迷いという名の枷
矢が木に刺さる乾いた音が、クロサワに今の状況を理解させた。
カゲヤが剣を持ったまま右目を覆っているのを見て、馬鹿なことをしようとしていると感じた。
「何をしている!弓を構えるか風の攻撃を放て!全員を道連れにするな!」
カインはゆっくりと手を下ろした。視線はトカゲビトに固定されたままだ。
「村の次の頭領になりたいのか。獲物を怖がっているうちはなれない」
その言葉がカゲヤの口から出たことに、クロサワは歯を食いしばったまま返せなかった。つい先ほど命を奪いかけた矢のせいで、体が震えていた。
若いネサリたちが武装した魔物による連携攻撃を受けるのは全員初めてだった。
カインにとっても同じはずだった。しかしその時の状態が感覚を切り離し、ミヤマとクロサワが感じていた葛藤を無意識に無視させていた。
瞼が開いた。瞳が広がった。トカゲビトを見つめるその強さは、あの緑の目から出たことがない類のものだった。
立て直す間もなく、二人はカゲヤが脅威に向かって踏み出すのを見た。
木を盾にしながら前進した。幹が視界を繰り返し横切っていった。
カゲヤのことで初めて感謝した——自分の体より優れた視力。
動きながら障害物の間を縫っていても、全ての動きを追えた。
矢が飛んできた。顔を傾けてかわした。穂先が空気を切る音が耳を掠めた。
その瞬間、最初に誰を狙うか決めた。グループから最も離れた一体だ。
力強く地面を蹴り、マナの爆発で体を直進させた。
カゲヤのマナが短剣を包んだ。エメラルドグリーンに淡く輝いた。
爬虫類たちは反応が間に合わなかった。一瞬で、カインは距離を詰めていた。
追いついた瞬間にもう一度地面を蹴り、マナを纏わせた刃をトカゲビトの喉に刺し通して木まで引きずった。幹に両者が激突した。
衝撃で樹皮が弾け飛んだ。
手に衝撃が走ったが、体の骨をマナで強化していた。
休まず続けた訓練のおかげで、知っている技をより自然に使えていた。
その轟音はミヤマとシラミネのいる場所まで届いた。
刃を引き抜き、マナを纏わせるのをやめて後ろへ跳んだ。死骸が倒れた。
(マナの使い方に気をつけないと)
空中で、前を矢が通過する中、残り二体の位置を確認した。盾を持つ一体が最後の弓使いを庇うように動いていた。
着地して身を隠した。同じ攻撃は繰り返せない。
木に背をつけると、手と脚にじんじんとした感覚があった。
(強化しても)
慎重に覗いて、トカゲビトたちが固まったまま近づいてこないのを確認した。
接近する方法を探していると、岩の攻撃と風の突風が魔物の近くに着弾した。
遠くでクロサワとミヤマが攻撃を再開していた。
「アサヒに手柄を取られてたまるか。止めるな、ミヤマ!」
盾の爬虫類が攻撃を防ぐことに専念した。土と雪が衝撃で舞い上がった瞬間、カインは今だと判断した。
迷わず踏み込み、誰にも気づかれないまま土煙の中へ入った。友軍の攻撃に巻き込まれるリスクを取りながら。
弓を持つ獣がいる場所を一瞬も忘れずに、一直線に進んだ。
風と岩がぶつかる音で、盾持ちはカインの気配に気づかなかった。
弓の爬虫類にとって、カインは空中から突然現れた。驚きで矢を放ってしまい、外れた。
カゲヤの体が魔物に乗り上げ、体を弓なりにして、マナを纏わせた刃を目に突き立てた。
青みがかった血が顔に飛び散った。一度も瞬きしなかった。
落ちながら、獣が最後の引き裂くような断末魔を上げ、盾持ちに知らせた。
立ち上がりながら刃を引き抜き、残り一体の位置を素早く確認した。時間を無駄にできない。
もう一度足元で爆発を起こした瞬間、核のマナが底をつきかけているのを感じた。
それでも、刃を下に向けてエメラルドグリーンに淡く光らせながら近づいた。
まだ流れは自分にある——爬虫類は向きを変えている途中だった。斜め上への薙ぎ払い。鱗と皮が綺麗に分かれた。
しかし切り込みが浅かった。目を見開いた。
(この腐った爪楊枝が!)
勢いを止められないまま、盾の直撃を受けて吹き飛ばされた。
地面に叩きつけられ、体が雪を引きずった。
岩と風の攻撃は止んでいた。先ほどの土煙が晴れていった。
森全体が回っていた。肺から空気が消えていた。
その状態でも、トカゲビトが湾曲した武器を抜いてこちらへ走り出すのが見えた。
ひどい体勢でなんとか起き上がり、口で荒く息をした。
目の強さは消えていなかった。顎が固まった。備えた。
獣が縦に刃を振り下ろした。よろめきながらかわした。
小刻みに跳びながら後退を続けた。木に激突しないことだけを気にして、横目で周囲を確認しながら。
体が重くなってくるのを感じた。
(もう限界が近い……)
賭けに出た。動きを小さくしてトカゲビトにミスをさせた。
攻撃を屈んでかわした。爬虫類の体が開いた。
それを待っていた。盾で体を隠せない瞬間を。
すぐに飛び込んだ。片手で盾を掴み、もう片方の手で残ったマナを纏わせた刃を気管へ向けて突いた。
刃が生き物を貫いた。しかし疲労で狙いが外れた。
低い唸りとともに、獣は盾を捨ててカインの首を掴み、木に叩きつけた。
武器を手放せないまま、カインは自分を掴む腕にしがみついた。
剣を持つトカゲビトの腕が伸びるのを見た瞬間、核にマナが残っていなくてもかまわないと決めた。
片脚に大量のマナを集め、致命の一撃を防ぐ準備をした。
しかしその前に、風の音とともに緑の光が、湾曲した剣ごと腕を切り落とした。
腕を失った衝撃で、獣はカインを放した。カインが地面に落ちた。荒い息をしながら、助けてくれた相手を目で探した。
クロサワが息を切らしていた。
間を与えずに、クロサワが全力で二撃を放った。
一撃目が外れ、カインの近くを通過してかがまざるを得なかった。二撃目が胴体から魔物を真っ二つにして幹に激突し、消えた。
部位が地面に落ちる音が、二人を包む静寂の前触れになった。
カインが頭を覆っていた手を下ろしてクロサワを見ると、ミヤマの姿がなかった。
「証人がいない方がよかったか」
「あ?」
「何でもない。ミヤマはどこだ」
「命を救ってもらった相手にそれだけか」
「今はそれどころじゃない。残り一体を片付けないと」
クロサワがカゲヤに近づいた。
「説明してもらうまでどこへも行かない」
「今じゃない」
「今だ!あんな技は見たことがない」
(爆発のことか、マナで強化したことか。武器を纏わせたのは隠せたと思うが)
「……聖花道で覚えた。風の……小さな爆発だ。それよりも行かないと」
「学院に行ったからって俺たちより上だと思っているなら、馬鹿にしすぎだ」
カインが木に手をついて立ち上がった。
「危ないと言っている、五番手」
「俺たちは何年もリスクを負ってきた!それを今さら偉そうに」
「狩りに出ることとは違う」
「お前に何が分かる!?」
カインの歯が砕けそうなほど食いしばられた。
「お前には俺が何を……!」
自分の声のトーンで、言葉がぴたりと止まった。口が開いたまま固まった。瞼が全開になり、目が虚空を向いた。
クロサワが表情の変化に気づいた。
「その態度が続かないのか。言えばいい、学院に行ったから俺より上だと。お前がマナの繋がりを無視できているのが信じられない」
「何のために来た」
「頭領の息子を任されて死なせるわけにいかない。お前と違って、俺は自分の人生で何かを成し遂げたい」
言葉は聞こえていた。しかし理解できなかった。今感じたその感覚にまだ沈んでいた——誰でもいい、誰かに今まで経験してきたことを話したいという衝動。
屈んで剣を拾い上げて、クロサワを無視して歩き出した。
「どこへ行く。まだ終わっていない」
歩き続けた。指輪のない指を強く押さえながら。
「聞こえているか」
クロサワが苛立って近づいた。その瞬間、カインが剣をクロサワへ向けて、横目で見た。
その目に漂う距離が、言葉を必要とさせなかった。これ以上近づけばどうなるか、クロサワには分かった。
舌打ちをして、クロサワは他の者たちの方へ向かった。カインは歩き続けた。
木と雪だけに囲まれるまで離れた。力を込めて、剣を地面に叩きつけた。
「俺はどうなっているんだ!なぜあんな気持ちになった!?」
右目を覆った。答えが返ってくることを期待するかのように。
「あいつらは俺とは関係ない!助けてもらう必要はない。助けなんていらない!」
木にずり落ちるように座り込んで、目の前の剣を見つめた。
「なぜこいつらのことが気になるんだ。関わって何も得しない。あと何をすれば帰れる」
目を閉じて、頭を両手で支えた。風がその動揺を冷やしていくようだった。
何分かそのままでいた。自分のものではないと感じる感情を、一つずつ手放していった。
何度か深呼吸をしてから立ち上がり、剣を拾った。
「前に進み続けるしかない。帰る方法を見つけるまでは」
迷いを言い聞かせて、脚が自然と戻る道を選んだ。
(迷うな、カイン)
今月は色々と大変でしたが、『ネサリア』への情熱の方が勝っています。
読んでくださる皆様、ここまで物語を追いかけていただき、本当にありがとうございます。
特に、本作に10点の評価をつけてくださった方には特別な感謝をお伝えしたいです。楽しんでいただけてとても嬉しいですし、これからも気に入っていただけることを願っています。
引き続き、新しい章をお届けしていきます。改めて、皆様ありがとうございます! :)




