冒険者は旅にでる。
さんざん泣いた後、やっと落ち着いた私はアシバの顔を改めて見る。
彼は嫌な顔せず私が泣き終わるのを待っていてくれた。
「落ち着いた?」
「うん。ごめんねみっともないところ見せちゃった。」
「僕こそごめん。帰るって約束したのに守れなかった。」
そうだ。そんな約束も交わしてくれていたっけ。
でも、約束を破ったのは私も同じだ。
「私だって森から逃げろって言われたのに入っちゃった。謝るのは私の方だよ。」
「えっ?…あ、壊れたって言ってたな。」
「?」
今彼の言った事の意味はわからないけれど、それでもいい。彼にだって色んな事情があるんだ。あれこれ聞くのはいけない。
でも、どうしても聞きたいことがある。
「でもあんな事になったのに。どうして生きてるの?」
あの時私が見たアシバはどう見ても死んでいるようにしか見えなかった。大量出血に加えて体があんなに破壊されていて生きている人間なんているはずがない。
そう、人間ならば。
「あれくらいじゃあ死なないよ。すぐ治る傷だ。」
「…あなたは人間じゃないんだね。」
「そうだよ。僕はこことは違うところからやって来た人外ってやつだ。」
目の前にいる彼はあっけらかんと自分の正体をばらしたけど、驚くことはなかった。むしろ納得してしまった。
人間では魔法みたいに炎を操ったりすることも傷を治したりすることもできない。
「仕事は終わったからもうここにくる必要はないけど、せっかくだしお別れに来たんだ。」
「そうなんだ。」
お別れか。いつか来るとはわかっていことだけど、そこまで悲しくはない。だって死んだと思っていた彼が生きていてくれている上にまた会えた。
「リナさんに会ったらお化けって言われて腰を抜かされたよ。」
「まぁ、リナさんにアシバが死んたって伝えちゃったからね。そりゃあ驚くよ。」
「あーあ。もっと早く来ればよかった。」
もう2度と会えないと思っていたあなたとまた会えたんだ。
さびしい気持ちはあるけれど、それでいい。
アシバと一緒に過ごせた事は私の人生の中でもとびっきり幸せなひと時だった。その思い出があれば私は生きていける。
「ナナ。」
「何?」
「どうしてこんなところにいるの?」
突拍子もなくそんな事を聞かれ、息が止まりそうになる。だけど、動じた事を悟られないように笑顔を作って取り繕う。
「もちろん仕事だよ。あなたが死んだと思っていたから少しでも気を紛らわせようと思って…」
突然アシバに胸倉を掴まれた。
「嘘つかないでよ。」
…やっぱり彼には嘘が通じないか。
いや、リナさんに会った時に何か聞いたのかな?
「僕のせいなんだろ。」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
私が住んでいた国、カリンナ王国の国王には1人の愛娘がいる。
名前はラマン・カリンナ。
国1番の美貌を持ち、努力家でいつも国の事を考えてくれるとても心の優しいお姫様だ。
その彼女が難病に冒されてしまう。感染の危険性はないけどその病気に明確な治療法な無く、かかった者はみんな死んでしまう病気だった。
国王は何としてでも姫を救うために藁にもすがるつもりであらゆる医者を呼び寄せたり病に効く薬草を探させたりとあらゆる手を尽くした。
町の目立つところに『姫の病を治す方法を見つけた者には報奨金をやろう。』と書かれた大きな看板がいくつも立てられた。
それを見た多くの人々は姫を助けるために、あるいは金欲しさに動いた。
だけどどんな名医でもどんなに高価な薬草でも誰も姫を救えなかった。
国王は日に日に衰弱していく姫を励ましながら病を治すためにいろんな事を調べていくうちにあるおとぎ話を見つけた。
永遠の時を生き、その生き血を飲んだ者はあらゆる病気や怪我が治り永遠に生きられる幻の鳥。
神に仕える炎の力を持つ不死鳥のお話だ。
国王はこれさえあれば娘の病気も治せると思ったけれど不死鳥はおとぎ話の中でしか生きられない空想の生き物だ。不死鳥の生き血など手に入れられるわけがない。
だけど国王はアシバの噂を聞いてしまった。
彼が炎を操り、流した血で傷がたちまちに治ってしまったと。
国王はアシバを連れてくるように兵士に命じた。アシバを連れてきたものには報奨金をやると宣言もした。だけどもうすでにアシバはいなくなっていた。
一刻も早く姫の命を救いたい国王はアシバの不在を知り焦った。せっかく姫を助けられる唯一の方法だったのかもしれないんだ。そう簡単に諦めるわけにはいかない。
そこで目をつけられたのが、私だ。
私はアシバと長く一緒にいたから彼の行方を知っているのではと勘ぐった者たちが無神経に聞きまわってきた。
もちろん知らないと答えたけど、信じてくれなかった。決まって「嘘をつくな。」「隠すとろくなことがないぞ。」としか返事は返ってこなかった。中には暴力を振るって口を割らせようとした者もいたくらいだ。
ギルドのみんなやリナさんが庇ってくれてたけど、正直疲れてしまった。
このままここにいてもみんなに迷惑をかけるし、アシバの死を引きずっていた私には抵抗する気力はなかった。
だからあの国から逃げるように出て行った。
「行くあてはあるの?」
「ないよ。しばらくは仕事をしながら旅をするつもり。」
冒険者ギルドに登録されていれば遠い国に行ってもそこにギルドがあれば仕事をもらえる。おかげで自分の食い扶持の心配をする事はない。
「あそこに戻りたいとは思わないの?」
「…ほとぼりが冷めるまでは戻れないよ。」
姫の病が治るか、姫が死ぬまではあの国には戻れない。
もし姫が死んだ後にのこのこと戻ってきたら薄情者の称号を押し付けられる。
人は自分が正義だと思い込んだらどこまでもやる生き物だ。そんな奴らに何をされるかわかったもんじゃない。
あそこに戻れるとしたら私がアシバを国王の元へ連れて行き、姫の病気が治った時だ。
「言っとくけど僕の力じゃ病気は治せない。人間に施せるのは人間が死なない程度の負傷を直せるだけだ。人間と僕たちじゃあ身体の作りはまるで違うからね。」
それを聞いてなおのこと戻れなくなってしまった。
最後の希望がなくなった今、奇跡が起きない限り姫に残された道は1つしかない。
これが国王の耳に入ったらとんでもないことになるかもしれない。
まぁ、国王といっても所詮は見知らぬ他人だ。国を出た私にはもう関係ない。
「気にしなくていいよ。アシバは何にも悪くないんだから。」
そう。アシバは何も悪くない。
彼はただ自分のやるべきことをやっただけなんだ。周りの人間に合わせる必要はない。
「…前に読んだ本で男の使命は女を守る事なんだって書いてあった。」
「へぇ、そんな本があるんだ。」
なぜ今その本の話をするのだろうか。
「だから責任をとりに来た。」
「…ふぁ?」
待って待って。なぜそうなる。意味がわからない。
「本だと女を傷モノにしたら男が残りの人生の全てを使って償わなければいけないんだって。」
「えっ待って。その本のタイトルはなんていうの?」
「『恋はいつでもド直球❤︎〜だけどあなたの存在はデッドボール!!』だったと思う。」
「何それそんな本知らない。」
「ジャネットが持ってた。」
「誰?!」
思わず声を荒げてしまったけど、許してほしい。なにせ情報が多すぎる。
「と、とりあえず何が言いたいの?」
「僕と一緒に来る?」
唐突な申し出で息が止まりそうになった。今日1日で何回目だろう。
「嫌?」
「い、嫌じゃない!嫌じゃないけど、無理だよ。」
「どうして?」
「誘ってくれたのはすごく嬉しいよ。でも私がいても足手まといになるだけ。なら、いない方がいい決まってるでしょ。」
彼の誘いはとても嬉しい。だけどそれ以上に彼に迷惑をかけるのは嫌だった。
怪物と戦っている時だって私がいない方が戦いやすかったはずだ。
だけど、アシバは私の言葉を首を振って否定した。
「一緒にいてくれたらそれでいいよ。」
手を差し伸べられる。
この手をとれば、また彼と一緒にいられる。
だけど。
「…本当に、いいの?」
「うん。」
私は、本当に彼と一緒にいていいんだろうか?この手をとれば何か取り返しのつかない事をしてしまう気がする。
だけど、だけど!
「よろしくお願いします!」
「こちらこそ。」
私は彼の手を取った。
そして私はとんでもない事をしでかした気がした。だけど後悔はしない。自分で決めた事だ。たとえこの決断が原因で死んだとしても、構わない。
私が死んでもアシバはそこまで気にしないはずだ。この誘いは気まぐれの1つだと思う。
それでもいい。
あなたと一緒にいられるならどこまでもついて行きたい。




