化けの皮が剥がれる。
つい先ほどまでアシバの部屋にいたジャネットは呼び出しを受けて指定された部屋にやって来た。
「どうするつもりだジャネット!」
ジャネットを呼び出した本人はジャネットに怒鳴りつけ机を手で強く叩き怒りを表現する。
「ボルダー激怒不明。理由は何ですの?」
ボルダー。
それはジャネットの目の前にいる男の名前であり、この世界の最高権力者。ナナ達の世界の人間達から見れば一番偉い神様だ。
「お前のお気に入りがユーシャを全部燃やしたそうじゃないか! 人気の個体まで潰しおって。この責任、どうしてくれる! 」
ジャネットの態度が気に食わなかったボルダーは再度怒りに任せて机を強く叩く。
「お気に入り? 理解不能。」
「…アシバの事だ。」
アシバの名前を言う事すら嫌悪しているのが態度ではっきりと伝わってきたがジャネットは気にせず態度を変えず話し続ける。
「アシバ。理解了解。ならなぜにアシバ本人に言わなん? やったのアシバ。直談判する標的違う。」
「奴はお前が造った人造人間だ。責任者であるお前が奴の管理をするのは当然の義務だ。」
「それは当然します。だけど質問の返答に能わず。アシバに直接言うべ」
「くどい!」
ボルダーはジャネットの言葉を遮る。
「あんな気持ち悪い存在、視界に入れたくもない!」
「?」
ボルダーの言葉にジャネットは疑問を感じた。
「どういう意味でしょうか?」
「しらばっくれるな! 俺は知っているのだぞ。アシバはお前が、お前の遺伝子と俺の遺伝子を材料に造った人造人間である事を。その上お前はそれを自分達の子供だと言って奴が入っているカプセルに頬擦りしていたではないか! 見たのだぞ俺は!」
ボルダーは忌まわしい記憶を呼び起こす。
以前のジャネットがボルダーに対した異常な執着心を抱いていた事をボルダーは気がついてしまった。
それを知ったボルダーは以前のジャネットに対して元々あった嫌悪の感情をますます強めなるべく以前のジャネットと関わらないようにしてきた。
避けられている事に気がついた以前のジャネットはボルダーのその行動を照れ隠しと判断した。そして一人であらぬ妄想を考えるようになり、やがてそれが現実のものであると思い込むようになってしまった。
ジャネットとボルダーは恋人同士。
以前のジャネットはそう思い込むようになった。
妄想と妄言ばかりで実害はなかったが、以前のジャネットはある日ボルダーの髪や体液を採取し、それと自分の髪や体液を材料に人造人間を作り出した。
その人造人間の事を自分とボルダーの子供だと言いながら以前のジャネットは寝食忘れて人造人間の世話を続けた。
偶然以前のジャネットが人造人間に話しかけている所を目撃し、以前のジャネットの発言を聞いたボルダーはその場から逃げるように立ち去り、それ以降以前のジャネットが造った人造人間をアシバと思い、アシバに対しても距離を取り辛辣な態度を取るようになった。
「気持ち悪い! お前は昔から本当に俺に纏わりつく。もう俺に関わらないでくれ! どうしてお前なんかが優秀なんだ。代わりがいないからお前を排除できない!」
「代わりあるではないですか。」
「は? どこにそんな人材がいる。」
「ここに。」
「…はぁ?」
自分の胸に向かって指差すジャネットにボルダーは一瞬思考が停止した。
ジャネットの言っている意味が分からないからだ。
「何を言っているのだお前は。」
「納得理解しましょう。ボルダーは勘違いを認識中。アシバは私が造った人造人間。ボルダー無関係でます。」
「嘘をつけ! 俺は見たんだ! 確かに、はっきりと。」
「ボルダーが目撃したのは私です。」
「? そりゃあ、お前もそこにいたのを見たが」
「否定。認識修正お願いします。ジャネットとボルダーの共同で制作された人造人間は私だ。」
「…は?」
ジャネットは自分が以前のジャネットとボルダーの体の一部から造られた人造人間である。そう言ったのだ。
「何を、何を言っている。」
告げられた言葉にボルダーは理解が追いつかない。
そんなボルダーに遠慮する事なくジャネットは淡々と話し続ける。
「私の制作者、私を造った後に死亡。原因は栄養失調か過労のどっちか。私、自立した後制作者の顔と名前と立場を略奪せめし。」
つまりジャネットは、ジャネットと名乗るこいつは本者のジャネットが造り出した人造人間であり、本者のジャネットが死んだ後に顔を整形してなりすましたのだ。
「制作者が孤独で大変感謝で救助です。誰も私の事を偽者と気づかない。言葉づかいに対して何も指摘せず。」
「…そうだ。ジャネットは、そんなおかしな喋り方ではない。あいつは、無口な奴だった。」
ここまで経って、ジャネットと名乗る目の前の存在の自白によってようやくボルダーは気がついた。
「じゃあ、本当に。本当にお前は、あいつが造った人造人間。」
「はい。」
今までジャネットと名乗っていたものは頷く。
事実を知ったボルダーは恐怖のあまり立ち上がり密室の中可能な限り距離を取る。
「目的、目的は何だ?! ジャネットになりすまして何を企んでいる?!」
それでもボルダーは目の前の存在に話しかけ続ける。
未確認で未知の存在を捕らえようと通信端末を使って応援をすでに呼んでいる。ボルダーがこいつに話しかける理由はその時間稼ぎだ。
「企み。企み企み企みたくらららららららららりららららららりらららん。」
ボルダーは目の前の存在に対して強い恐怖を感じながら返答を待つ。
ボルダーが恐怖に耐えて質問に対する答えは
「愛、かな?」
これだ。
「はぁ?!」
全く予想していなかった返答にボルダーは言葉を詰まらせる。
「制作者言いました。「私はボルダーを愛している。ボルダーのためなら全てを捨てても構わない。」と。」
ボルダーに構わずジャネットの姿をしたそれは一人で喋り続ける。
「全て。制作者の全ては世界そのもの。それを捨てる覚悟。生な気持ちでは無理。制作者がそこまでする愛に興味を持つのは当たり前。」
そこで一旦話を区切り、それは頭を抱える。
「だけど分からない。調べた。本読んだ。制作者の記憶見た。でも分からない。どうすれば知れる愛。」
もはやボルダーを見ていない。一人でぶつぶつと独り言を続ける。
「…ボルダー。あなたを解剖したら分かりますかね?」
唐突にじっと見つめてくるその存在にボルダーは恐怖に耐えきれず逃げ出した。
ジャネットのふりをしていた存在の横を通り抜け唯一の出入り口から部屋から出ようと扉を開けそこから逃げ出した。
逃げるボルダーの背中をジャネットはじっとりと見つめていた。




