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ネテリア  作者: Netheria
26/44

核に宿る記憶

(なぜ俺はいつも同じことをするんだ)




カインはベッドに腰かけ、窓の外で一羽の鳥が枝の巣に降り立つのを眺めていた。




(自制できなかっただけじゃない。意識まで失った。大吾が担いで連れ帰ったはずだ)




(コハルが見ていたはずだ……心配させた。怪我して帰らないと約束したのに)




カインはカゲヤの手を見つめた。




(この体を危険にさらす権利が俺にあるのか。この家族を巻き込んで)




体中に痛みが走っていた。特に脚が。




(全部間違えてる。この体の生命力を削って、あの家族を心配させて……それでもまだ帰り方が分からない。帰れるかどうかすら)




(いっそ……やめてもいいんじゃないか)




(このままでいることを、受け入れてもいいんじゃないか)




カインは指輪のなくなった指を押さえた。じわじわと力を込めていった。




……




自分に与えた痛みが、カインを一気にベッドから立ち上がらせた。




(何を考えてるんだ! 帰らなければならない。ナタンに付き添うと約束した。ダイランは今頃、自分を責めているはずだ)




うなじに手をやった。ゴムのない感触。




(エラーラにまだお礼を言っていない。あのゴムのこと)




カインは服を着て、部屋の鏡の前に立った。




(お前は難しい体を残してくれたな、カゲヤ。エラーラだったらお前で床を拭いてたぞ)




視線が、何かを訴えかけるような緑の瞳に止まった。




(ちゃんとやる。お前の家族を巻き込まない。ここにはいられないけれど)




ドアに近づくと、コハルが朝食を作る音が聞こえてきた。




(これ以上ややこしくならなければいいが)




カインは部屋を出て階段を下りた。




大吾の姿はなかった。コハルが何人分かの料理を作っていた。




何を言えばいいか分からずに立っていると、大吾が自分を連れずに狩りへ出たのだと悟った。




コハルがカゲヤの気配に気づいた。




「よく眠れた、カゲヤ?」




振り返らずに、手を動かし続けながら。




「はい、よく眠れました。選抜が今頃始まってると思うので、また後で」




「しばらく狩りには行かせない」




コハルは言った。




野菜を切る手つきが少し荒くなった。




「まだ完全に回復していないと分かったから」




カインが彼女の方へ一歩踏み出したが、何かを言いかけて止まった。




(当然だ。あんなことをした後、他に何を期待できる)




「分かりました」




背を向けてもう一度上がろうとしたとき、コハルが振り返った。




「朝ごはん、まだかかるよ、カゲヤ。お風呂に入るか休んでいて。できたら声をかけるから、一緒に食べましょう」




「ありがとうございます」




カインは答えてから上がり、浴室へ向かった。




中で気づいた。体の小さな切り傷がきれいになっていた。擦り傷を負った手も。




(コハルが、俺が意識を失っている間に)




湯船の紋様に近づき、何度か触れた。まずマナを指先に纏わせてから。




(全然反応しない! ホタルは簡単そうに見せてたのに)




だんだん強く押しつけていった。そのうち拳になり、叩き始めた。




(この体が弱くて、ネサリのようにマナが使えないなら、どうやってここから出る)




拳を空中で止めて、目を閉じた。




(待て……試せることがある)




急いでブーツとコートを手に取り、玄関へ向かった。




コハルが包丁を調理台に置いて、カゲヤのそばへ来た。




「どこへ行くの!?」




「少し外の空気を吸いたいだけです。村の外には出ません。約束します」




コハルの顔が強張り、片手を握り締めた。




「大丈夫です。もう心配させません」




息子の目を見て、コハルは力を抜いた。




「遅くならないで。ご飯が冷めるから」




カインはドアを開け、朝食には戻ると約束してから出た。




真っ直ぐ井戸へ向かった。歩みがだんだん速くなった。




(見つからなかったら? 今のところ、これしか思いついていない)




井戸に着いて、あたりを見回した。




(自分を騙している……今日の狩りに行った可能性の方が高い)




視線が何度も村の出口の方へ逃げた。




数分後、シラミネが桶を持って井戸の方へ歩いてくるのが見えた。




(よし! やっと必要なことが起きた。落ち着け、カイン。できるだけ自然に)




シラミネは下を向いて歩いていた。近づいたところで、カインが呼んだ。




「シラミネ、狩りに行かなかったのか」




質問のつもりが、感情が先に出て、言い切ってしまった。




「ああ、アサヒ。もう大丈夫か?」




シラミネは顔を上げた。




「それより聞きたいことがあって……」




シラミネのトーンがいつもより沈んでいるのに気づいて、カインは言葉を止めた。




「大丈夫か? 今日の狩りに行かなかったのと関係してるのか?」




シラミネがため息をついた。




「相変わらず早いな、アサヒ。クロサワと当たって、負けた。言うまでもないだろう」




(五番手め。戦いのレベルは似たようなものでも、あのでかい耳のやつはマナの量が多い。それだけで決まる勝負なら結果は見えてる)




カインは目を逸らしながら、頭の中で答えを予測しつつ問いかけた。




「なぜいつも負けるんだ」




シラミネがゆっくりと顔を向けた。




「なぜ? あいつのマナとの繋がりが俺たちより強い。冗談か、アサヒ」




「冗談じゃない。繋がりが強いってどういう意味だ」




「絶対冗談だろ」




「違う。冗談じゃない。マナはいくらでも鍛えられる」




シラミネは自分の尖った耳を指で示した。




「努力は生まれ持った才能には勝てない!」




カインは瞬きをして目を開けた。予想外の答えだった。




(だから五番手は昨日あの仕草を……)




「それは出発点であって、ゴールじゃない」




「聖花道に行って強くなったから、そんなことが言えるのか」




カインはマナをうっすら纏わせた腕をシラミネに向けて伸ばした。




何も言わずに指を広げ、マナを指の間で動かし始めた。




指全体が、腕のマナをその場所に集めるとわずかに明るくなった。




「口だけじゃない。俺自身がやってきたことだ」




シラミネが黙って見ている間、カインはもう片方の手を耳に当てて、輪郭を確かめた。




感じていた通りだと分かって、かすかに笑った。




耳はそんなに長くない。




シラミネと大して変わらないくらいだ。




「それが絶対の法則なら、なぜ昨日俺が勝てたんだ」




シラミネの目が、カゲヤの耳に当てられた手と、指の間でかすかに揺れる鈍い緑色のマナの間を行き来した。




「それが聖花道で教えることなのか。俺にも学べると思うか?」




「努力すれば。一朝一夕にはいかないけど」




マナが手から散った。




「やり方を教えられる。後は自分次第だ」




シラミネが少し近づきながら、笑顔になった。




「嫌いじゃないぞ、この新しいお前。戻ってきてから、もっと自信を持って話すようになった。あの新しい友達のおかげか?」




カインはシラミネの笑顔とトーンの奥に何かを感じた。




嫉妬、だろうか。




それでもダイランとエラーラを思い出して笑みが浮かんだ。




「違う。あいつらは俺に訓練させたくなかった」




「え? それは……ずいぶんおかしいな」




カインは手で右目を覆った。




(おかしいのは、あいつらがあんなに俺のことを心配してたことだ)




シラミネがカゲヤのしぐさを観察した。




「そのポーズも持ち帰ってきたのか」




カインの唇の端がかすかに動きかけた。手を下ろしながら。




「ただの……癖だ」




「いいな。神秘的に見える」




シラミネが笑いながら真似した。カインも笑い返したが、それを見るのは少し落ち着かなかった。




「はいはい、分かった。もうやめてくれ。それより、シラミネ、頼みたいことがあって」




「何でも聞く、アサヒ」




カインは湯船の紋様を押していた指を立てた。




(今はこっちの方が先だ)




「信じてもらえないかもしれないが……マナを属性に変換するのが難しくなってる」




「はははっ、またそのネタか、アサヒ」




(カゲヤ! 誰もお前を本気にしなかったんだな)




「本気で言ってる。あの件から……ずっとうまくいかない。新しい訓練の仕方が邪魔してるのかもしれない」




シラミネの顔が変わった。好奇心だけでなく、心配の色が出た。




「待ってくれ。冗談じゃないのか? そんなことが起きるなんて聞いたことない。アサヒ、何があったんだ」




カインは目を逸らした。




「それは関係ない。なぜできなくなったのか知りたい」




シラミネは腕を組んで、カゲヤの状況を考えた。




「マナの操作は抜きにして……聖花道でどのくらいまで進んでた?」




(段階があるのか! 操作と変換だけだと思ってた。属性のマナの操作すらできないのに……)




「操作も……できない」




カインの声がほとんど口から出なかった。




「何だって」




カインがわずかに唸った。顔が強張った。




「基礎を忘れた」




「お前が? 基礎を忘れた、お前が? 信じられない」




「本気で言ってる。内側の……流れに集中しすぎた」




「内側の流れって、俺に教えてくれた技のことか? でもアサヒ、お前は響導の息吹をずっと使ってたじゃないか」




(響導の息吹……)




「使ってた。今はできない」




カゲヤの顔に浮かんだ戸惑いと、こちらを見ようとしない様子を見て、シラミネは信じることにした。




「そうか。大変だな。しかも父親には言えないし」




「ああ。がっかりさせたくない」




カインが横目でシラミネを見た。言葉が本心から来ているのが表情に出ていた。




(待て……なぜ「がっかりさせたくない」と言った)




「分かった。助けるよ、アサヒ。ナイシンカを見せてくれ」




(何が起きてる? なぜそんなことを)




カインは答えなかった。




シラミネがカゲヤに近づいた。




「大丈夫か?」




「あ……うん、何でもない」




カインが頭を振った。




「どうすればいい?」




「どれだけ操れてるか確かめるために、ナイシンカを見せてくれ」




「お前がやってくれた方がいい。俺には何が間違ってるか見た方が分かりやすい」




「それはそうかもな」




シラミネが手を伸ばして、掌を空へ向けた。




そう時間もかからず小さな炎が生まれた。風に揺られて揺れている。




(ナイシンカとは属性を生み出すことか。マナを一点に集中させる感覚は分かる。分からないのは変換の仕方だ)




カインは顔をほとんどシラミネの手に近づけるくらい寄せた。その炎から目が離せない。




(掌と繋がっていない……ということは核からマナを流すのと、体から流すのが違うのか)




「アサヒ、ちょっと緊張するんだが」




シラミネが後ずさりして炎を消した。




「何か分かったか?」




(あまり収穫はなかった)




カインが目を閉じた。




(ネリコもノブヒラも、属性は一つだけだった)




「それで?」




シラミネが言った。




しばらくしてから、カインは目を開けてシラミネを見た。




「属性はどうやって起動する?」




「それが何の役に立つんだ、アサヒ」




「後で教える技のために」




シラミネが少し首を傾けた。




「待てよ。俺のを直す話じゃなかったのか?」




「ただもらうつもりはない、シラミネ。クロサワに勝てるようにしたい」




シラミネの目が開いた。




「本当に勝てると思うか?」




「もちろん。ただ時間はかかる。定期的に練習しないといけない」




「いいな、アサヒ。その技というのは、さっき指の間でマナを動かしてたやつか?」




「それだ」




カインは自分の手へ視線を落とした。




「でも属性の生み出し方が分からないと教えられない」




シラミネがカゲヤの手を見た。




「……確かにそうだな」




(助かった……この世のすべてに感謝だ。シラミネ、後でちゃんと教えるから許してくれ)




「俺のナイシンカの起動の仕方は……どう説明するか。核が熱くなって、それを広がるに任せる感じだ」




シラミネがもう一度手を動かして、小さな炎を作った。




「それから、解放したい場所へマナを持っていって……それだけ」




「え?」




(待て、それだけなのか)




「つまり、属性を感じるだけということか」




「そう」




シラミネが不思議そうに言った。




「他のやり方を知らない」




「少し……待ってくれ」




カインが背を向けた。




(感じるだけ、だと!? それじゃ何も分からない……いや待て、感じる?)




自分の手を見て、指を開いたり閉じたりした。




(俺たちはまずマナを吸収して体と融合させて、それから流して、動かして、凝縮させることを学ぶ)




(俺が覚えたのは、自分の技のために一気に解放すること)




シラミネの方へ向き直った。




「感じると言ったとき……核から始まるんだろう?」




シラミネが首を傾けた。




「他にどこから始まるんだ」




「なるほど。変換は核の中でして、そこから流す」




「変換というより……マナが属性と繋がるに任せる感じだ。風ではやり方が違うのか?」




「……似てる」




(全く分からない)




シラミネが二歩近づいた。




「それで? どう教えるか分かったか?」




「ああ……それで十分だ」




教え始める前に、コハルへの約束を思い出した。




「でも今じゃない。帰らないといけないから、後で教える」




シラミネが不満そうにため息をついた。


「お母さんの朝ごはんは外せないもんな。まあ確かに、俺も家の水汲みで来たんだった」




桶を手に取って井戸へ向かった。




「忘れるなよ、アサヒ」




「忘れない。昼飯の後にここで」




カインは歩き出した。急いで戻らなければ。




(部屋に戻ったら試してみる。カゲヤの属性を制御できれば、帰るための一歩に近づく)




そのうちマナのことが頭から消えた。




ただ帰りたかった。




コハルの朝ごはんが冷める前に食べたかった。




歩みが走りに変わった。口元にわずかな笑みが浮かんだ。




玄関に着いた瞬間、ぴたりと止まった。




(なぜだ。なぜあんなに帰りたかったんだ)




心臓のあたりに手を当てた。




(またこれだ)




(俺のものじゃない何かを、感じている)

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