約束と過去
アルカノーヴァへと続く小道が空になっていった。
道の端で、ディランとエラーラが沈黙のまま見つめ合っていた。
エラーラはカバンの紐を握り締めながら震えていた。その目は言葉にならない葛藤を吐き出していた。
ディランは手を伸ばそうとしたが、感じた重さがその動作を始まる前に蒸発させた。
エラーラの表情が彼を刺し貫いた。
強く息を吸い、胃が収縮した。拳を握った。
「複雑なんだ」
「複雑?」エラーラが聞いた。
「何が複雑なの、物事を教えてくれないことの何が?」
「言いたくなかったわけじゃない!」
声を上げた後、ディランは目を閉じて落ち着こうとした。
腕を上げ、首の後ろに手を当てた。「関係はある……でも思っているようなことじゃない」
エラーラはディランが話すのに苦しんでいるのを感じ取った。
一歩後ろへ引き、握る力が弱まりながら紐を握った。
「カインが教えないように言ったの?」声は割れないよう努めていた。目が地面を向いた。
ディランは信じられないという顔で彼女を見て、首の後ろから手を離した。
「なぜそれを聞くの?」
「本当のこと?」エラーラは顔を上げられないまま聞いた。
ディランは答えるのに時間がかかった。
「そうだ」
エラーラはカバンの紐をディランの耳に届くほどの力で握り締めた。
「なぜ?」
「カインはバカじゃない」彼は彼女にさりげなく近づきながら答えた。
「ヴェイルの説明が怖かったことに気づいてた」ディランは彼女から数歩のところで止まった。
「怖いと思ってる」
エラーラはカバンを放し、ゆっくりと手を下ろした。視線が小道のほうへ迷い込んだ。「気づいてたの?」
「あの馬鹿」
「自分のことばかり気にかけて!」
ディランは何か言おうとした。できなかった。
小道は静まり返っていた。
共に漂っている音はゆっくりと動く風の音だけだった。
エラーラは反応し、ディランを見た。
「なぜ昨日教えてくれなかったの?」
ディランは答えるのに時間がかかった。消えていく風が勇気を与えてくれたかのように。
「全てがあっという間だった」
「俺たちが喧嘩した後、もうお前に会えなかった」学院の方向を向きながら答えた。
「違う!」エラーラの声が上がった。
「一緒に食べに行ったじゃない!」
「え!?」ディランは目を丸くした。
「混乱してる。俺たちが喧嘩したのは最後の授業の後だ」
エラーラは二度まばたきをした。
「休み時間に喧嘩してたのを見た」
「それは喧嘩じゃない。その時間にちょうど任務のことを聞かされたところで、でもまだ誰が行くかわかってなかった」
「ああ、怒ったのはお前に話すべきだって初めて言った時だ」声が乾いていった。
「混乱する」エラーラは言い、一息もつかずに続けた。
「いつ喧嘩したの?出る前?だから一緒に来なかったの?」
ディランは手を上げ、手のひらを見せた。
「名前が発表されたのは最後の授業だ。その後、二人で話しに行った」
「そこで本格的に喧嘩した。お前に話すべきだって言ったら、その時カインが……」説明し終える前にエラーラが足を地面に叩きつけた。
「嘘つき!」怒りで言った。「ディランが言ったのは、カインが選抜のことを知っていて、ネテリアに行くことしか頭になくて、私のことはどうでもいいって」
「カインは私のことを気にかけていないって」エラーラは目を擦りながら言った。
「カインが俺のことを気にかけていない?」ディランはつぶやいた。
ゆっくりと彼女に近づいた。
「エラーラ……ルカンと話したの?」
「うん、大事なことがあると言って。二人が嘘をついているって」エラーラは答えた。
ディランはエラーラの安堵が怒りに偽装されているのに気づいた。唾を飲み込み、もう一歩近づいた。
「選抜のことを知っていたというのは嘘だ」
「でも……カインがお前に言いたくないのは嘘じゃない」
「俺は……責めたんだ、そしたらお前も俺も彼のミスを背負う必要はないって言って」
エラーラの表情が一気に変わった。
ディランは頭を向け、視線を外した。
「本当にごめん。選抜が予想以上に応えて、考えずに動いた」
エラーラはその言葉に宿る重みを感じ取った。紐を握り、彼の腕に触れるために近づいた。
「私も考えずに動いた、ルカンから昨日のことを聞いて疑ってしまった」
その小さな間の後、エラーラは離れた。
「どうすればいい?」落ち着かなそうに言った。
「指揮官にカインのことを話すべきだと思う」ディランが答えた。
「そんなことできない」エラーラは声を上げながら反論した。「任務に行けなくなったら、彼は一人でゲートを渡るかもしれない」
「前にそうした時、ギリギリで帰ってきたんだから!」
「それはよくわかってる」ディランは無意識に声のトーンを上げた。「でも任務が全てを変えた。物事が急速に進んでいる」
ディランは目線を落とし、自分の手のひらを見た。
「昨日のアルドリックとの戦闘で……見えたんだ」
「何が見えたの?」エラーラが聞いた。
「目がよく見えていない」ディランは言葉を絞り出した。
「右目のこと?」彼女は目を開き、胸に拳を当てながら聞いた。
「他の傷も……」ディランは止まった。「完全には治っていないかもしれない」
周りが凍りついた。
エラーラは口を覆い、自分を抑えようとした。しかし小さな嗚咽が漏れて失敗した。
それを感じ、唇に当てた指がかすかに震えた。
「良くなっていると思ってた……」
息が唇から滑り出た。
数秒経ち、ようやく手のひらを離せた。「なぜ気づかなかったんだろう?」
「ちゃんとケアしてたのかな?」
「お前のせいじゃない!」ディランは言い、腕に力を込めた。
「あの馬鹿がずっとそれを隠していたんだ」
「ナタンは気づいているかな?」エラーラが聞いた。
ディランを見たが、うまく焦点が合わなかった。「彼に話すべき?」
ディランは目を閉じ、落ち着いて考えをまとめようとした。
「いや……傷つけたくない」
「カインに直接話すべきだと思う」ディランはエラーラの目を探しながら言った。
彼女は視線を返した。
「うまく追い詰めたら、遠ざけるだけになる」
「そうなったら、何も話してくれなくなる」エラーラは言葉を絞り出しながら続けた。
「わかってる、エラーラ、でもこれ以上二人だけで抱えられない。もし理解してくれなければ、指揮官に行く」
「そうするのは正しい?」エラーラはため息をついた。
「彼のお母さんを巻き込むよりはいい、カインでさえマエナには逆らえない」
最後の言葉を言ってから、ディランはエラーラだけに話していたのではないことに気づいた。自分自身を説得していた。
エラーラは両手を目に当て、少し力を込めて擦った。
「一年半……」
ディランはできる限り声を柔らかくした。
「任務が前倒しになるとは思わなかった。カインのケアに使えるはずの時間はもうない」
「俺一人で指揮官のところへ行けるから」ディランは彼女を落ち着かせようとした。
エラーラは目から手を離し、前に置いた。
しばらく眺めてから、カバンの紐を握り締め、ディランを決然と見た。
「一緒に指揮官に話しに行く……カインが無理やりそうさせた時だけ。まず彼と話す」
ディランは小さな安堵を感じたが、笑顔にはなれなかった。
「わかった、今日やろう。ゲートが見える場所に連れていく。カインが遠ざけようとしても、望まなくても、彼をケアする」
「話しかけてこなくなっても」エラーラは震える声で答えた。
ディランは近づき、肩に腕を置いた。
「カインはお前を無視したりしない。どれだけ怒っても、お前を責めることは絶対にないとわかってる」
エラーラは指の間に紐を絡め、学院のほうへ視線を向けた。
「それが一番腹立つんだけど」
言葉に寄り添うように風が柔らかく動いた。二人の友人はもう少しの間学院を眺めてから歩みを再開した。
太陽は少し高くなっていた。時間が待ってくれていなかったことに気づいた。
それでも二人は走り出すエネルギーがなかった。
重くはじまった道のりは一歩ごとに軽くなっていった。張り詰めた会話の強さが何か別のものへと変わっていった。
二人は黙ってアルカノーヴァの正門まで歩いた。最初の授業はすでに始まっていた。
二人は手を振って別れた。どちらも微笑まなかった。
エラーラは最初の授業のほうへ歩き、ディランは自分の授業へ向かった。
ディランは黙って歩き、正しいことをしようとしていると自分に言い聞かせた。
西棟に入ると沈黙に包まれた。記憶が頭を叩いた。
「最初の授業の前に執務室に行かなきゃいけなかった!」自分を叱責した。
止まらずに学院を横切り、指揮官の執務室へ走った。
急いで本館に入り、初日に上った階段を探した。中央塔の階段を素早く上がった。
息を弾ませ、ドアをノックした。心臓が縛られるような感覚がした。
「どうぞ」
マエナの声が疲れを消した。
扉を開け、執務室の中央へ歩いた。
「ラストライト、征河道との特別ミッション参加を報告します」学院の敬礼をとりながらディランが言った。
「却下」マエナは机の書類に視線を固定したまま答えた。
ディランは途切れ途切れの音しか出せなかった。
拳を握り、溢れ出そうとする焦りを感じた。
「指揮官、お願いします」
「昨日、最初の授業の前に報告するよう命令したはずです」
返事をしながら羽ペンの動きは止まらなかった。
「その……申し訳ありません、今朝用事があって気が散ってしまいました」
「でも本当に任務に行く必要があります」ディランは敬礼を保ちながら答えた。
そのトーンはマエナの目には留まった。羽ペンを置いた。
視線がディランを巡った。完全に射抜いた。
ディランは動かず、視線を逸らさなかった。
マエナは立ち上がり、学生のほうへ歩き始めた。
「責任感を示せなければ、真剣に受け取れません」マエナは彼の前に立ちながら言った。
ディランは黙り込み、指揮官の目を見続けられなかった。
マエナは腕を組んだ。その立ち姿は権威に満ちていながら、焦りの欠片もなかった。
「俺は……真剣に取り組んでいます、それが焦りになるほど」ディランはつぶやいた。
「どうすれば大切だということを示せますか?」
指揮官は窓のほうへ向いた。そのつぶやきは聞こえなかったふりをすることにした。
「選抜された五人は任務が終わるまで合同授業はありません。最初の授業は自由時間で、二時間あります」
マエナは腕を組むのを少し緩めた。
「次の授業はアルカノーヴァ北にある特別訓練室で私が直接行います」
「遅刻するなら来ないこと」
ディランは目を見開き、安堵して微笑んだ。
「はい、指揮官!」
学院の敬礼を力強く締め、向きを変えた。
「罰がないわけではない」マエナが続け、すでに扉に向かっていたディランを急停止させた。
「授業が終わったら……」
ディランは恐れながら罰の内容を聞いた。式典の日に経験したことを繰り返すことになるらしい。
足取りが重いまま階段を下り、正門に向かった。
「無事だった……でも代償が大きい」疲れた笑顔でため息をついた。
外に出ると、初めてこの日の太陽の温かさが穏やかに感じられた。
深く息を吸い、リラックスした。
ようやく落ち着いて呼吸できるようになると、学院東の訓練場に目が向いた。そちらへ歩いた。
アルカノーヴァの空気は静か過ぎた。他の生徒たちは授業中だった。
それほど時間もかからずに到着した。マエナと上がった時より距離が短く感じた。
中に入ると、一人で練習している学生が的に向かって必死に打ち続けているのが見えた。
ディランはその方向へ歩き始めた。
近づくほど、衝撃の荒々しさがはっきりと聞こえてきた。
数歩のところまで来て、声を上げた。
「ルカン!」
「何だ!」訓練をやめながら苛立って答えた。
振り返ってディランを見ると、顔が凍りついた。
「昨日何をしたか教えてもらおうか!?」ディランは続け、声がさらに上がった。
ルカンは息を切らしながら呼吸を整えていた。額から汗が落ちていた。その疲れた様子は目の下の深い隈に刻まれていた。
ディランは今朝、別の人物でその同じものを見ていた。
返事を待つ間、ルカンの頬の腫れを隠しきれていない絆創膏に気づいた。
「俺は……」ルカンはサーベルを握り締めた。「お前がやるべきことをやっただけだ」
「友人を盗み見て、嘘をつくことか?」ディランは足を踏み鳴らした。
ルカンは同じように足を地面に叩きつけた。「エラーラに物事を隠すのはいいのか?」
「隠してなんかいない、まだ一日も経ってなかった!」ディランは怒鳴った。
ルカンは口から舌打ちを漏らした。「お前はそうじゃないが、あの身勝手な奴は計画していた」
ディランはルカンへ素早く近づき、両手で上着を掴んだ。
「口を出すなと言っただろ!」
ルカンは持っていたサーベルを投げ、ディランの両腕を掴んだ。
「やらなきゃいけなかった!お前はエラーラを守っていない!」
「カインは彼女を見ていない!」声が掠れた。
ディランはルカンをまっすぐ木の的に向かって押し、ぶつけた。
「お前は何も知らない!」
「見てきただろ、ディラン!それは彼女にとって不公平だ」ルカンは的にしがみつきながら続けた。
「物事はそんなに簡単じゃ……」ディランは怒鳴るのをやめた。
ルカンが遮った。「何が起きているかはよくわかってる、エラーラはカインに盲目的についていっているが、彼にとって彼女はどうでもいい」
「彼女のことが誰よりも大事なんだ!」
ディランは目を開き、しばらく黙った。
多くの感情が互いに擦れ合うのを感じた。
「それが……嫉妬なのか?カインを知らないだけじゃなく、エラーラのことも何もわかっていない」
「二人はずっと一緒にいる」
「二人とも同じ気持ちだ」
ディランは顔を張り詰めさせ、ルカンのほうへ完全に向き直った。
「カインがエラーラを思っていないと本当に思うか?理解していないと言ったが、今それが証明された」
作っていた拳を握り締め、指が手のひらに擦れた。
「カインは父親のことで自分を責めている」
ルカンはその場の空気が冷えるのを感じた。
「それからずっと、人を遠ざけている。大切にしたいと思えば思うほど……」ディランは拳を解いた。「より遠ざける」
「選ばれなかったことに傷ついているのを気づいていたとわかるか?……何て言ったと思う?そこは笑えないって言ったんだ」
ディランはルカンを見て怒りたかった。
「お前に嫉妬されているとか怒られているとか理解していない、ただ傷ついているのを見ただけだ」
ルカンは突然口を開いたが、何も言えなかった。
「そして誰よりもカインのことをわかっている人間がいる」
「お前の間抜けな発言にエラーラがどれほど傷ついたかわかるか?」ディランは喉を締めながら言った。
ルカンは頬の絆創膏に手を当てた。「どう感じたかはわかってる」
「今俺たちは複雑な状況を通り抜けている、悪化させるな」ディランは締めくくり、向きを変えて訓練場を出た。
ルカンはその後ろ姿を見送り、一時間叩き続けていた的にもたれかかるようにして地面に倒れ込んだ。
ディランは外に出た瞬間、肩に巨大なプレッシャーを感じ、それは増し続けるばかりだった。
「ずっとそばにいてくれた、今度は俺の番だ」




