表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖精姫ともふもふな妖精猫の王様~妖精の取り替え子と虐げられた王女は猫の王様と冒険がしたい~  作者: 雪野みゆ
第三部:カリュオン王国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/54

2章-4

 地面が目前に迫り、木々の梢を突き抜け、岩肌が眼前に迫った瞬間。


『――大地よ、大気よ。受け止めよ』


 静かな声が森に響く。


 不思議な声だ。それは叫びでもなく、自然に近い声だった。けれど世界そのものを従わせる迫力がある。


 目に見えない何かが落下している二人の体を包み、速度を失った。そして地面が盛りあがり、優しく二人を受け止める。


「これは……まさか?」


 フィンラスが目を見開く。


 地上に広がる黄金色の魔法陣。


 その魔法陣は精緻な紋様で幾重にも重なった古代文字だ。古代文字は光を放ち、大地が震えている。


「世界樹の加護か!」


 ハイエルフの王家のみに受け継がれる秘術だ。


 世界樹の力を借り受ける最上位の精霊魔法である。


 二人の身体はそのままふわりと地面に降ろされた。


 だが。


「ぐっ!」


 地面に着地した途端、フィンラスの身体に激痛が走る。地面に着地する寸前、岩肌に背中が接触したのだ。


 くずおれるフィンラスの体をカテリアーナは支える。


「フィル!」


 呼びかけるが、返事がない。


 背中には深い裂傷が走り、血が流れて出てきた。


「フィル! フィルしっかりして!」


 震える手で頸動脈に触れれば、しっかり脈打っている。だが、顔色がどんどん悪くなっていく。


「そうだ! オオヨモギを!?」


 いつも持ち歩いている止血効果がある薬草の袋を探すがない。落下する際、落としてしまったようだ。


「そんな……」


 涙がぽたりとフィンラスの頬へ落ちる。


「嫌……嫌よ! お願い! 目を開けて! フィル……」


 半ば絶望しかけたカテリアーナの耳に足音が響く。


 森を滑るような静かな足音が近づいてくる。馬の蹄の音ではない。


 振り返ると、一頭の巨大な白鹿が木々の間から姿を現した。


 その白鹿は黄金の角を持っており、神秘的な雰囲気を纏っている。


 さらに白鹿の後ろから白い衣装を纏った青年が現れた。背に流れる長く淡い金髪。翡翠のような翠玉色の瞳。そして長く尖った耳。絵本で見たエルフの特徴だ。


 彼が一歩足を踏み出すだけで、踏まれた草花は息を吹き返すように花開いた。


 木々に止まっていた鳥たちは一斉にさえずり始め、小さな精霊たちが彼の周りをうれしそうに飛び回る。


 森そのものが、主を迎えているようだった。


「これは……」


 フィンラスの姿を認めると、青年は静かに呟く。


「フィンラスか?」


 青年の発する甘い低音には驚きよりも古くからの友人を案じるような響きがあった。


「お願いします!」


 カテリアーナは必死に頭を下げる。涙で声が震えた。


 排他的な傾向があるエルフは滅多に姿を現さない種族だ。人間の自分の願いなど聞いてくるか不安ではあったが、今のカテリアーナは藁にも縋る思いで頭を下げるしかなかった。


「この方を、フィルを助けてください!」


 青年は何も言わず、フィンラスの傍らへ膝をついた。


 フィンラスの傷口へそっと手をかざす。


 すると、柔らかな緑の光が溢れ、裂けた皮膚が少しずつ閉じ始め、血が止まった。


 しかし、青年は微かに眉を寄せる。


「全く無茶をする。王でありながら、自ら盾になるとはな」


 意識がないフィンラスの瞼がわずかに持ちあがるが、青年は優しく瞼に触れた。


「眠っていろ。後は私が引き受ける」


 青年の横顔を見ていたカテリアーナは、不思議な感覚に包まれていた。


(初めて会うはずなのに、どこか懐かしく感じるわ。遠い昔聞いたことがあるような……)


 声を聞くだけで胸が温かくなる。安心する。


 どうしてだろう。


 気づけばカテリアーナは青年の顔をじっと見つめていた。


 カテリアーナの視線に気づいた青年もまた、ゆっくりと彼女に目を向ける。


 二人の視線が交わる瞬間、青年の瞳がわずかに揺れた。


(この娘……似ている)


 陽光のような金色の髪にエメラルドグリーンの美しい瞳。そして、真っ直ぐな眼差し。


 忘れたはずの記憶が鮮明に蘇る。


(……エリーシエル)


 亡き妻の面影が、目の前の少女に重なる。


 だが、それだけではない。


 少女から漂う魔力に青年はさらに目を見開く。微かではあるが、世界樹の加護の気配がする。


(人間の娘のようだが……なぜ魔力が?)


 人間という種族は魔力が使えなくなって久しい。稀に魔力を持つ人間もいるようだが、世界樹の加護を人間が受けれるはずがない。


(まさか!?)


 青年の胸の鼓動が早まる。


(あり得ない!)


 そんなことがあるはずがない。


(あの子は生まれてすぐに亡くなったはずだ!)


 胸の内に湧きあがる動揺を押し隠し、青年は穏やかに微笑む。


「安心するがよい」


 穏やかなその声に、張り詰めていたカテリアーナの心が少しだけ解ける。


「彼は死なない。ケットシーは意外と丈夫だからな」


 彼の言葉にカテリアーナは堪えていた涙を零した。


「……よかった」


 カテリアーナの涙を見た青年は、なぜか胸が絞めつけられるような痛みを覚えた。


 理由は分からない。


 だが、この少女を泣かせたくない。


 そんな思いがごく自然に心に芽生えていた。

ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ