ルカン
アルカノーヴァの中央塔の頂上に設置された鐘が二度鳴り、次の授業が始まることを全学生に告げた。
学院の紋章の下、ある執務室の窓の奥で、マエナの姿が学院全体を見渡していた。
指揮官は腕を組んだまま立ち、授業へと走る学生たちを観察していた。
執務室の扉が二度叩かれた。「入れ」彼女は定位置から動かずに答えた。
アルドリックが退屈そうな顔で入ってきた。「呼んだか、マエナ?」
「そうだ」彼女は窓の外を見続けながら答えた。
アルドリックは扉を閉め、執務室の中央まで歩いてきた。
「マエナ、なぜ俺を——」
「Aクラスはどうだった?」指揮官は窓から離れ、アルドリックのほうへ向きながら近づいてきた。
「教えることは退屈だ、マエナ」
「指揮官と呼びなさい」マエナはため息をつきながら言った。
「失礼しました、マ……指揮官。大半は想定内のレベルでした」
マエナは腕を下ろし、自分の執務机のほうへ歩いていった。
「それだけか?」
アルドリックは頭を掻きながら彼女を見た。「まあ、五人ほど抜きん出た者がいます」
授業を思い出した瞬間、一度足を止めた。口元に小さな笑みが浮かんだ。
「マナを使って剣を加速させる学生がいます。小さなマナの集中点をいくつか配置して、それを爆発させる方法で」
「しかも幅広のマンドブルの刃全体を覆いながら、それをやってみせました」
マエナが執務机に着こうとしたとき、その言葉を聞いて静かに目を見開いた。
「その技は知らなかったな」指揮官はアルドリックに視線を固定させながら言った。
「マナで動かすのではなく、タジの反対側の刃に小さな球体を配置するんです」アルドリックは一歩前に出て言った。
「マナを制御して爆発させ、刃を加速させるという発想は、俺には思いつきもしなかった」
マエナは拳を唇に当てた。「技の完成度は?」
「今のところ空間制御はできていますが、完全には習得できていません。一度しか見ていないので、片刃のマンドブルを想定した技だと思います」
ため息をついてから、まだ消えない笑みを隠すように額に手を当てた。「俺はずっと、武器からマナを放つのが限界だと思っていた」
「ネタリの者たちでさえ、あんなことはしない。本当に独自の技だ」
マエナは椅子の背もたれに身を預けた。「その学生の名前は?」
アルドリックは彼女のほうを向き、正直な顔で答えた。「俺の気が散る黒髪」
「それが名前なのか?」マエナの問いは、鋭い視線とともに放たれた。
それに気づくことなく、アルドリックは記憶を辿り続けた。「最初の試みはサーベルだった。タジを当てられなかったくせに、刃が寒そうに見えたせいにしていた」
マエナは目を細めた。「寒そう……」ゆっくりと目を開きながらつぶやいた。
「自信があるようでいて皮肉な口調で、髪を小さな束にまとめていたか?」
アルドリックが一度頷いた。「そうです、彼です」
マエナはわずかに微笑んだ。「ダウンフォール」
短い沈黙の後、指揮官は姿勢を正し、肘を机の上に置いて指を組んだ。声のトーンが急に変わった。
「もう一つ、呼んだ理由がある」
視線が机の上の書類に向けられた。
「クロスゲートから報告が届いた。一件は特に深刻だ。ネテリアで何かが起きている」
「報告には何と?」アルドリックが緊張した。同じ重さを持った視線を向ける。
「我々のギルドに所属するヴォイドストライダーが重傷を負って戻ってきた。変異した怪物たちが集団を形成しているという情報を持ってきた」
「まるで攻撃部隊を編成しているかのようだ」マエナがつぶやいた。
アルドリックは腰のサーベルを握り締めた。「ネタリ側はどうだ?支援を求めているのか?それとも彼ら自身の仕業か?」
マエナは手のひらを机の上につき、椅子から立ち上がった。
「彼らが関わっているかどうか判断するには、情報が足りない」
「協定に従って行動する。ミッションを通じた支援は継続する。だが、これが彼ら同士の衝突なのか……それとも罠なのか、見極める必要がある」
アルドリックが一歩前に出た。視線に攻撃的な色が宿る。
「俺が調査できます、マエナ」
「お前をこの学院に連れてきたのは、学生たちをできる限りよく育てるためだ、アルドリック」
「それと、ここでは指揮官と呼べと言っただろう」マエナは彼のほうを向いて言った。
「カエルスに調査を命じた」
アルドリックのトーンが変わった。「なぜカエルスが?」
「彼もアンブラルナイトだ」マエナは声を荒げることなく答えた。「彼はアルカノーヴァの講師ではない。すでに決定した。わかったか?」
「わかりました、マエナ」
指揮官は目を細め、また自分の名前を呼ばれたことに口元を引き結んだ。
「授業が終わったら会いに来い、アルドリック。指揮官と呼ぶことをきちんと思い出させてやる」
アルドリックは額に手を当てた。自分でその夜の運命を閉じてしまったことを悟りながら。
執務室の外のアルカノーヴァは、穏やかで静かな空気に包まれていた。授業はつつがなく進んでいる。
廊下に活気をもたらしていた学生たちは、それぞれの教室に収まっていた。
訓練場ではCクラスが厳しいトレーニングを受けていた。
内容は基本的だが激しく、戦闘動作の中でマナをほぼ限界まで使う。
誰かがミスをするたびに、クラス全員がコースを一周走った。
エラーラは文句も言わずに、仲間と同じペースでひたすら汗をかいていた。
一方のAクラスは、激しい授業ではなかった。半円形の中型の教室に集まっていた。
木材は施設への丁寧な手入れの分だけ光を帯びていた。
カインとディランが頭に叩き込んだことだった――指揮官に前日の教室準備を三時間命じられたあの経験とともに。
コルヴィンはゲートの歴史と、百年前にその存在が世界にもたらした変化を説明していた。
授業は最初の遠征から始まり、ネタリとの最初の衝突の年々を経て、八十年戦争の終結まで網羅していた。
アルドリックの告白のおかげで、何人かの学生はコルヴィンの授業の行間をよりよく理解していた。
休戦がいかに脆かったか、破れるたびに緊張がどう積み重なっていったか。
ディランは懸命に授業に集中しようとしていた。カインは意識を飛ばし、自分が拷問と呼ぶものから逃げていた。
二時間の授業は膝をついたまま過ぎていき、鐘の音という解放がようやく訪れた。
学生たちは肩に情報の重さを抱えたまま歩いて出ていった。
カインは生きていないかのように廊下を漂った。
「ディラン!」教室を出たとたん、ルカンが声をかけた。「ちょっと話せるか?」
「カイン、次の授業に先に行ってろ。すぐ追いかける」
「行くな。もし機会があるなら、二度と戻ってくるな」カインは安らかに眠れない霊のように漂いながら言った。
「ついてきてくれ」ルカンは首を傾けながら言った。
二人は理論授業棟の正面にある広場に降りた。
「エラーラはCクラスのことをどう受け止めていた?」
ルカンのいつもの不満げなトーンが消えていた。
「少し気にしていたみたいだ」ディランは落ち着いて答えた。
ルカンが近くの木に寄りかかった。「少し?本当にそうか?」
「どういう意味だ?」
「コルヴィン先生がヴェイルの話をしたとき、エラーラの顔を見ていた。あれは恐怖じゃない、心配の顔だった」
ディランは答えなかった。ルカンの言葉が、カインとの会話を呼び起こした。
「カインはネテリアに行くことに執着している、わかってるだろ。それが心配だ」
ルカンは木から離れ、ディランを見ながら続けた。
「俺たちはずっとライバルだった。でも三年前に学院に入ったとき、あいつは六ヶ月でランク一位に届いた。最悪なのは、そもそもヴォイドストライダーになる気もなかったのにってことだ」
ルカンがトーンを上げていく中で、ディランは拳を固めた。
「カインの父親が三年前に戻らなかったことも聞いた、本当に気の毒だと思ってる」
「でも三人はその重さを背負うべきじゃない。特にエラーラは、友達だとしても、あいつの執着には他人を引きずる権利なんか——」
「黙れ!……」ディランは背を向け、怒りを隠した。「知ったような口を利くな」
「カインはいつも俺たちのそばにいてくれた、頼んでもいないときでさえ」
ディランは手についた小さな傷跡を見た。「問題に巻き込まれたときでさえ、そうだった」
ルカンは口調を調整した。「お前は違う、お前は最初からヴォイドストライダーになると決めていた、だからランク三位だったんだ」
「でもエラーラは違う……彼女はただカインについていってるだけだ」
ディランは答えなかった。ルカンの沈黙を受けて振り返った。
「複雑なんだ、理解してくれ。俺たちにはそれだけの強い理由がある。気まぐれじゃない、ただ……あいつが自分自身から傷つかないよう守りたいだけだ」
ルカンはディランの目に、自分には理解できない葛藤を見た。
「正しいと思うならこれ以上は言わない。ただエラーラを危険なことに巻き込まないでくれ」
「約束はできない。でもエラーラも大切だ、俺だけじゃなく」
ディランの肩が少し緩んだ。
ルカンが近づき、ディランの隣に立って肩に腕を乗せた。「一発ぶん殴りたくなったら言え。喜んでやってやる」
ディランは笑った。二人は少し楽になって、次の授業へと歩いていった。
ルカンが先に入り、いつもの態度が戻ってきた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。物語を楽しんでいただけていると嬉しいです。
キャラクターたちの関係性は、作者である私自身も書いていて一番夢中になっている部分です。
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