冒険者から少女へ。
「じゃあ行こうか。」
「うん。…どこに?」
勢いで一緒に行くと言ってしまったけど、そういえばどこに行くのかは全く聞いていない。
とりあえず周辺を片付けて荷物をまとめていつでも出発できるように準備は済ませてある。
「僕の故郷?」
「えっと、どこにあるの?」
「知らない。」
「はい?」
自分の故郷のことなのになぜ知らない。本当にそこはアシバの生まれたところなのだろうか。
「正確な位置は僕にも分からないからね。」
アシバは懐から何かを取り出した。
手元にあるのは彼の手よりも少し大きめの白い長方形の板だ。板の表面を指でなぞっていくと青白い光を放つ。深夜のためその光が余計眩しく見える。
「ナナ。」
手を差し出された。よく分からないけれど掴めばいいのだろうか?
「えっと、こう?」
「そのまま離さないでね。」
言われた通り手を握っていると、急に上から引っ張られる感じがした。以前アシバと一緒に飛び上がったあの感覚とよく似ている。
突然の事で声が出せない。そのまま上へと登っていく感覚を感じながら私は黙って耐えることしかできなかった。
「・・・・・。」
「大丈夫?」
「うっぷ。」
「大丈夫じゃないな。」
気がついたら上に引っ張られる感覚は無くなり、代わりに前に体験した時よりもひどい吐き気と目眩で気持ちが悪い。
しばらく休めば気分はだいぶよくなりふらつくことなく歩けるくらいには回復した。
そこでようやく違和感に気づいた。朝にはまだ早い時間帯のはずなのに妙に明るい。
顔を上げるとそこは壁も床も全部真っ白な空間だ。椅子やテーブルのようなものが並んでいる。
ここはどこなんだろう。
周りを見て、気がついた。大勢の人がアシバと私を見ていた。全員驚いた様子でこちらを見ていた。
「え? おいまさかあれって。」
「箱庭の人間だ! なぜ連れてきたアシバ!」
動揺する人。
アシバと私を見て怒号を上げる人。
反応はそれぞれ違うけど、私たちが歓迎されていない事は分かった。
「おい誰かジャネットさんを呼んでこい!」
「呼ばれなくとも平気でます。」
「ジャネットさん。」
現れたのは中性的な人で男か女かわからない。この人がジャネット?
「おいアシバ。箱庭の人間を連れてきてしまったのでしょうね。なぜに?」
ちょっと口調が変なような。
「一緒にいたいから。」
「曖昧抽象的でございます。ボルダーが黙っておりませんよう。」
「ジャネットが何とか言ってよ。ボルダーの次に偉いでしょ。」
「理由によっては何とかしてやろうでしょう。なぜにその人間が気に入ったのでます?」
「んー。好きになったから?」
「へ?!」
アシバの思わぬ言葉に思わず変な声が出てしまった。顔が熱くなる。
「ほほう。つまり、恋ですね。うらやまけしからんというわけですね承知。面倒はちゃんと見れますですか?」
「うん。」
「でしたら仕方なし。その人間がいるのを許可してやりましょう。」
「ありがとう。」
「部屋はあなたの所ででます。後はやりましょうので部屋に戻りませ。」
「分かった。行こうナナ。」
「う、うん。」
口を挟む間もなかった。
アシバに手を取られてなされるがままここから移動するけど、後ろから色んな人達の視線を感じたかなり居心地が悪い。
「ジャネットさん! 勝手にそんな事決めていいんですか?!」
「ボルダーさんになんて言われるか! 分かってるんですかちょっとジャネットさん! 漫画読んでる場合じゃないでしょ。」
後ろからそんな話し声も聞こえてきて本当に居心地が悪い。
そもそも、ここはどこ!?
「アシバ! 聞きたい事はたくさんあるんだけど、ここは一体なんなの?」
「場所の名前だったら、天界とか神界とか色々あるよ。」
「…え?」
それって、神様の住む場所じゃないの?
「…まさか、あの人達は神様なの?」
「神様というより、創造主ってやつかな? 僕やナナの世界を作ったのはジャネットで、それを手伝ったのがボルダーとさっきの奴ら。」
「…え?」
冗談半分で聞いただけなのに。さっきの人、神様? どういう事?
「本当、なの?」
「信じられない? だったらそうだな。あれを見れば信じてくれるかな? こっちに来て。」
◆◇◆◇◆
「…何これ。」
アシバに連れて来られた場所は大量の四角い物体が浮かぶ部屋。
「もっと近くで見なよ。」
四角い物体の前にいるアシバにそう言われてそれに近づく。箱のような物は透明で中をよく見ると緑色のものが見えた。
「これは?」
「見えにくい? だったらこうすれば。」
アシバが箱に触っていじると箱の上に何かが現れた。
「何これ。」
「ナナの世界の映像。」
「世界? 映像?」
アシバが何を言っているのかさっぱり分からない。
「ほら、よく見て。」
アシバが箱の上にあるものを指差す。
言われた通り見ると遠くから見た森のようなものに見える。
「まさかこれ、どこかの景色?」
「そうだよ。ここにいてもこの世界を見れるんだ。あっそうだ。ナナと一緒にいた人の様子を見せてあげる。」
そう言ってアシバはまた箱をいじると映像というものが変わる。今度は見慣れたものになった。
「これ、私が住んでた町。」
少し前まで暮らしていた町を見せられる。街並みの他にそこで暮らす人達の姿を見れた。その中にはリナさんもいた。
「この人だっけ?」
「なんで。これ、アシバの力?」
「違うよ。世界を作ったのはジャネット。」
そう言ってアシバは箱を掲げる。
「待って! リナさんは、私達はこんな小さな箱の中で暮らしてたって事?」
「そうだよ。」
頭の中が真っ白になりそうになる。
信じられない事だけど、アシバが嘘をつくとは思えない。映像というもので見れたリナさんが今まで見てきたリナさんと同じ姿だ。
だけど、私達が生きてきた場所がこんな小さな箱の中なんて信じられない。
「アシバ。ここにいやがっておりましたか。」
「あっ。ジャネット。」
後ろから声が聞こえてきた。さっき会ったジャネットていう人だ。
「おや。箱庭を見せましたので?」
「うん。ナナに教えてあげたんだ。」
「これはこれは酷な事を。真実は時に相手を傷モノにしわす。」
「なんで? 本当の事なのに。」
「この子にとっては刺激的なのですよう。見なさい。」
「え。あれ? ナナ。なんでここに座るの? 疲れた?」
もう、まともに立つ事すら難しい。体が冷えていくのを感じる。このまま気絶してしまいたい。




