共鳴する傷跡
カインは最初の組み手を注意深く観察した。
(攻撃も防御も、基本中の基本だ。ルカンの域には遠く及ばない)
(それでも)
シラミネが放った炎の斬撃が、相手のそれと激突した。
(力はルカンを超えている。アルカ・ノヴァのAクラスの水準があれば、対等に戦えるのはダイラン、セラ、俺くらいだろう)
ネサリたちが攻撃を重ね、一方が優勢になっていった。
(トリンとエルドレンでは、やっと渡り合えるかどうかだ)
イワカミがシラミネを勝者と宣言した。名前を呼ばれた若者はカインの方を振り返って喜ぼうとしたが、カインは気づかなかった。
(あいつらもヴェルから落ちてきたのか……俺と同じことが起きたのだろうか)
「ミヤマ、ユキシロ、位置につけ」
イワカミが第二試合を始めた。カインは考え続けた。実際には試合をほとんど見ていなかった——何かが強く意識を引き戻すまでは。
ミヤマが岩の小柱を作り、水の小球の連射を防いでいた。衝撃のたびに岩が少しずつ削れ、小石が飛び散った。
(水が岩にダメージを与えている。不利だと思っていたが。一撃一撃が伝わってくる)
一滴が岩を貫通した瞬間、ミヤマが殴りつけて複数の石をユキシロへと飛ばした。
ユキシロは小さな水流でそれを逸らして防いだ。
(木刀を持った意味は何だったんだ)
カインは木刀を握り締めた。
(俺にはああいう攻撃がない。距離を詰めるしかない)
水流が合わさって水球になり、ミヤマへ突っ込んだ。衝撃でミヤマが地面に倒れた。
イワカミが手を叩き、ユキシロの勝利を告げた。
(できるのか。このままではこの体のマナをうまく操れない)
「アサヒ、クロサワ、位置につけ」
カインは中央へ歩いた。
(待て、これ以上目立つことはできない)
相手のネサリから数メートル離れて立った。
「いつも通り退いておけばいいのに、アサヒ。頭領の前で傷つけたくないんだが」
「自尊心の勝負だったのか。おめでとう、もうお前の勝ちだ」
イワカミが目を見開いた。シラミネが笑いを堪えきれなかった。
クロサワは顔を上げ、剣で自分の耳を指した。
「俺の方がマナで上だということを忘れたか?」
(なぜ耳を指す?)
「ああ、そうだった」カインは皮肉っぽく笑った。「大事なことを忘れていた」
イワカミが割り込んだ。
「よし、クリーンな試合にしろ。始め」
イワカミが手を叩くと同時に、クロサワが空気を突いた。小さな渦が生まれ、カインへ向かってきた。
避けようとしたが掠められ、腕と脚に細かい切り傷ができた。
(やはりこの体は使えない)
「実力もないのに見栄を張るな!」
クロサワは苛立ってもう一度渦を放った。結果は同じだった。
(見栄を張る?)
カインは木刀を強く握った。
(そんなことにはうんざりしている)
「降参したいときに言えばいい」
笑いながら、もう一つ渦を作った。カインは地面を蹴って強く跳んだ。
空中から木刀を投げ、マナで弾みをつけた。
クロサワがかろうじて避けた。
「反則だ!」
目で追う間もなく、カインはもう彼の横に立っており、マナを乗せた蹴りで宙に浮かせた。
その衝撃音は全員に聞こえた。ミヤマが散らかしていた石ころが弾け飛んだ。
カインも空中でうめいた。
二人とも落ちたが、クロサワの方が地面に叩きつけられた。
「せめて手をつけ、五番手」
イワカミが走り寄った。
「クロサワ、大丈夫か」
若いネサリが地面で呻いた。
(やりすぎた)
「アサヒ!戦闘は相手を再起不能にするためじゃない」
(やはりやりすぎた)
「つい熱くなった。もうしない」
大吾が近づいた。
「相変わらず、しきたりを守らない。自分勝手にするな」
カインは視線を逸らした。
「気をつける」
(できれば)
「他の者と待て。イワカミ、クロサワを家まで連れて行け」
大吾が背を向けた。カインは気づいた——小さな、ほとんど見えないくらいの笑みを。
(お前もあいつが嫌いか)
カインがグループに近づくと、すぐに囲まれた。
「クロサワに勝つとは信じられない。どこで覚えたんだ?」
「聖花道で習ったんだろう」
「あの一年が奇跡を起こしたな。俺も行きたい」
(聞くつもりがないなら最初から俺に聞くな)
「属性も強くなったんだろうな、アサヒ」
カインはすぐに答えず、言い訳を探した。必要なかった。
「そりゃ当然だ。周りのマナを操らずに勝ったんだぞ。それができるようになったら想像してみろ」
「羨ましい。あれだけ短期間で伸びたなら、俺たちならもっとできるんじゃないか」
(なぜか知らないが、こいつらにだんだん苛立ってくる)
「試しにやってみるところ、見てみたいな。面白そうだ」
グループ全員がカインを振り返った。
「だよな、俺も行きたい」
「俺たちには無理だ。頭領の息子と違って、俺たちにはちゃんと責任がある」
カインが目を細めた。
「どういう意味だ」
「いや、何でもない。そうだよな、ミヤマ?」
「ああ、少し羨ましいだけだよ。な、フユゾラ?」
二人が笑った。
(羨ましい?お前は何も分かっていない)
「なら今すぐ鍛えてやろうか」カインは顎で試合場を指した。「五番手みたいになっても知らないが」
ミヤマが両手を上げた。
「落ち着けよ、アサヒ。冗談だって」
「どうしたんだ?いつもこういう感じで遊んでたじゃないか」フユゾラが言った。
「分かった。本気で遊びたくなったら声をかけてくれ」
カインは木の方へ歩き出した。遠ざかりながらも声は聞こえた。
「どうしたんだ。普段なら笑って終わりなのに」
「あの学院に行って、自分が偉くなったつもりか」
「そういえば、五番手って誰のこと?」
木に背を預けた。少しするとシラミネがやってきた。
(井戸で挨拶してきた奴だ)
「大丈夫か、アサヒ?」
(実は脚が痛い)
「なぜ聞く?」
「だって、あんなに怒ってるの、見たことなかったから」
カインはまだ話しているネサリ三人を眺めた。
「馬鹿にされて黙っていられる奴の方がどうかしてる」
シラミネはしばらく黙ってから、口元を覆って笑った。
「随分変わったな」
(また同じことを言われる……でもなぜか、こいつに言われると嫌じゃない)
(もしかして……情報を引き出せるかもしれない)
「色んな人と出会って、色々と学んだ。自分では気づかなかったけど。そんなに変わって見えるか?」
シラミネがまた笑った。
「変わった?別人みたいだぞ。喧嘩なんて避けてたじゃないか。揉め事は全部やり過ごして、狩りにも行きたがらなかった」
「まあ、あの学院にいたんだから当然じゃないか」
カインがシラミネの方を向くと、彼は両手を振って否定した。
「それだけじゃ説明できない。もっと教えてくれ——どんな人たちに会ったんだ?どんな奴らだった?」
シラミネが近づいた。カインはその顔に浮かぶ純粋な好奇心に気づき、視線を空へ向けた。
少し考えてから、シラミネを見ずに続けた。
「緑の髪の貴族と、緊張したり怒ったりするとショルダーバッグの紐を握り締める女の子と、友達になった」
「はは、なるほど。仲良くなれたか?」
カインは右目を手で覆った。
「俺の一番の友達だ」
シラミネが不満そうに鼻を鳴らした。
「一年で俺を乗り換えたか」
その言い方は穏やかで、冗談めいていた。
カインの体がわずかに反応した。居心地が悪かった。
(分かった。あいつがお前のダイランだったんだな、カゲヤ)
カインは手を下ろした。
「そんなわけない。乗り換えられるものじゃない」
(俺にとって、あいつらの方がずっと大事だ)
「そうだといいな、アサヒ」シラミネは笑いながら答えた。
「それで、頭領には何か言われたか?揉めたりしてないか?」
二人でそっと大吾を横目で見た。
「想像以上にな」
「聖花道に行って良かったということを、ここで証明するチャンスだ。最初は行きたくなかったんだろうけど」
カインは大吾を見続けた。
(お前が言い出したのか)
「その通りだ。いい機会だ」
(うまくやれば、あの学院に行く口実にできる)
「それにクロサワを狩りから外せたしな。よくやった」シラミネが手を振って言った。
「なぜそう言う?」
「なぜって?そうか、今年何があったか知らないのか。ほとんどの狩りに参加してきたんだ。マナの親和性が高いというだけで、村はあいつを認め始めていた」シラミネは腕を組んだ。
「親和性が高い?」カインには大した差があるとは感じられなかった。
「誤魔化すな、アサヒ。無視できる話じゃない」
シラミネが体を強張らせ、手が耳に届く前に止まった。
「威張り散らして、やめないんだ」
(だから剣で耳を指したのか)
カインはシラミネが気を散らしている間に観察した。
「それが関係あったように見えたか?」
若者が首を傾げて振り返った。
「今頃家で腹を押さえてるだろう」カインは笑った。
少し考えてから、シラミネも笑った。
「確かに。ははは。ますます聖花道に行きたくなってきた」
イワカミが戻ってきたのを大吾が見つけ、全員の会話を断ち切った。
「集まれ。狩りに行く者を選ぶ」イワカミが言った。
若者たちが集まった。
(また分からないことがある。形か、長さか)
カインはカゲヤの姿を頭の中で描いた。
(形はここにいる全員とほとんど変わらない)
白い薄層を軋ませながら、イワカミと大吾がグループの前に立った。
「頭領が今日同行する者の名を告げる」
大吾が一歩前に出た。
「ユキシロ、シラミネ、アサヒ。残りは引き続き訓練しろ」
他の二人が離れた。カインが驚いたことに、誰も文句を言わなかった。
「武器を取ってこい。すぐ出発する」
若者たちが武器を手に取った。カインが片手剣を結びながら何かを小声で呟いているのに気づいた者がいた。
戻ってくると、イワカミが一人を指名した。
「お前が追跡担当だ、シラミネ。俺がサポートする」
「ユキシロ、お前は後ろについて、仕留め役だ。俺もサポートする」
「アサヒ、お前と頭領が見張り役だ」
(俺の役割は哨戒か。ネテリアでも狩りが魔物との戦いになりうるということだ)
「出発」大吾が力強く言った。
一行は森へ入った。カインは道順を丁寧に目で追った。
(先頭を任されなくてよかった。どこへ行けばいいか全く分からない)
大吾は無言で息子を観察していた。
(アルカ・ノヴァにもっといられたなら、狩りと追跡を学べたはずだ)
マエナが全員をぼろぼろにしていた訓練の光景が最も鮮明に浮かんだ。
(少なくとも戦い方は知っている)
進みは遅くなった。カインはすでに経験していた感覚だった。
(不格好だが、シラミネはノブヒラと同じことをしている。あのひげ面が、さりげなくサポートしている)
「ふざけるな、カゲヤ。気を張れ」
(その台詞しかないのか)
「そうしてる」
「ならば言ってみろ。近くに何がいる?」
カインが目を見開いた。
(なぜそれを聞く。俺は占い師じゃない)
「木が……」
大吾が苛立たしげに鼻を鳴らした。
「戦いしか見えていなかった。それでは優れた狩人にはなれん。周囲のマナを感じろ。小さな野兎が近くにいる。遠くに、今日の獲物がいる」
カインは驚いて大吾を見た。大吾は前を向いたままだった。
「はい、もっとやってみます」
集中しようとしたが、難しかった。ネテリアのマナにまだ慣れていない。
(すぐ隣にいる大吾すら感じられない。脚にわずかなくすぐったさがあるだけだ)
(集中しろ。あいつらにできるなら、俺にもできる)
一行はゆっくり進んだ。イワカミが二度コースを変えた。カインはその遅い歩みを利用してマナを感じようとした。
シラミネが腕を上げたところで全員が止まった。
数メートル先に三頭の鹿がいた。毛色は茶色で、角は迫力のある太さをしていた。
群れの首領は一回り大きく、毛色はより濃く、角の素材が他と違った。
白い水晶のような材質で、森を覆う薄い白と同じ強さで輝いていた。
イワカミがシラミネに動くなと合図し、大吾の横に立った。
「群れの首領は危険そうだ」
「俺に任せろ。村にとって良い収穫になる。お前たちは残りの二頭を頼む」
イワカミがうなずき、身振りで若者たちを呼んだ。
「頭領が一番大きいのを担当する。お前たち三人は一番後ろのやつを仕留めろ。俺の後に攻撃しろ」
全員が位置についた。弓を引いた。カインの心臓が速くなった。
(今じゃない、カゲヤ)
大吾の矢が風を纏い、アルファの頭部へ向かって唸った。イワカミが続いた。矢尻が強く輝いて、硬く締まった。
若者たちの矢はマナなしで飛んだ——一本が脇腹、一本が外れ、一本が脚に当たった。
カインの矢だけが首に命中した。イワカミのがもう一頭の頭蓋を貫いた。
しかし群れの首領は大吾の矢を躱し、木に突き刺さって轟音が上がった。
大吾が力強く蹴り出し、アルファに向かった。
「囲め、逃がすな」イワカミが叫んだ。
全員がイワカミに続いた。大吾はすでにアルファと戦っていた。
(俺たちがやることは何もなさそうだ)
大吾が戦いを支配した。長くはかからなかった。激しい一撃で、空気の細流を纏った斧が首領の首を落とした。
抵抗なく体が崩れた。
大吾は喜ばなかった。
「仕留めた獲物を持って帰れるよう準備しろ」
「アサヒ、相変わらず驚かせてくれる」イワカミが笑いながら言った。
「聞こえたな、鹿を縛れ」
若者たちがうなずき、作業に取りかかった。
(悪くない。カゲヤが怖がるのも無理はない)
カインはもう一頭の鹿を準備しているイワカミをちらりと見た。
(あのひげ面は大吾ほどではないようだ。村の頭領というのは楽じゃない)
終わると、獲物を引きずる準備をした。
四人の若者が自分たちの獲物を、イワカミと大吾が自分たちのを引いた。
(それでも相当なものだ。あの二人は軽々とやってのける)
帰路の途中で、大吾が突然鹿を放した。
「イワカミ、こいつらを村まで連れて帰れ。獲物を守れ」
イワカミは素早く従い、大吾が放した獲物を引き取った。
「止まらずについてこい」
通り過ぎる際に、大吾がカインを引き止めた。
「カゲヤ、お前はついてこい」
「分かった」
(ちょうどよかった、引きずりたくなかった)
一行と別れ、二人は立ち止まった。目の前には白い牙からマナを無秩序に放つ猪がいた。
「他の者たちに近づけるわけにはいかない」
ヴェルの記憶と銀色の猪の記憶が、体と重なって、カインを完全に凍りつかせた。
思わず一歩後ずさった。大吾がそれに気づき、首を横に振った。
「思ったほど変わっていなかったか。ここで待ってろ、すぐ終わらせる」
(違う、俺じゃない。お前の記憶も俺に影響しているのか)
カインは拳を握り、力強く自分の顔を殴った。大吾が驚いて反応した。
「お前はそこにいろ。あいつには俺が先にやることがある」




