。
少し遅れていたので、学院の中央を抜けてショートカットすることにした。
急ぎ足で走っていたが、今朝早く起きたことが頭の中でちらつき始めると、その足は落ち着いていった。友人同士が喧嘩するなど普通のことではなかった。
歩きながら視線が地面に落ちた。何かがおかしい、時間が味方をしていないような感覚があった。
西棟に近づいていることに気づき、顔を上げた。棟の内部へ誘うように階段が広がっていた。
二つの人影が言い合っているのに気づいて、その場で立ち止まった。
怒ったルカンが、タロスの前で両手を動かしていた。
「それが……あなた自身にとって何の利益があるの?生活のリズムに余計なことを加えるだけよ」タロスはメガネを直しながら言った。
「余計なことを加えてるんじゃない!わかる?カインが引きずっているんだ」ルカンは声を上げながら答えた。
タロスはトーンを上げなかった。その立ち姿は完全に穏やかだった。「あなたの診断が正しい確率は高いかもしれない。でも、あなたが決めることではない」
ルカンは何かをつぶやきながら頭を下げた。エラーラには聞こえなかった。
タロスは近づいて肩に手を置いた。「彼らのことに口を出すと、緊張を生んだり誤解を与えたりする。あなたが望まない結末を早める可能性がある」
エラーラはその言葉を聞いて居心地が悪くなり、素早く背を向けた。その音で二人は彼女に気づいた。
「エラーラ!」ルカンが叫んだ。
彼女を追いかけようとしたとき、タロスが肩を掴んで止めた。
ルカンは素早く振り返り、タロスがかすかに首を振るのを見た。
力強くその手を払いのけて走り出した。
「エラーラ!」
彼女はその場で立ち止まっていた。
「エラーラ、待ってくれ……俺は……」ルカンは彼女の後ろで止まった。「今日の午後に話せないか?大事なことがある」
「ごめんなさい、時間がない」エラーラは一歩踏み出しながら言った。
「待って」ルカンが声を上げた。
「何を言いたいかはわかってるから、意味があるとは思えない」エラーラが答えた。
「大事なことだ、カインのことで」ルカンはより真剣なトーンで続けた。
エラーラは素早く振り返り、目の怒りを隠そうとした。「ディランには言えたんだから、今度は私に言いたいの?」
ルカンは胸に一撃を感じた。ディランと話したときとは違う何かが。
「ディランに言ったのと同じことを言う。私はやりたいことをやってる」
「違う。あなたがその学校にいるのはカインがネテリアに行くことに執着してるからでしょ」
ルカンは声を上げようとしたが、音量が喉で窒息した。
「あなたは盲目的に彼についていく必要はない。彼はあなたのことを見ていない、自分のトラウマのことしか考えていない。あなたもディランも、彼の父親がネテリアから戻らなかった原因じゃない」
「黙って」エラーラは気づかずに叫んだ。
「あなたに何がわかるの?彼のことを知らない、どう考えているかも知らない」怒鳴るのをやめるために強く息を吸った。
「私たちのことに口を出さないで」
エラーラは素早く向き直り、走り出した。一歩一歩が重かった。
ルカンはただ立ったまま、彼女が去っていくのを見ることしかできなかった。
彼女の姿が距離の中に消えると、口から舌打ちが漏れた。足音はもう聞こえなくなっていたのに、まだ彼のところへ届いているようだった。
太陽は輝きを失いつつあった。一日の終わりがどんどん近づいていた。
アルカノーヴァでは最後の授業がすでに始まっていた。




