ナタンの重荷
ピンクがかった黄色のくるくるとしたツインテールを揺らしながら、一人の少女が通りを歩いていた。その背後では、太陽がすでに空高く昇っている。
青い屋根瓦の家に近づいた少女は、玄関の前でぴたりと足を止めた。
「ナァァァタァァン!」腕を振りながら、力いっぱい声を張り上げる。
家の中から、同じ温かみを持った声が返ってきた。
「今行くよ、レア!」
続いて、誰かが走る音が聞こえてきた。
「ごめんね、お母さん。また朝ごはん持って行くね」
騒ぎはどんどん大きくなる。まるで習慣のように、レアは扉の前からさっと身を引き、小さな石畳の小道を外れ、草の上に立った。
身を引いた瞬間、扉が勢いよく開いた。カインが駆け出し、彼女のすぐ脇を通り過ぎる。
紺色の制服姿だった。黒い刺繍と、黒糸で縫われたアルカノーヴァの紋章が胸元に輝いている。
通りに出たところで一瞬立ち止まり、振り返る。見覚えがあるようなないような顔で、右目を閉じ、左目だけで彼女を見た。
「レア!おはよう。兄さんのこと、頼んだよ」
彼女が手を上げようとした瞬間、彼はもう走り去っていた。
笑顔のまま腕を下ろすと、背後で小さな音がした。
ナタンが扉を閉めながらつぶやいた。「また遅刻ギリギリか。足が速いのが救いだな」
「カインは何も変わってないね」レアが笑顔で言った。その声には、いつもの活気があった。
「そうでもない」ナタンは施錠を数秒見つめてから、振り返ってそっと言った。
二人は並んで歩き出した。レアが体を揺らしながら隣を歩く。
二ブロック目を過ぎたところで、ナタンが沈黙を破った。
「あいつの行動は、昔と変わらないように見える」前を向いたまま話す。
「たった六ヶ月で一位になったの、覚えてる?」
レアは人差し指を唇に当てながら頷いた。「うん、覚えてる。あの頃は本当に大きな変化だったよね」
「しかも、あいつがいた学校に入ったばかりだから、昨日記録がまだ残ってるのを見た」
「私も見た」ナタンは前を向いたまま言った。
「あんなことさえなければ……」ぼそりとつぶやいた言葉は、レアの耳にも届いた。
二人は無言で歩き続けた。すると、レアが少し体をひねって横に小さく跳ねた。
「学校の図書館、リニューアルしたって聞いたよ」
前向きに歩きながら後ろ向きに進み、小さくステップを踏む。
「休み時間に探しに行かない?」一本指を立てて、満面の笑みを浮かべた。
ナタンはそのステップを見て、少し表情を緩めた。「悪くないな」
二人は話しながら学校へと向かった。
到着した学校は、アルカノーヴァより簡素な造りだったが、手入れは同じくらい行き届いていた。
セージグリーンのシンプルな制服を着た生徒たちが、のんびりと談笑しながら校舎に入っていく。
ナタンとレアは、少し装飾された校門をくぐり、教室へと向かった。
クラスには徐々に生徒が集まってきた。あちこちで小グループができ、軽い笑い声が漏れてくる。
レアは荷物を置いてから、すでに席についているナタンのところへ歩み寄った。
その笑顔は、いつもと変わらない活気に満ちている。
「カインはちゃんと着いたと思う?」
「ああ、たぶんギリギリ間に合ったんじゃないかな」ナタンは鞄から本を取り出しながら言った。「俺たちの方が授業の開始が遅いし」
レアは本を見てぱちぱちと二度まばたきし、笑顔を崩さないまくるりと向きを変えた。そして女子グループのところへ歩いていき、元気よく挨拶した。
ナタンにとって、読書に集中していたせいか時間はあっという間に過ぎた。
教室のリズムを破る音を、彼は無視した。扉が勢いよく開いたのだ。
「おはよう」先生が教室に入り、扉を閉めた。
「今日は初日なので、まず自己紹介をしてもらいます。その後、最初の授業を始めます」
黒板のほうへ歩きながら、学校の名前を書いた。
「この学校に入学できたことを、おめでとう。十四歳という出発点を迎えた君たちへ」
しゃべり方は非常に単調で、毎年同じことを繰り返しているのが一目でわかった。「ここでは将来の職業を選ぶために、様々なことを経験できます」
「覚えておいてください、ここでは何も強制しません」紙切れを見ながら繰り返す。
「学術的な授業から、学校が提供するワークショップやクラブ活動まで、幅広い選択肢があります」
くしゃくしゃな髪の生徒が立ち上がり、先生の話を遮った。「ヴォイドストライダーになるためのワークショップはありますか?」
先生は生徒を見て、軽く咳払いしてから答えた。
「その選択肢も用意していますが、この学校はそれだけに特化しているわけではありません。ネテリアに直結しない道も数多くあります」
「また、ここを卒業してその職業を目指したとしても、ヴォイドストライダーとしての資格が得られるわけではないことも、明確にしておきます」
答え終わると、先生は生徒を指した。「質問は最後にしてください」
「あ、はい、先生」生徒は腕を組んで座った。
先生は準備していた要約の説明を続けたが、生徒たちはすぐに集中力を失い、互いにしゃべり始めた。
ひそひそ声が耳に届き、先生はため息をついて自分の机に座った。
「では、あの列の先頭から順番に、一人ずつ立って自己紹介してください」
最初の生徒が立ち上がり、二歩歩いたところで先生が遮った。
「前に来なくていいです、席からどうぞ」軽く手を振って言う。
生徒はわけがわからないという顔で席に戻り、自己紹介を始めた。
「シルバーマーク・ライラです」短い髪の生徒が言った。「母のビジネスを継ぎたいと思っています」
次の生徒が立った。「グルームスパイア・エイドリアンです。商人になりたいと思っています」
「ヴェイルブルックと申します。将来はクロスゲートに管理職として入りたいです」
「俺はエロン!ヴォイドストライダーになるんだ!」
なかには変わり者もいた。王国のすべての植物を食べて、その味を記録したいという生徒がいた。
次の生徒が終わると、不気味なほど長い沈黙が訪れた。
「ナタン……ナタン!」レアの大きなひそひそ声が、本から彼を引き戻した。「ちゃんと聞いてて、あなたの番だよ」
クラス全員の視線が、彼に向いていた。
「失礼しました」本を閉じながら言う。
立ち上がり、教室の中央へ歩き始めた。
「席からどうぞと言いましたよ」先生はこちらを見ることもなく繰り返した。
生徒たちから笑いとどっかという声が上がった。ナタンは足を止めることなく席に戻り、何事もなかったかのように自己紹介を始めた。
「ダウンフォール・ナタンです。僕の目標は——」
「あっ!」エロンが席から立ち上がった。「カイン・ダウンフォールの弟ですか?昨日入学したとき、学校で彼の記録を見たんですが!」
ナタンはゆっくりと目を閉じた。目を開けると、聞こえなかったかのように続けた。
「クロスゲートと競うギルドを作ることです。以上です」
ナタンは席に戻り、また本を開いた。エロンだけが一人、ぽつんと立ったままになった。
「エロン、もう座りなさい」先生が気にする様子もなく言った。数人の生徒が笑った。
自己紹介が終わると、先生はいつもより少し熱の入った口調で最初の授業の開始を告げた。
「この授業は、ヴォイドストライダーになるつもりがなくても必修です。私たちの世界は、日々マナを中心に動いています」
先生は黒板のほうへ向き直り、絵を描き始めた……とても下手な絵を。
「たとえパン屋になりたい人でも、マナがどう機能するかを知ることは重要です」
人物らしき棒線画を描いたところに、外側と内側に一つずつ、円を加えていった。
「まず世界のマナについて。これはネテリアから私たちの世界にもたらされたものです。百年前、最初のゲートが現れたとき、このゲートが私たちの世界にこの現象をもたらしました」
「その世代の人々がマナの仕組みと、それが人体に与える影響を理解するまでに十年かかりました」
先生は口で音を立てながら、チョークを黒板に叩きつけた。「時間が経つにつれ、体が周囲のマナを吸収することがわかりました」
円を強調しながら、さらに大きな音を立てる。
「人々はマナを蓄える技術を開発し、体の中に小さな核を作り出しました」
「しかしこの方法は不完全で、蓄えられるマナの量は微々たるものでした」
嬉しそうに頭を傾けてから、生徒たちのほうへ体ごと向き直った。
「時間をかけて、さらに多くの方法が生まれ、現在の技術へと至りました」
先生は描いた人物の輪郭に沿って、太い線をなぞり始めた。
「ここで全てが変わりました。現在の技術では、マナを体に融合させて吸収します」
「これを毎日行うことで、マナの蓄積量が増えるだけでなく、体、筋肉、骨も強くなります」
爆発の音を口で真似しながら線を仕上げた。「ずっと丈夫に、ね」
生徒たちは全員先生に注目していた。真剣に見ている者もいれば、先生の効果音を聞いて口元を隠している者もいる。
「長年の研究の結果、十四歳がマナの訓練を始める最適な年齢とわかりました」
「体を傷めず、吸収効率も最大化できます。私たちがこれを実施してからすでに二十年になります」
「だからこそ、この授業が最も重要なのです」
チョークを持つ腕を、大げさにクラス全体へ向けた。
「私たちの世界のマナはここ数年で増加しており、マナを操れないことは危険なのです」
一人の女子生徒が手を上げた。声には非難の響きがあった。「でも私はただお母さんのお店を手伝いたいだけです」
先生は彼女のほうへ向き直り、チョークで指差した。「関係ない!マナはどこにでもあるんです!」
「重いものを持ち上げたいときや、遅刻しそうで走りたいとき、訓練していなくてもマナを使えてしまいます」
先生は大げさなほど確信に満ちた様子で頷いた。「私たちの体にとって、もはや自然なことなのです」
「マナを使ったとき、無意識のうちに一気に力が増して、重傷を負う可能性があります」
先生は再び黒板に向き直り、電気のような音を口で真似しながら、描いた人物の腕と足を横切る二本の線を描いた。
「この現象はますます増えています。私たちの世界のマナは日に日に濃くなっているからです」
先生は大げさに体を一回転させ、ぴたりと止まった。
先生が意図的に作ったその沈黙の後、クラスからざわめきが起き始めた。
「お母さんが、友達の旦那さんに同じことが起きたって言ってた」
「うちのお父さんも、職場でそういうことがあったって言ってたよ」
そのざわめきも、本を読み続けていたナタンの集中を乱すことはなかった。
先生は再び生徒たちの注意を引こうとしながら、説明を続けた。
「だからこそマナを理解する必要があるのです。ヴォイドストライダーになる必要はありませんが」
しかし無駄だった。
ざわめきの中でエロンが勢いよく立ち上がり、声を張り上げた。
「マナで強くなれるって言いましたよね!?」
その言葉が、クラス全員の会話を一瞬で止めた。
「ええ……」先生は軽く咳払いし、安堵を隠した。「マナはいろんなことができます。治癒を早めることさえできます」
「医学は発展してきましたが、マナによる治癒力はそれを超えることもあります」
先生は自分の前腕にある傷跡を確かめた。
「医師の中には、患者とのマナを組み合わせて……不可能と思われていた怪我を治す人もいます」
その言葉を聞いた瞬間、レアは目を見開いた。頭を横に向けると、ナタンが本を下ろしていた。二人の目が、同じ何かを見ていた。
「じゃあたくさん鍛えたら無敵になれますか」エロンが拳を握りしめ、突き上げながら言った。
「違います……いいからもう座りなさい」
エロンはうなだれて、四度目の着席をした。
「これが、マナの仕組みを知らない人たちが犯す最大の誤解です」
「私たちには操れるマナの量があります。でも限界があります」
「今年教える技術は、その量を増やし、補充の速度を上げることを目的としています」
チョークが生徒一人ひとりを指していった。
「でも!マナが尽きた状態で使おうとしたら……どうなると思いますか?」
生徒たちは顔を見合わせ、一斉に答えた。
「ないものは使えない」
「マナを使った動作は全部うまくいかない」
「気を失う」
先生は叩きすぎてボロボロになったチョークを持ちながら、身振りをした。
「もし体の中のマナが尽きた状態でも、使えることはできます。ただし制御はできません」
先生は黒板に向かい、また別の人物を描き始めた。描き終わると、指でぼかしながらその人物から外へ伸びる線を描いていった。
「問題は、体が周囲のマナを強制的に吸収することになることです。五時間かかって補充するものを、一分でやるとしたら」
先生は力を込めて指をすべらせ、描いた人物の右腕を消し去った。
その動作が、ナタンとレアを凍りつかせた。彼の目は閉じなかった。レアの笑顔は、消えていた。
「そうすることで、命そのものを代償として支払うことになります。つまり、寿命を縮めるのです」
「たとえば体の一部を再生しようとするなら、代償はさらに高くなります」
「医師の助けがあっても、必要なマナの量は膨大です」
その言葉を言い終えた瞬間、チャイムが最初の授業の終了を告げた。
「解散して……次の授業は別の話をします」先生はまたあの抜けた口調に戻りながら言った。「ちなみに、一時間の休み時間があります」
生徒たちが立ち上がり、さっきと同じグループを作り始めた。教室を出ながら、ひそひそ声が聞こえてきた。
「怪我を治すのに寿命を使うって本当?」
「いや、それって大きなものを再生しようとしたときだけじゃないかな」
教室の奥でレアは友達に囲まれ、何か食べに行こうと誘われた。
「いいよ」と言いながら、ナタンを見た。
彼はクラス全員がいなくなるまで、そこに座ったままだった。不意に拳を握りしめ、読んでいた本を叩いた。
勢いよく立ち上がり、足早に出ていく。
しばらく当てもなく歩き回った後、図書館の横にある花壇の前に辿り着いた。
木の下にあるベンチに腰を下ろし、同じ本を開いた。
レアが近づいてきた。少し息が切れていたが、呼吸を整えていた。
「大丈夫?普段もそんなに無口じゃないけど……いや、無口か。でもここまでじゃないよね」
微笑みながら返事を待った。それはなかなか来なかった。
「大丈夫だよ、レア」本から目を離さずに答えた。
レアは両手を合わせ、少し力を込めて握り締めた。
「大丈夫じゃないでしょ、ナタン」突然近づき、目を真っすぐ見ようとした。「いつから悩みを話してくれなくなったの?」
「話していないわけじゃない」本を閉じたが、視線は上がらなかった。「ただ……時間がなくなってる気がして」
レアの声が柔らかくなった。「カインのことだよね」
「レア……」顔を上げ、ゲートの方向に視線をやった。
「弟は自分の考えに固執してる」
「何を考えてるのか、何を感じてるのか、もうわからない」
ゲートを見つめたまま、顔が張り詰めていった。
「三年前に起きたことの後……」本の表紙に指を押し込もうとした。
「あの日以来、ヴォイドストライダーになることにさらに執着するようになった」
ナタンは顔を張り詰めさせた。本のタイトルを悔しそうに見つめた。
クロスゲートギルドの歴史。
レアは黙った。風まで通り過ぎるのを遠慮しているようだった。
「まだ時間はある」レアはかがみ込んで本を見ながら、話しかけてきた。「だからギルドを作るんでしょ」
「止められないなら、せめて次のバカなことだけでも防げたら」ナタンは返した。
レアは顔を上げ、ナタンの目を見た。「いつも寝てるヴォイドストライダーを誰が雇うの?」
「そうだな、確かに」少し表情が和らいだ。
レアがぱっと立ち上がり、空を見上げた。「カインが演劇に興味あったの、まだ覚えてる。劇場に入りたいって言ってたじゃない」
「覚えてる。あいつは演じるのが好きだったな」
ナタンも空を見上げた。柔らかな風が、あの頃の映像を運んでくる。
「図書館、行く?」空を見ながらレアが言った。
「ああ」
ナタンの思いは、弟が今いる場所へと向かっていた。
二人を包んでいた柔らかな風は、やがてアルカノーヴァへと流れていき、午前の最初の授業の終わりとともに消えていった。




