少女がいなくなった後。
ナナが死んでから少し経った後。
アシバは自分の部屋の中で一人ベッドの上で寝っ転がっていた。眠らず何もせずぼんやりと天井を見ていた。
「アシバ。」
そんなアシバに声をかける存在がやって来た。
「…ナナ?」
アシバは声をかけて来た存在の姿を見て目を見開いた。
死んだナナの姿が目の前にいる。
「部屋に閉じこもっていたら体に悪いよ。一緒に散歩でもしようよ。」
生前の変わらない声でアシバを誘う。
アシバはベッドから起き上がり近づき手を伸ばすと
「誰だよお前。」
その存在の胸元を手で貫き燃やした。
「あらーら。せっかく造ったのに。何が不具合?」
陰でアシバのやり取りを見ていたジャネットは心底不思議そうにアシバに話しかける。
ジャネットを見たアシバは顔をしかめる。
「ジャネット。なんでこんな事をするの。」
アシバはジャネットが生み出したナナの姿をしていた存在の黒焦げの焼死体を見下ろす。
「こんなの造らないでよ。」
そう言って再びベッドの上に寝転びジャネットに背を向ける。
「喜びでいっぱいすると思った。」
「そいつはナナじゃない。」
「声姿一緒。」
「同じじゃない。」
アシバの言葉にジャネットは首を傾げしばらくその場で考え込む。
「何か用?」
いつまでも立ち去らないジャネットに苛立ちを感じたアシバはそのままの姿勢でジャネットに声をかける。
「訪問目的二つ。一方はアシバが撃破。」
一瞬焼死体を見た後、ジャネットはアシバの背中へ視線を戻す。
「もう一方は問いただす。」
「何が聞きたいの?」
「何でさっき君以外のユーシャ殺害せしめた?」
「僕に執着してる奴がナナを殺した。だから殺した。他の奴らは僕を止めようとしたから殺した。全員殺したのは今知った。」
アシバの言う執着している奴とはアシバに対して恋心を抱いていた少女の事だ。
少女のユーシャはアシバとナナが結婚すると聞き、嫉妬と怒りに狂い衝動的にナナの頭を殴り撲殺してしまったのだ。
その事をアシバに話し、アシバに好意を伝えてきた少女に対してアシバは躊躇なく燃やそうとした。
しかし他のユーシャ達がそれぞれの考えがあってアシバを言葉や武力で止めようとした。
しかしアシバは止めようとして来た他のユーシャ達を難なく燃やして殺害し、誰かを呼ぼうとしたユーシャ達も燃やして殺害し、最後は泣き叫びながら許しを願う少女を燃やして殺害した。
その後、部屋に戻ったアシバはジャネットが来るまでの間ずっとベッドの上でぼんやりとしていた。
「アシバ以外のユーシャ全員死亡。皆怒る。」
「また造ればいいじゃん。」
「気軽な発言。」
「僕達人造人間を造ったのはジャネットじゃないか。実際、簡単に造れるのだろ。」
「人造人間と言うと他嫌がる。」
「そういえば前にそんなこと言ってたね。人造人間じゃなくてユーシャって呼べって。」
アシバを含むユーシャ全員、ジャネットが生み出した人造人間だ。
強靭な肉体も長い寿命も全てジャネットが用意したもの。
アシバの言う通りジャネットならば新たなユーシャを生み出せる。
「でも時間経つ。その間ショーができないって文句発言された。」
「無視すればいいじゃんいつもみたいに。」
「うん。人間減らすが良くないので怪物役機能停止させた。」
アシバの言うショー。
それはユーシャと7災シンが生み出した怪物と戦う事そのもの。
この世界に住むもの達はこれまでユーシャと怪物が戦っている様子を安全圏であるこの世界で中継を通して見ていた。
視聴理由は娯楽。
命を賭けて戦うユーシャに対して熱烈な応援を。
人間を殺す化け物役の人造人間にはもっと殺せと煽る。
神と呼ばれる存在にとって人間もユーシャも怪物も消耗品であり娯楽品だ。
「あっ。でもそしたらエネルギー減る。」
「節約させれば?」
「無理。協力拒絶される。」
「我儘だからね。」
この世界の者達の言うエネルギーとは人間の魂を指す。
箱庭という世界を作り、そこで生まれ育った人間が死んだ時に魂を回収しそれをエネルギーとして利用される。利用方法は明かりに使ったり生活に役立つ道具を動かすなど。
怪物役の人造人間の役割は娯楽のためのショーを盛り上げるためでありエネルギー源である人間を殺して魂を定期的に回収する事だ。
そしてユーシャのもう一つの役割は怪物役の人造人間が人間を殺しすぎないよう間引く事だ。
つまりユーシャ達の戦いは娯楽のためのやらせなのだ。
エネルギーの出所を知っているのはアシバとジャネット。そしてこの世界の最高責任者であるボルダーを含めたごく僅かな者のみ。
「…そういえばナナの魂も使われたの?」
「もちろん回収済み。今頃消費されたよもしれん。」
「そう。」
アシバは力無く答えた。
ジャネットはアシバに近づきベッドの上に座る。
「問いの追加を希望します。」
「何?」
「なぜ人間、個体名ナナを好きになった? 結婚したいと言い出すましたし。」
ジャネットのその質問に対してアシバは黙り込む。
そしてそこからしばらく静寂が続いた。
何も言わないアシバにジャネットは何もせずじっと待つ。
やがて観念したのか、それとも考えがまとまったのかアシバは話し出した。
「…僕、ナナの事好きだったのかな?」
「え?」
思いがけない返答にジャネットは困惑する。
「結婚すると発言する。」
「言ったよ。でも、それはナナの事が好きだったから言ったのかなって。」
「どういう意味?」
「…ナナに最初に会った時は弱そうと思った。いつも通り気にせず怪物役を殺せば良かった。」
「でも救助した。」
「うん。何だか無視できなくて守ってた。それからもナナとは会って、泊まる所を紹介してくれた時にナナと一緒にいられると知った時、何だかその、多分嬉しいって思った。」
「それでそれで?」
「僕が怪我をした時、ナナは悲しんでくれた。僕のせいでナナが追いかけ回された。それを聞いた時、すっごく嫌な気持ちになった。」
「ふむ。」
「もう仕事が終わったから行く意味なんてないのにナナに会いに行った。そしたらナナ泣いちゃって。でも僕のこと心配してくれたって知った時、また嬉しくなった。」
「うん。」
「ここに連れて来て、一緒に暮らして、一緒に色んな世界に行って。凄い楽しかった。」
「ほほう。」
時々相槌をうちながらジャネットはアシバの話を聞く。
「ナナはきっと僕の事が好きだった。態度とか、表情が漫画で見た恋する人に似てた。」
「なるほど。」
「だから期待に応えただけで、別にナナの事が好きだったから結婚したわけじゃないと思って。」
アシバの話を大体聞き終えたジャネットは気になった事をアシバに聞く。
「個体名ナナは初めて会った時から気になる存在である?」
「うん。」
「それ、一目惚れで認識ですのでは?」
「…え?」
アシバにとっては予想外の答えだったのかここでようやく起き上がりジャネットの方を見る。
「見ただけで相手に好意を抱く現象。それが一目惚れ。数多の恋愛漫画である展開の一部。」
「…じゃあ僕はちゃんとナナの事が好きだったの?」
「恐らく。多分。きっとそうかもしれない。」
ジャネットは曖昧に答える。
しかし、アシバにとってそれで充分だった。
「そっか。僕、ナナの事が好きだったんだ。ナナも僕の事が好き。きっとそう。僕達、両思いって奴だったんだ。」
そこまで言ってアシバは今度はベッドの上に突っ伏す。
「…何で死んだんだよナナ。会いたいよナナ。」
そんなアシバを見てジャネットはボソリと呟いた。
「羨ましい。」




