ヴェイル
カインは右手を握ろうとしたが、できなかった。黙って立ち上がった。
治療が終わり、傷が包帯で覆われると、グループは征河道へ戻った。木々の影を長くしながら太陽が傾いていた。
ディランは少し足を引きずりながらトリンに支えられていた。
旅は遅かった。ネタリのグループが最も安全なルートを案内した。
学院の中で、耳が中程度の長さで、角張って尖った眼鏡がクマを際立たせた教師が出迎えた。
「予定より早く到着した。目標は排除したか?」
野原が一歩前に出た。「狩りを完了しました、冴草先生」
ため息をついて保っていた真剣な顔を崩した。
「よかった、あなたたちの亡骸を拾いに行かなければならないかと思っていた」
冴草はディランの包帯に気づいた。
「学長はまだ戻っていない。戻るまで休みなさい」
「あなたは私についてきなさい。痛みは和らげないが、傷口を拓海くんより上手く閉じる」
ディランは後を追った。拓海も一緒に。
ネタリが休憩場所まで案内した。カインは一人で座り、太陽が沈む中で指が指輪を弄んでいた。
根子が近づいた。
「認めるわ、本当に未来を見た。あんな技は見たことがない」
「どうやってやるの?あの武器を、あれだけの力と速さで動かす方法を」
「マナを一点に集中して爆発させる」カインは地面を見ながら答えた。「でもまだ使い方が悪い。マナを大量に消費する」
(もともとあまり持っていないのに)
彼女は隣に座った。「自分を責めすぎ。私も一年生の時はマナをコントロールできなかった」
腕を伸ばし、カインの反応を観察した。
「去年のミッションでは怪我人がもっと多かった。よくやった」
カインは呼吸するだけだった。その時、沈黙を破る声があった。
「そのうちその技をもっとうまく使えるようになる」聞いていたセラが言った。
「だから自分のせいみたいに振る舞うのをやめて」
根子はディランが出てくるのを見て立ち上がった。セラは彼を迎えるために向きを変えた。
ディランはかろうじて足を引きずって歩いていた。
「どんな感じ?」トリンが聞いた。
「傷の痛みは感じるよ、教官が閉じてくれたけど」ディランはズボンを持ち上げながら言った。
「ヴェイルを渡れそう?」セラが聞いた。
「大丈夫、もっと辛いこともあったから」ディランは微笑んだ。
カインが近づいたが、何も言わなかった。ディランはそれでも伝わった。
友人の前に立ち、拳を伸ばした。カインは少し迷ってから合わせた。
「無茶はするな。傷は閉じているが、痛みは本物だ」
野原の警告が全員に届いた。経験からのトーンがそこにあった。
全員が集まり、ネタリたちがアドバイスをした。やがてそれは会話に変わった。食べ物から思い出話まで。
太陽が地平線に触れようとしていた時、アルドリックがライゼンとともに現れた。
報告は簡潔だった。アルドリックはグループに戻る命令を出した。
アルカノーヴァの学生たちが別れを告げ始めた。最も心に残ったのはエルドレンが言ったことだった。
「またすぐ来てくれると嬉しい。アルカノーヴァの料理も食べてもらいたい」
セラが近づき、肩を叩いた。「彼らはヴェイルを渡れない」
彩音は小さな盾を持ち上げた。「じゃあ持ってきてね」
学院の敬礼で最後の挨拶を交わし、二つのグループは別れた。
三人のヴォイドストライダーと五人の"学生"と合流した。
素早い足取りが学生たちを黙らせた。アルドリックの厳しい表情は彼らにとって新しいものだった。
ゲートに着いた時、空にはすでに星が輝いていた。月はアルカノーヴァの二倍の大きさだった。
アルドリックは直接衛兵のところへ向かった。ライゼンの印鑑がついた手紙を渡した。
「渡りましょう」アルドリックは端的に命令した。
グループが従った。アルドリックは抑えた緊張感でヴェイルを歩いた。
「何かおかしい」カインは言った。
ディランは頷くだけだった。
ヴェイルの半分を渡った。最初のクロス同様に息苦しかった。
前方でつながるポータルがうなっていた。
全員が冷や汗をかき始めた。四肢に感じていた刺すような感覚が体全体に広がった。
空気が喉で滞った。カインは仲間たちを見て、セラの目で止まった。
その表情が彼の心臓を一秒止めた。
「学生を守れ!」アルドリックの叫び声が空間を引き裂いた。
五人のヴォイドストライダーが彼のほうへ走った。
ゲートの前に、銀色の生物が道を塞いでいた。
巨大なマンドリルの形をしていた。腕の大きさの牙から、制御できずにうねる銀色のマナが発せられていた。
ヴォイドストライダーたちの武器が輝き始めた。アルドリックの槍の先端が明るい銅色に輝いた。
怪物に向かって突撃すると、それが吠えた。その音は不自然で、まるで音そのものが鳴り方を忘れたかのようだった。
獣は一人のヴォイドストライダーに直進した。ヴェイルがその足音で振動した。
包囲しようとした時、マンドリルは一人を空中に掴んだ。肋骨が出会った時に悲鳴が詰まった。
虚空に投げ捨てた。他の四人は注意を引くために斬撃を放った。
アルドリックはまさにその前に位置取り、銀色の皮膚に深い切れ込みを入れた。
「動き続けろ、掴まれたら死ぬ!」
痛みの叫びはいずれも歪んで出てきた。戦闘は猛烈なリズムを持っていた。
一つのミスはすぐに代償を払わされた。
後方のヴォイドストライダーが叫んだ時、空気が重くなった。
「まだいる!」
後方では、マナが凝縮して新たな獣を作り出していた。銀色の猪と蠍だった。
ヴェイルの上を何かが飛んでいた。長い銀色の翅と金色の縁を持つトンボのように見えた。
他の二匹が近づく中、ヴェイルを飛び回っていた。ヴェイルが銀色に染まっていった。
三人のヴォイドストライダーが阻止しようと走ったが、その一人が叫んだ。
「ここから離れ……!」
トンボが一瞬で連れ去った時、その体が消えた。
エルドレンは盾を投げ、脚がついていかなかった。
蠍がブロックを破り、倒れた学生に直進した。尻尾を伸ばし、その針を落ちた学生に向けた。
カインは全力で大剣を蠍の尻尾に叩きつけ、針をエルドレンの数センチのところで偏向させた。針はヴェイルに刺さった。
ディランとトリンがカインのほうへ走り、二人ともマナで武器を包んだ。
セラは両手で自分の顔を叩いた。エルドレンを起こすために急いだ。
トリンがハンマーで尻尾を叩き、少し凹ませた。ディランが貫こうとした。
槍が入った時、蠍の尻尾が激しく揺れて槍を折り、三人を吹き飛ばした。
尻尾が再び下がった時、カインが偏向させた。大剣が衝撃で亀裂が入った。
針が激突した場所にヴェイルに亀裂が入っていた。
「アルカノーヴァへ走れ!」アルドリックが反対側から命令した。
相手のマンドリルには深い傷が入り、そこから銀色のマナが溢れ出していた。
二人のヴォイドストライダーが合流した。
「俺たちがカバーする」
人間の形をした存在が形成された時、緊張感が増した。立ったまま、動かなかった。
背中には持っていない武器のこだまがあった。
学生たちは猪がヴォイドストライダーを貫くのを見た。
「今すぐ行け」
三人がセラとエルドレンと合流した。エルドレンは硬直していた。
トリンはハンマーを投げてエルドレンを担いだ。
グループ全員がゲートへ走った。アルドリックはリズムを上げ、マンドリルが彼に集中するようにした。
最初にクロスしたのはセラだった。獣はそれに気づいた。
その跳躍が不規則になった。ヴォイドストライダーの一人がその背中に乗り、武器を刺した。
巨大な腕を激しく振って彼らを後退させた。アルドリックは刃の縁だけを光らせた。
正確な突きと深い斬りでリズムをコントロールした。
放った叫びは理解できない言葉だった。動きが遅くなっていった。
アルドリックを打つことができ、セラへと突進した。
まだ背中にしがみついていたヴォイドストライダーが、剣をマンドリルの首に深く埋め込んだ。
怪物が消え始めた。腕を伸ばし、セラの方向に手を開いた。
カインはセラに向かって直進した。足でマナを爆発させながら。
全力でマナを纏った刃でマンドリルの腕に叩きつけ、胴体から切り離した。
鋼が四方八方に飛び散った。
一片がセラの顔に小さな切り傷を作った。
獣はヴェイルに崩れ落ちた。銀色のエネルギーが傷から奔流のように流れ出た。
ヴェイルが揺れ始めた。
「時間を無駄にするな、出ろ」アルドリックは蠍が這い寄ってくるのを見ながら言った。
ディランとエルドレンを担いだトリンがゲートへ走った。轟音がその場に広がった時。
トンボが学生たちに向かって飛んできた。ディランを地面に押し倒した。
アルカノーヴァのグループは時間が止まるのを感じた。トリンとエルドレンがヴェイルから落ちるのを見た時。
その落下が目に刻まれた。二人の顔からヴェイルの光が消えていった。
巨大な痛みの中、ディランは立ち上がった。ゲートへ走り始めた。背後に蠍が迫っていたが、やがて躓いた。
手が足の包帯へ向かった。
アルドリックが一歩踏み出す前に、その声を引き裂くような叫びが聞こえた。
「ディラン!」
カインは指輪に触れ、中から大剣を取り出した。黒い鋼がヴェイルから発せられるわずかな光を飲み込んでいるようだった。
もうマナが残っていないのに、それを使って飛び出した。
無理やり使う時の痛みは心に一切重要性を持たなかった。
止まることなく進んだ。銀色の節足動物に向かって真っすぐ。
空中で針をかわし、最後の爆発で体を加速させた。
両目の間に大剣を埋め込んだ。衝撃が光のプラットフォームを揺らした。
アルドリックは一瞬も無駄にせず、ディランを肩に担いだ。
「カイン、戻れ!」
蹴りで大剣を抜き、出口に向かって走り始めた。
銀色の怪物が苦悶の声を上げながら追いかけてきた。
視線はディランに固定されていた。一歩一歩が重くなっていったが、ペースを落とさなかった。
足の下に接触を感じなくなった時、目が開いた。
ガラスが割れるような音がその場全体に広がった。
カインはディランが遠ざかるのが見えた。アルドリックの肩で揺れるその姿。
上を見ると、蠍と猪が一緒に落ちていった。近づこうとする人間の形をした存在が続いた。
残っていた光の橋が遠くで細い一本の線になった。
暗闇が包んだ。時間、音、匂いが消えた。
意識が漂い始めた。
(ディラン……帰らないといけない)
(ごめん、エラーラ、ナタン)
(ごめん、お母さん)
父のマンドブルを握ろうとしたが、感じなかった。何も感じなかった。
諦めた時、銀色の光が包み、瞬時に消えた。
うつ伏せに倒れたまま、目を開けようとした。左の瞼が反応しなかった。
右目が震えながら、周りを見た。視界がぼんやりとしていた。前より悪くなっていた。
光の筋が何か空き地のように見える場所をかすめていた。凍てつく風が体を伝った。
片足に湿り気を感じた。鉄の匂いが鼻に届いた。
足に触れようとしたが、何も感じなかった。左腕の軽さと触覚の欠如がその不在を示していた。
硬くなった呼吸を繰り返しながら、頭を回した。
半分閉じた瞼で、ヴェイルにいた銀色の姿だけが見分けられた。
それが近づいてきた。何か大きく黒いものを指輪に収めながら。
意識を失う前に、光が直接一輪の花に差し込んでいるのが見えた。
紫苑。一輪だけ、ぽつんと咲いていた。
暗闇が再び包んだ。しかし一つの感覚がしがみついた。
意識が旅をした。移動感覚。
その印象が薄れた。瞼がゆっくりと分かれた。
茶色い壁が目の前に見えた。
焦点を合わせ、頭を少し傾けた。(ここはどこだ?)
少しずつ焦点が合ってきた。木の天井の細部がはっきりと見えた。
頭を全方向に向けると、鋭い痛みが走った。
くぐもった声が口から出て、ベッドの上で悶えた。
痛みはあまりにも強く、まるで押しつぶそうとするかのように頭を両手で掴んだ。
向きを変え、膝を胸まで引き上げた。
声が数秒止まった。永遠のように感じられた時間。
瞬く間に、痛みは来た時と同じ速さで去った。
カインは息を切らそうとしたが、体はそれほど多くの空気を必要としなかった。
(何だったんだ?)
右腕でベッドに手をついた。シーツの柔らかさを感じた。
目が完全に開いた。
「まさか」
その声を聞いて、背筋を走る寒気が下まで滑っていった。
圧倒的な遅さで自分の手を見た。口が閉じなかった。
苦労してベッドの角まで這い、震えながら脚を下ろした。
冷たい床に触れた時、カインは顔を下に向け、目を開いた。
見ながら、口が少し震え、歯が打ち合った。
朝を彩る鳥の歌声が彼には遠く聞こえた。
首を振りながら、カインはベッドから立ち上がった。
体全体が振動するのを感じた。あちこちを見回した。
知らない部屋が内側から息を詰まらせた。
鏡に気づいた時、動きが止まった。ドアの横にあった。
そこへゆっくりと向かった。一歩ごとに前の歩みより辛くなった。
あと数歩のところで体が進もうとしなくなったが、掴める位置まで来ていた。
強く掴み、自分のほうに向けた。
頭に言葉は一つも浮かばなかった。
ただ、硬直した。
鏡の中には、茶色い髪と暗い緑の瞳、そして尖った耳を持つ若者がいた。
ここからが、この物語の本当の始まりです。
ここまで物語を追いかけてくださった皆様に、心から感謝申し上げます。
これからもよろしくお願いいたします!




