少女がいなくなる前。
まずはナナが亡くなる前の事。
ナナはアシバと共に様々な世界に行き7災シンが造った生命兵器相手に戦う事になった。
最初は戦いについて行けずアシバの足手纏いだったが、アシバの支えと本人の努力によつて経験を積み上げていき、最終的には弱い個体であれば一人で倒せるまでに成長した。
亡くなる前日もアシバと共に戦っていた。
◆◇◆◇◆
「あぅぅ。疲れたー。」
「お疲れ様。今日はたくさん弱いのを倒せたね。」
「ありがとうアシバ。」
仕事を終えた二人が帰ってきた時、数人が出迎えてくれた。
「ちょっとナナ! あんたまたアシバの足を引っ張ったんじゃないでしょーね!」
この子はユーシャの内の一人。
アシバに恋しナナに嫉妬する少女だ。
「帰ってきたかアシバ! さっそく俺と勝負しろ!」
この子はユーシャの内の一人。
アシバをライバルと思っている少年だ。
「二人共止めろよ。アシバとナナは疲れているんだから。あっ。アシバ、ナナ。おかえり。」
この子はユーシャの内の一人。
戦いを終わらせて世界を平和にする事を夢見る青年だ。
全員、アシバとナナがここで知り合ったもの達だ。
「今日は疲れたから話はまた今度。行こうナナ。」
アシバはナナの手を引いてその場から立ち去った。
◆◇◆◇◆
「はい。今日はシチューだよ。」
「ありがとう。」
この日も二人は同じ部屋で一緒に食事を摂る。二人が今いる部屋は元々はアシバだけの部屋だったが、ナナが来てからは二人が暮らす部屋になっている。
当初のナナはアシバと共に寝食を共にする事に戸惑いと恥じらいがあったが、今は慣れていて一緒のベッドで眠るまでになっていた。
「明日は休み?」
「うん。」
二人はいつものように食事を摂る合間に会話をしている。
「たまには出かけてみない? ジャネットさんに許可を取ってどこかのどかな世界に。視察って言えば通りやすくなるかも。」
「ナナの世界じゃ駄目なの?」
「え。」
いつもなら出さない話題をアシバにふられナナは硬直してしまう。
「そろそろいいんじゃないかな。会いたい人がいるんじゃないの?」
「…そりゃあ、会いたいよ。リナさんに。」
ナナが生まれ育った世界でお世話になった人の名前だ。
ここに来てからナナは元の世界に戻っていない。
「でも、会うのはちょっと。」
「なんで?」
「あんな事があったからちょっと会いづらい。せめて何かきっかけが欲しい。」
「きっかけ。」
そう言ってアシバは考え、そして思いついた事をナナに話した。
「じゃあ僕達結婚する?」
「え??!」
アシバからの思いもよらない提案にナナは驚き言葉を失う。
「え? なん、何で?!」
「結婚したらお世話になった人に挨拶するって漫画に書いてあったよ。あれ。違った?」
「いや、合ってるよ。合ってるけどそれで何で私とアシバが結婚するの?!」
慌てふためくナナと違ってアシバは淡々と話を続けていく。
「だって僕達ここで一緒に暮らして一緒にご飯食べて一緒に眠ってるだろ。夫婦ってそういう事をするって漫画で読んだ。」
「間違ってはいないけど。間違ってはいないけど!」
アシバが突拍子のない発言を聞くのはナナにとってこれが初めてではない。しかし、この発言は今まで聞いてきた中で一番ナナの心を乱した。
「でも僕と結婚したらナナの夢が叶うよ。」
「…それは、そうだけど。」
ナナの夢。
それは家族と共に幸せに暮らす事。
ナナの両親は世間から見て良い親とはとても言えない。
父親は酒浸りで暴力的であり、母親は幼いナナを放置して遊んでいた。
ナナはそんな両親と一緒にいたくなかったため幼い身で家を飛び出し、様々な苦労をしながら一人で生きてきた。
そのせいでナナは幸せそうな家族を見るたびに羨ましい気持ちでいっぱいになった。
そしていつしか自分もあんなふうに幸せになりたい。家族と共に同じ時間を生きたいと願うようになった。
「ナナは僕と家族になるのは嫌?」
「…嫌じゃ、ない。」
ナナはアシバに対して強い好意を抱いている。こうして危険と知った上で一緒に暮らすほどに。
「じゃあしようよ結婚。」
それでもいきなり結婚しようと言われてはい分かりましたと言える度胸はナナには無かった。
「いやでも。そんな簡単に決めていいものじゃないよ。アシバはいいの? 私と結婚したらアシバの奥さんになるんだよ私。もっとちゃんと考えないと。」
「考えた。」
アシバは真っ直ぐナナの目を見据える。
「ジャネットにも相談した。ナナとずっと一緒にいたいって。そしたら結婚したら良いって言われて。だったら僕はナナと結婚がしたい。」
はっきりと言うアシバにナナはたじたじだ。
「えっと。」
「ナナはどう? 僕と結婚。」
「…その。」
ナナはアシバへの返事を考える。
アシバは黙ってナナの返事を待つ
時間が経った後、ナナは答えを出した。
「…結婚、してほしいです。」
恥ずかしがりながらもナナはアシバの目を見て嘘偽りの無い答えを口にした。
「やった。じゃあ早速ジャネットに報告しよう。結婚て色々と準備がいるんだって。」
いつもの様子と比べて若干はしゃいでいるように見えるアシバを見てナナは嬉しそうに笑った。
◆◇◆◇◆
「報告把握。準備補佐しまります。」
二人は結婚する事をジャネットに伝えるとジャネットは反対せずすんなりと受け入れた。
「ありがとうございます。」
ナナがお礼を言った時、アシバが持っている連絡用端末が振動する。アシバがそれを確認するとジャネットとナナに声をかける。
「用事ができたから僕行くね。また後で。」
そう言ってアシバは立ち去った。
「ナナ。」
ナナは部屋に戻ろうとした時、ジャネットに声をかけられた為足を止めた。
「はい?」
「アシバを愛しております?」
「…はい。その、愛してます。」
ジャネットからの質問にナナは一瞬戸惑い、恥ずかしがりながらもきちんと答える。
「そう、なのです。」
「はい。」
ジャネットはナナをじっと見据える。
「比喩無し。あなた近日亡くなります。」
そして死亡予告を突きつける。
「それでもここに存在いますか?」
「はい。」
それでもナナは臆する事なくはっきりと答えた。
「なぜ? 不明? 生命大事では?」
「…それはそれで悪くないなと思いまして。」
「は?」
ジャネットは心底分からなかった。
アシバと共にいたら死ぬと聞かされた上でそれでも構わないと言うナナの事が分からなかった。
「だってあのアシバが私と結婚しても良いって言ってくれたんですよ。」
「それが? 関係の有無不明。」
「アシバがそう言ってくれるだけの愛着が私にあるって事です。」
そう言ったところでナナは微笑む。
「そんな私が死んだらアシバはきっと私の事を引きずってくれる。」
「…はぁ?」
ジャネットは分からなかった。
ナナが言っている事の意味がまるで分からなかった。
「前に話してくれたじゃないですか。ユーシャの寿命は私達人間の何倍も長いって。特にアシバはすごく長いって。」
そんなジャネットを置いてきぼりにしてナナは饒舌に喋り続ける。
「私は必ずアシバよりも先に死ぬ。だったら私は。どうせ死ぬのならアシバがいつでも思い出せるくらい惨たらしく死んでしまいたいんです。できるだけ長く、私の事を想っていてほしい。」
ジャネットは何も言えなかった。ただ黙ってナナの話を聞く事しか出来なかった。
「だから私はアシバと結婚します。そろそろ失礼しますね。」
言いたい事を言えたのかナナは晴々した様子でジャネットの元から立ち去っていった。
ジャネットは黙ってその後ろ姿を見る事しか出来なかった。
そしてそれがジャネットが生きているナナを最後に見た姿だった。
ジャネットが次にナナを見た時、ナナはすでに冷たい遺体になっていた。
死因は撲殺。
頭部に強い衝撃を受けているのが見れば嫌でも分かった。
「だから発言なのに。」
ナナの遺体を安置している部屋の中でジャネットは独りで喋る。
「何。不明。ありえない。苦痛が存在のはずなのに。」
殺されると気がついていた。
殺される瞬間、恐怖があったはずだ。
ジャネットは考え続ける。
「なぜ幸せな表情をしてる?」
しかしいくら考えても分からない。
気のせいかもしれない。
だけどナナの幸せそうな死に顔を見てしまったジャネットは考えてしまう。
なぜ、そんな顔をするのか。
「何故? なぜ? なぜる? これが、愛?」
ジャネットは考えた。考えて考えて考え続けた。
だけど答えは出なかった。




