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ユーシャハシナナイ  作者: 日暮蛍
少女のお話。
15/23

冒険者は出て行く。

「リナさんお世話になりました。」

「ねぇナナ。やっぱり考え直さないかい?あんたは何も悪くないんだから、もっと堂々としていなよ。」

「いえ、もう決めた事ですから。」

「…部屋は開けておくからいつでも帰ってきていいんだからね。」

「ありがとうございます。リナさん。」


もうここには来ないかもしれないけれど。


リナさんと別れ、後ろを振り向かないように人目から町の外へと目指す。

隠れながら移動しているせいで普段よりは遅いけれどなんとか日が高いうちに門の前までたどり着く。

以前の暴牛の来襲により門の前には衛兵と通行人の他に門の修繕をしている作業員が何人かいる。あれから少し日は経つけれど、町の完全な復興は先のようだ。

悠長に門を見ている場合じゃない。見つかる前に早く外に出よう。

衛兵に通行書を見せれば何の障害もなく外に出られた。どうやらこの衛兵は私のことをあまり聞いていないようだ。

これ幸いとさっさと町から出ていく。


「おい、あれって。」


後ろにいる誰かがそんな事を言うのを耳にする。私の事とは限らなけど、感づかれていてはまずいと思い走り出す。

遠くから「待て。」「捕まえろ。」と言うのが聞こえ、さらに足を早めた。

私は何年もお世話になったこの国と町にろくなお別れができないまま逃げ出した。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



陽が落ち始めているため野営に良さそうな場所を見つけ、そこで夜を過ごすことになった。

手持ちのもので腹を満たし寝床の準備は整え後は明日に備えて寝ようとしたけど、どうしても寝付けない。いつもならすぐに眠れるのに。

とりあえず眠くなるまでゆらゆらと燃える焚き火をぼんやりと眺める。体が冷えないように寝るために用意した布にくるまる。


火を見ていると、彼のことを思い出してしまう。


彼と初めて出会った時や再会できたことも町での生活も今では思い出だ。

もうあの町には居られないし、彼はもういない。

彼は突然私の目の前からいなくなってしまった。別れはいつか訪れると分かっていた。だけどあんな唐突になるとは思わなかった。思いたくなかった。

彼との別れも思い出したせいか、久しぶりに寝るのが怖くなってしまった。もう眠れないならいっそこのまま起きていよう。暗闇は怖いけれど火が消えなければ耐えられる。


大丈夫。私なら耐えられる。前までは1人で頑張ってきたんだ。ならこれからだって大丈夫だ。

目を強く閉じて何度も何度も自分に言い聞かせる。


目を開けると、焚き火と人の足が見えた。

いつの間にと思ったけれど、なぜかそいつに警戒を抱かなかった。いつもならこんな至近距離で知らない人がいれば飛びのいて剣を手に取るのに。

誰なんだと思って顔を見るため私は顔を上げて、信じられないものを見た。


「久しぶり。」


なんで?なんでなんでなんで?

だって彼は、いなくなったんだ。怪物と相打ちになって死んだんだ。私は確かに彼の死体を見たんだ。体のあちこちが壊れててお腹には大きな穴が空いていた。

そして一度瞬きした後には何にもなくなってしまっていた。周りに飛び散っていた血ごと彼はいなくなってしまった。

全部私が見た幻かと思っていたけど、何日待っても彼は帰ってこなかった。だからリナさんに彼は死んだと伝えていた。その時のリナさんは「信じられない。」と言って泣いていた。

私だって信じられない。信じたくない。でも見てしまったんだ。彼の死体を確かにこの目で。


なのに、あなたはこうして生きて私の前にいる。


「アシ、バ?」


声があまり出せず、掠れたものだけどあなたの名前を口にする。


「座ってもいい?」


断る理由なんてどこにもない。何度も小さく頷くとアシバはあぐらをかいて私の正面に座る。

目の前にいる彼は五体満足だ。じゃあ、私が見た死体は、何?そもそも目の前にいる彼は本当に本物のアシバなの?幻覚とかじゃないよね?夢じゃないよね。


「僕死んだ事になってるんだって?まぁ人間だとあれくらいの怪我は死ぬから当然か。」

「生き、てるの?」

「もちろん。なんなら触ってみる?」


立ち上がり私の隣まで来るとしゃがみこみ、手を差し出してくれる。

恐る恐る彼の手に触れると確かな感触と冷たさを感じた。

彼は確かにここにいる。生きている。


「ぁ、あぁ。」

「ね。僕はちゃんと生きて、おっ?」


それが分かった途端、色んな感情が一気に込み上げて衝動のままに彼を抱きしめる。


「ナナ?」


アシバは私の名前を呼んでくれた。また、呼んでくれた。

もう2度と会えないと思っていた彼とまた会えた。嬉しいはずなのに、涙が止まらない。

アシバは私を押しのけることなくそこに居てくれた。


「ぁぁぁああっ。」


涙の止め方がわからないわたしは涙が枯れるまで泣き続けた。

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