銀川隆世の市場
会話は三人の大人に戻った。大吾が地図を指差した。漣が三枚の地図を二度確認してから選んだものだった。大吾自身が調査する区域を示した。
「ん、兵士が二人必要だ。村を無防備にはできない」
漣はすでに書き始めていた。
「任命する兵士はすでに把握しています、朝比様。増援が必要な場合の候補も選定済みです。また、警備能力を損なわずに兵力を提供できる王国の領域についても評価を終えています」
「ん」
「愚痴を言うな、大吾。お前の村はアマイア森の……」
「南にある。周辺にはすでに仮設基地をいくつか設けているため、軍事支援は難しくない」
「……小夜子……」
大吾が地図の二点を指で叩いた。
「その地点にはすでに部隊を集中させています、朝比様」
「そうだろうと思った。まずい」
「なぜそう思われますか」
「戦争の戦略を使っている。魔物の狩りではない」
漣がまばたきせずに地図を見た。
「ん。その場所は森から都市への最短ルートだ」
「だから守っている。マナの消耗が最も少ない場所だ」
「結果として西へ、そして南へ向かわせることになります」
「それが目的だ、大吾。リスクを冒して殲滅しに入るわけにはいかない」
「それはあの獣の目的が都市や村への攻撃にある場合だけだ」
霧生が顎を少し掻いた。
「他にあの森を越える理由が……」
「ダンジョンの亀裂。銀の魔物は単にその区域へ広がっているだけかもしれない。あるいは銀のマナが獣を腐敗させるための意図的な策かもしれません」
漣が地図から目を離さずに言った。まだまばたきをしていなかった。
「銀のマナが亀裂の原因であり、ヴォイド・ストライダーの不在が原因ではないと仮定した場合、武器である可能性が高まります」
カインは部屋の奥に座り、手で右目を覆っていた。ヴォイド・ストライダーという言葉を聞いてからわずかに顔を上げた。
「単純な腐敗である可能性も無視できない、霧生」
「全ての説を同時に追うことはできない」
「ん。選択肢を狭められる。この場所に部隊を……」
「理解できます、朝比様。敵を西のみに展開させれば、アマイア森に留まる時間が長くなる。結果として銀のマナが減少し、都市から遠ざけながら南への備えも取れる」
「ん」
「小夜子、少しはまばたきをしろ」
二人が地図を見守る中、漣がようやくまばたきをした。霧生が黙ったまま地図の三点を順番に指差した。
「ナリワダチと繋がる道の兵力を減らし、緋吹砂王国に警備の支援を要請する必要がある」
「ん」
三人がアマイア森の広がりとその終端を眺めた。
「小夜子……」
漣が立ち上がり、両手を後ろで組んで霧生を見た。
「首都シンケイと部隊移動の使者を直ちに手配します、戦鎧将軍」
……
「残月への警告を優先します」
「急げ、小夜子」
「日が沈む前に出発させます、戦鎧将軍」
漣が両手で三角を作ってから向きを変え、自室へ入っていった。
「大変な時期になるな、彼らにとって」
「できることはそれしかない。小夜子が三つの戦略をまとめて準備させ、増援要請の必要性を強調する」
「ん……五つになるな」
霧生は視線を地図に戻した。森の西にある都市、アマイア砦の向こう側へ。
「追い詰めることにならなければいいが」
大吾が一度唸ってから机を離れた。
「難しい。だが義務を果たせ」
「ジョ——ジョ。その言葉を聞かずに済んでいたとは正直言えなかったな」
「兵士たちを村で待つ」
「ありがとう、大吾。マナがお前を守るように」
「マナがお前を守るように、霧生。カゲヤ、行くぞ」
カインが立ち上がり、胸元より上に視線を上げないまま大吾の後をついた。
「マナがあなたを守るように、アサヒさん」
霧生を見ずに、カインはただ手を上げてからドアを閉めた。
「ジョ——ジョ。俺が思っていたより堪えたようだな」
カインは大吾の後から門を出た。帰り道は倍の長さに感じた。
「アサヒ狩人。用件は片付きましたか」
「ん。完全にではない」
「それは残念です」
「一つ聞かせてくれ。ガイリャクシャなしでどうダンジョンを閉じている」
若い兵士が振り返った。
「民間人に情報を漏らせません」
「黙れ」
年上の兵士が言った。
「気にしないでください、アサヒ狩人。実は休暇の日に依頼を受けています。手当が助かっています。ただ業務量が限界に近い」
「犠牲者は出ているか」
「ほとんどいませんが……」
兵士が声を落として近づいた。
「治安が落ちています」
「ん。分かった。ありがとう。マナがお前たちを守るように」
「マナがお前を守るように」
大吾が歩き始め、カインがついていった。二人が十分遠ざかると、若い兵士が年上の方へ近づいた。
「なぜそんなことを話したんですか」
「若い者は歴史も、それを作った者も知らない。仕事に戻れ。終わったら説明してやる」
若い兵士は鎧の中で震えた。あの授業のことを思い出して。
「ありがたいですが、お断りします」
その先の道で、カインは川沿いの建物を横目で見た。兵士と裕福そうな身なりのネサリたちが言い争っていた。
耳を向けたが、断片しか聞こえなかった。税のこと、貴族への負担、道が危険になっていること。
一度息を吸ってからまた視線を落とした。数分歩くと、大吾がある店の前で止まった。
「ここで待っていろ。頼みたいものがある」
カインがうなずいた。大吾が中に入ると、欄干に寄りかかった。川が止まることなく流れていくのを眺めた。
人の多い街のざわめきの中で、水が進む音と川の香りだけが肺に届いた。
そうしていると、打撃音が耳に届いた。TIN。もう一度。TIN。
音がはっきりしてきて、大吾が入った店の方へ視線が向いた。
金床の上で鋼を打つハンマーの音が、周囲の音を圧倒した。
(何を頼みに入ったんだろう。……いや、俺には関係ない)
目を閉じてまた川に向き直った。
数分後、大吾が出てきた。
「行くぞ、カゲヤ。市場へ寄る」
「分かりました」
黙って歩き続け、市場に着いた。そこでもまた、いくつかの商人が大吾に挨拶した。
進み続けると、場全体を仕切っている男のところへ辿り着いた。こちらに背を向けて、大柄な男たちに指示を出していた。声は大きいのに、音は妙に歌うような、やや耳障りなトーンだった。
「客の目に入るはずのない箱で屋台を飾っている。発想は認めるが……解雇させないでくれ」
「すぐ動かします、銀川様」
「目立たない場所に置くように……少しくらいは目立たせたいとしても」
大吾がその後ろに立った。
「ん、隆世。荷車の荷物を運んでもらいたい」
ネサリが振り返った。何本もの色とりどりの三つ編みが顔の半分を覆っていた。色違いの宝石が埋め込まれた片眼鏡。そして自分自身を誇りに思っているかのような半笑い。
「あーあ、大吾ちゃん。随分遅かったね……来週まで待つつもりだったのに」
「狩りが増えた。ダンジョンの素材もある」
「その珍しいものに早く手を触れたいね……最近はそれしか見ていないとしても」
「ん」
「いつも焦り過ぎだよ、大吾ちゃん。今すぐ対応するから……忙しくても」
隆世が両手を打ち合わせた。すぐに三人の男が現れた。
「お気に入りの小ちゃいのの荷車から全部持ってきて。忘れずに、丁寧に……何度も往復したくないとしても」
「承知しました、銀川様」
カインはその男たちが去っていくのを眺めて、耳が尖っていないことに気づいて動きを止めた。
念のため、大吾の耳を見て、それから隆世の——かなり長い——耳を確かめた。
(あの人たちは……人間だ)
「あーあ、ついにご子息も連れてきたんだね、大吾ちゃん。何年も経ってから仕事を教えようとは……ようやくやる気になったか」
「ん。うるさい、隆世」
「商人に黙れとは言えないよ。言葉は俺たちが持つ最も強い武器だから……護衛もいるけど」
(何が起きているんだ)
「いつ終わる。情報が欲しい」
「少し待って。俺の仕事は難しくない……みんながちゃんとやっているか確認するだけだから」
隆世が声を張り上げて市場の指示を始めた。
「荷物が届いている。大変なのは分かる……でも初めてじゃない。動いて!あなた、そちらの人、ずっと同じ時間待っている。そろそろ反応を見せてほしい」
年配のネサリの女性に近づいた。
「まだまだ学べる年齢だよ……そろそろ経験を見せてくれると期待しているが」
もう一度手を打った。
「行って!一日はまだ若い……日がもう傾いてきているけど」
カインは色とりどりの三つ編みを揺らしながら市場中を動き回るそのネサリを見ずにいられなかった。それぞれの三つ編みに合う色の服を着た護衛がついてきていた。
(市場というより劇場だ)
人間たちが大吾の荷物を運んできた。どこへ持っていくか聞きもしなかった。何往復かした後で、隆世が自分に拍手した。
「食事が終わるまでは席を外す……市場を燃やさないで。一緒に来る、大吾ちゃん?」
唸ってから、大吾がカインを連れて後に続いた。随分豪華な建物だった。
中では素材がすでに机の上に整然と並べられていた。整然すぎるほどに。
「あーあ、いつも手際がいい……ホネガラの骨はそこじゃない。核の密度が普通じゃない」
「はい、銀川様。ハルドル、その素材とトカゲビトの鱗——光っているものだけ——移してくれ」
(ハルドル……人間の名前だ。ヴォイド・ストライダーには見えない。マナは感じるが、量がごくわずかだ)
また隆世の三つ編みをつい見てしまった。
「小さなアサヒさん、美しいものを見る目があるようだね」
(小さい?)
「ん……あまり派手なものを見慣れていないだけだ」
「あーあ、大吾ちゃん。貴族の象徴は誇りを持って示さなければならない……示さない人もいるが」
「また始めるな」
「怒らないで。頭に入れておいてほしいだけ……何度目になっても。カゲヤが三つ編みをしていないのが不思議だよ」
「義務が先だ」
「地位を示すことも義務だ……重く感じる人もいるが」
「示すことと背負うことは違う」
「あーあ……大吾ちゃん、それはまるで……」
「その話をしに来たわけじゃない、隆世」
隆世が大きく両腕を広げた。素材の配置が終わると手を打った。
「食事を持ってきて、検品が終わってから……それより前は駄目」
カインは人間たちが出ていく際に、足首に嵌まっている枷のようなものを見た。
「孔雀隊を出してもいいよ。大吾ちゃんが暴れそうになったら……入ってきちゃ駄目」
「承知しました、銀川様」
全員が同時に答えた。
護衛たちが全員出ていくと、隆世が笑みを浮かべた。
「娘が二人いてね。カゲヤと同じくらいの年だ」
大吾がわずかに口元を動かした。
「ん……名契り高は難しいだろうな」
「あーあ……ムスビガリの難しさを前もって伝えてくれているわけだ……俺の家を甘く見ているとしても」
「条件がある、カゲヤが出したものだ」
(また始まった……)
「どんな条件?」
「戦いで勝てること」
隆世の片眼鏡が目の前でくるりと回ったように見えてから、大吾を見た。
「それは……簡単ではないね」
「ん……」
「その笑いは、もう具体的な家を考えているということだよ、大吾ちゃん。どこか見当がついた……教えてくれ」
「風守だ」
「あーあ……素材の話に戻ろう」
(その反応は気に入らない)
隆世がカインの表情に気づいた。
「カゲヤさん……どこでそんな考えを持ったのか知らないが、自分がどこへ踏み込んだか分かっていないようだ」
「……それは今日一日を表している」
「あーあ……一日では済まないよ。信じてほしいが」
(……お前には分からない)
「では、大吾ちゃん……これを全部どこから。素材によってはマナの密度が普通じゃない」
「ん……亀裂を起こしたダンジョンだ」
「それだけでは……説明にならない。骨のマナ濃度が高すぎる。トカゲビトと争っていたか」
「そう判断した。ホネガラの残骸がダンジョン内にあった」
「閉じたのか」
「ああ、頭を仕留めて核を取り出した」
隆世が布に包まれた球のようなものを眺めた。
「次に持ってくる時はホネガラのダンジョンの核を頼む……他に先に持っていったら半額にする。全部持ってきてくれれば倍払う」
「ん。知っていることを話せ」
「その情報には値段がある、大吾ちゃん」
「北市場のことを思い出した」
「あーあ……言葉で遊ばないで」
「後で交渉しよう、隆世。銀の脅威について知っていることは」
ホネガラの骨を一本取り上げて鱗に打ちつけ、割った。
「俺をもっと金持ちにする可能性がある。そしてミズキリを壊滅させる可能性もある。ホネガラのダンジョンはまだ見つかっていないと推測できる……そうだろう?」
「ん。村の北の方にあるはずだ」
「帰ったらやることがある……ただし急いで。モンスターが多いからではなく、あの核が必要だから」
「理由を言え」
「霧生ちゃんに会うためにその核が必要だ。断言はできないが……銀のマナはダンジョンに徐々に影響を与えているようだ。魔物だけでなく」
「ん……」
隆世が歩きながら、ゆっくりと笑みが広がっていった。
「タイミングよく動けば、三つ編みをもう二本足せる」
「ミズキリを借金漬けにするつもりか。三つ編みが増えても地位は上がらない」
「俺にとっては上がる、大吾ちゃん。では商談といこう」
片眼鏡が一度くるりと回ると同時に、隆世がその笑みを作った。
「俺たちの決断が意味を持つ場所に来た、大吾」
「ん。まず素材の代金を払え」




