風守愛歌という脅威
(抜け出したい……考えることがある)
カインの目は色とりどりの商人が机から机へと動き回るのを追っていた。声のトーンは耳障りだが、品物の一つ一つを驚くほどの精度で分析していた。
(待って……ある人を思い出す)
頭の中で、小刻みにぴょんぴょん跳ねていた特定の教師を思い浮かべた。駄目、駄目、駄目、この鱗でもっと払ってもらわないと。
(そうだ……この二人を会わせたら耳が痛くてたまらない)
「では、大吾ちゃん。値段は合意ということで……いつも通り詐欺みたいだと思うが」
「ん、質を買っている」
「あぁ……その傲慢さ……全くもって正当なもの。他の者があなたの村と同じくらい手をかけて準備した素材を持ってくれば……もっと安く買い叩けるのに」
隆世が三枚の皮と花のある場所まで歩いた。
「いつも通り、皮は悪くない。でもこの植木鉢……この花、俺の弱みをよく知ってるね……大吾ちゃん」
「気に入らなければ返す」
「植木鉢で上乗せはしない……牡丹は別だが」
「ん……」
「笑うな……弱みを利用して金を引き出そうとするのが気に入らない……問題なく払えるとしても」
カインは隆世が仕分けていく植木鉢を眺めた。
(シラミネの分じゃないか、あれ)
「これ以上ぼったくらせない」
隆世が二度、間を置いて手を叩いた。同じ人間たちが入ってきて荷物を運び始めた。
「大吾ちゃん、いつも通りのものが欲しいんだろう?」
「香辛料を多めに。それと緊急用に獣を払う道具が欲しい」
「かなり高いものを頼んでいる……三つ出そう。持ってきてもらう核への先払いとして一つ追加する」
「俺の許可なく取引を結ぶな」
「ではボーナスとして。明日には代金と購入品が全部荷車に積んである。では行って……一緒に食事してから」
「ん」
呼ばれてもいないのに護衛たちが食事を乗せた盆を持って入ってきた。まるで舞台の上を歩くように。机に並べていった。
カインは目を見開いて食事を眺めた。何種類もの魚、海老、蒸気をまだ立てている手作りのパン。
舌を上顎に当てて何度もこすった。
(よし、カゲヤ……今日はっきりさせてやる。甘いものより魚の方がいかに上かを)
「無理しなくていい、カゲヤ。隆世は気にしないほうだから」
「あぁ……レトウちゃんは魚が嫌いなのかい?」
「ん……そうだ」
「視野を広げているところです。何でも食べられます」
「あぁ……どうぞ、美味しそうなものを何でも……ただし触ってから残すのはなしで」
(「気にしない」はどこへ行った)
カインが箸を取り、皿に魚を乗せて一口かじった。前と同じほどの嫌悪感はなかった。しかし飲み込もうとすると逆流しようとした。
顔の表情を変えずに、喉で逃げようとしたものを捕まえて無理やり下ろした。
「レインボートラウトはどうだった、レトウちゃん」
「捕まえるのが難しいですね」
「あぁ……素晴らしい観察。捕まえるには特定の技術が必要だから……だから俺は買うだけにしている」
隆世はカゲヤが食べるのをもっとじっくり見ながら微笑んだ。
「なるほど……だからムスビガリにそういう条件が出た。血の中から来た自信……世間を知らないまま」
「ん……また始まったか」
「俺の家で俺の食事を口にしているんだ……最高のもてなしへの支払いだよ。ところで、レトウちゃん……風守に負けた時の言い訳は考えてある?」
カインが食道にもう一切れ無理やり送り込んだ。
「訓練が足りなかったと伝えるつもりでした」
「あぁ……ということは後継者を知らないと」
「ん……覚えていない。子どもの頃に引き合わせたことがある」
「大吾ちゃん、だから自信満々でいられるんだ……分かっていない」
(質問なしの試験みたいだ)
「向こうも俺のレベルを知らない」
隆世の眼鏡のレンズから一瞬だけ輝きが消え、次の瞬間さらに強く光った。
「彼女が"負ける"時にそこにいるよ……賭けは可能としても……」
「賭けはなしだ、隆世」
「そう言わないで、大吾ちゃあん。二つの氏族の対決を見られる機会は毎日ない」
カインが海老を一つ取った。
(でかい……)
「ん……長くはかからない」
噛みながら、カインは笑みを浮かべた。
(強いと言っている。手加減はしない。よく読んでる、大吾)
「そうだね……賭けが終わる前に決まりそうだ……そこまで落ち着いているのは意外だが」
「カゲヤがあの条件を出した結果だ」
「レトウちゃん……苦労するよ」
(……)
「予測しにくい戦い方をする」
「ジャ……じゃじゃ……ジャ……」
(笑い方まで癇に障る)
「大吾ちゃん……何も言わないその習慣……情報不足で問題を起こす。俺がそこにいる必要があることは明らかになった」
「見世物じゃない、隆世」
「あなたほど経験豊富な方にはそうかもしれない……俺は霊眼を随分久しく見ていない」
(霊眼……またネサリは名前を増やした。皿に名前がついていないのが不思議くらいだ)
大吾と隆世は、魚を無理やり食べることで表情を変えないようにしているカゲヤの反応に気づいた。
「普通のことなんだね、レトウちゃん」
(ちゃんが何を意味するのか分からないが、段々うるさくなってきた)
「大吾ちゃんがもう見せた?」
「ん、教えていない」
「あぁ……残念……だから自信があるのかが分かってきた」
「風守が受けるなら……会うことになる」
(神秘的ぶりやがって……好きなだけ賭けたらいい……マエナでさえ俺と本気でやり合ったことが何度かある……短い時間だったが、それでもカウントされる)
「賭けてもいいですよ」
「ジャ……じゃじゃ……」
隆世が大吾の唸りと同時に立ち上がった。
「では……愛歌ちゃんがお前に勝てなければ、欲しいものを全部あげる。負けたら、レトウちゃん……どんな風に負けたか、詳しく聞かせてほしい」
「勝った時は荷車四台で来る」
「あぁ……俺はその話で舞台劇を作る」
「ん……カゲヤ、食べ終わらせろ」
カインが食事に戻り、より力を込めて噛んだ。
(お前も、彼女も勝てない)
「舞台劇は作るな、隆世」
「もう賭けは成立した、大吾ちゃん……その核と引き換えに忘れてもいいが、舞台は俺だけのために上演する」
「ん……」
(特にお前はな)
全員が食べ終えた。カインの眉が少し震えていた。
「もっとゆっくりしてもらいたいが……俺は忙しい。もう出て」
一度手を叩くと人間たちが入ってきた。
「銀川様、何かご用でしょうか」
「一番高い宿に泊まれるように案内して……請求はなしで。それ以上の価値がある賭けがある」
「ん」
「承知しました、銀川様。こちらへどうぞ」
二人がついていきかけると、隆世がカゲヤを止めた。
「結果を楽しみにしている……俺も風守家に申し込みを送る」
「いいでしょう……向こうとも賭けたらどうですか。そしたら荷車が八台になりますね」
「ジャ……じゃじゃ……ジャ。頑張れ……レトウちゃん」
カインは大吾のように唸りそうになったが寸前で止めて、外へ出た。
「マナがお前たちを守るように、大吾ちゃん」
「マナがお前を守るように……」
人間の案内人の後を歩きながら、カインは目が離せなかった。足首の枷を何度も視線が追った。
(あれがマナをほとんど感じられない理由と関係しているのか)
「ん……言葉には重みがあると言っただろう」
「今回は氏族の名前を出していない」
「直接的にではないが……じきに分かる」
(カゲヤの人生に関わりすぎているのは分かっていう……でも今まで起きたことを考えると、簡単には止まれない)
「彼女はそれほど強いんですか」
「かなり」
「俺をボコボコにさせるために彼女を選んだんですか?」
「ん……ただお前が出した名契り高を尊重しているだけだ」
(今笑っただろう)
「思い通りにならなかった時に文句は言わないでくれ」
「まだ確定ではない。風守家は断るかもしれない。後継が家の名を失うことを望まないだろう」
(ほぼ間違いなく愛歌が後継者だ。名誉、地位、氏族の重みを散々聞いた後では……断るだろう……)
「それは……惜しいな……」
「ん……ただ愛歌は戦いのためだけに現れるかもしれない」
「後悔することになる」
大吾はカゲヤの顔に浮かんだ自信の表情を横目で見てから、何も言わずに続けた。
宿に入ると、案内人が受付の者に誰かを告げるのではなく、請求しないよう伝えた。
「これで失礼します、朝比様」
「ん」
受付の女性が一礼して、ついてくるよう促した。一番上の階まで案内して、部屋を開けてから、何かあれば呼ぶようにと言って去った。
カインが部屋を確認した。かなり広く、洗練されていた。特に前の街の宿と比べると、思っていた以上の設備が揃っていた。
二つのベッドの前で立ち止まった。
(あと三晩。乗り切れる)
「風呂に入れ、カゲヤ。早く寝る」
「分かりました」
カインが浴室に入ると、湯船とシャワーがあった。
(ここにはシャワーがある。人間の文化の影響か。よし……もう桶を使わされることへの怒りとはおさらばだ)
服を脱いでシャワーに入った。
(これが準備してきた全ての時間の意味だ。失敗はできない)
ルーンに近づけた指が震えた。触れる瞬間に唾を飲んだ。目を閉じて、今度は力で押し込もうとするのではなく、反応させようとした。
マナが核から指先へと流れた。涼しい小さな風のように感じた。
最初はただ指に何か変化があるか感じることに集中した。力を抜いた瞬間、ルーンがじんわりと温かくなっていくのを感じた。
もう少しマナを流してから、思い切ってつまみを回した。水が冷たく来る場合に備えて横にずれた。
湯気が出てくるのを見て瞼が全開になり、叫びたくなるのを必死に堪えた。
水に触れてからもう一方の蛇口を少し開けて温度を調整した。ちょうどいい温度になった瞬間、全身で入った。
「あぁ……そうそう……ははは。今夜はここから出ない」
カインがリラックスして、顔を上に向けた。しばらくの間、ただ温かい水だけを感じた。
少し冷えてきたと感じると、またルーンに触れた。
(二度と桶には戻らない……)
ルーンを見つめた。
(これはどういう仕組みなんだろう。シラミネ……説明が本当に下手だ。まだマナが変換されているのか、ルーンが共鳴しているのかも分からない……)
「共鳴……この世界への人間の影響みたいに」
壁に頭を預けた。温かい水が背中を叩いていた。
(ある形で始まって、やがて別の結果を引き起こす)
素早く体と髪を洗って水を止めた。拭いて服を着てから部屋に出た。
「ん。次は俺の番だ。寝る準備をしておけ」
「はい」
大吾がシャワーに入ると、カインはバルコニーへ向かった。
欄干を掴んで街を眺めた。夜が風景を変えていた。丸い灯りが通りと川を琥珀色に照らしていた。
まだ通りを歩いている人々がいた。遠くで弦楽器が旋律を奏でていた。
顔を上げると、ミズキリの空に月が昇っていた。それを取り囲もうとしている何かがあった。より小さく、同じ銀色でより強く輝いていた。
(気づかなかった。この世界では月まで違う)
腕を欄干に置いて、視線をミズキリの通りへ戻した。灯りの光が目に映っていた。
黙って眺め続けた。
(ごめん、ダイラン、エラーラ、兄弟……お母さん。でも帰る前にやらなければならないことがある)
指輪のあるべき指を押さえた。
(セス……)




