冒険者は■色を見る。
「ナナはここから逃げて。」
アシバからそう言われ、言われた通り森の外に出てから少し時間がたった。
ホリーブ森林のあちこちで騒音が鳴り響いている。木が何本も空中に放り出され、森林のあちこちから煙が出ている。
私達はそれを少し離れたところで見ている。
見ているだけで、それ以上のことはできない。
「おい、一体何がどうなっている!」
「わかりません!何かが暴れているのは分かっているのですが、それが何なのかまでは。」
「火事の規模が大きくなる前に火を消すぞ!」
「ダメです!何度も森に入ろうとしてはいるんですが、いつのまにかここに戻ってきてしまいます!」
「ちくしょう、あそこで一体何が起きているんだ!」
音の原因は分かっている。
アシバと化け物が戦っている音だ。
だけど騎士団の人達には原因がわからないためああして騒いでいる。
そんなことより、アシバは大丈夫なのだろうか?
親玉と言っていたあの化け物と戦ってからだいぶ経つけど大きな怪我はしてないだろうか。心配だ。
「そこの君。」
誰かに声をかけられた。相手はセイロリーだ。
私に一体何の用だろうか。
「まずは自己紹介をさせてもらおう。私の名前はセイロリー・アンブロジオ。君の名前は何という?」
「…ナナといいます。」
どうしてこの人は私に話しかけてきたのだろうか。他にやれることは…無いかもしれないがわざわざ私と話すことはないのに。
「そうか。ナナ。単刀直入に聞こう。君はあれが何なのか分かっているんじゃないのかな」
何だ、ただ探りに来ただけか。
はっきりとしたことは私にもわからない。アシバが戦っている事しかわからない。それでもこいつにとっては有益な情報になるかもしれない。
「…申し訳ありません。私にはわかりません。」
だから話さない。
どうして私が彼の不利益になる事を言わなければいけないんだろう。
「そうか。こちらこそ、変な事を聞いてすまない。」
申し訳なさそうな表情と声音で言えばセイロリーはそれ以上聞いてこなかった。ただ、私を見る目で疑っているのがはっきりと伝わる。
そんな事よりもアシバの方だ。
戦闘が続いているから彼はまだ生きているとは思うけど、どういう状況なのかまるでわからない。森から聞こえる音は激しさが増していくばかりだ。
だけど、こうして見ている事しかできない。
騎士団の人達の話からこの森には入れないようになっているらしい。でも、それが良い。
もし入れたとしても私達ではあの怪物には太刀打ちできない。せいぜいあれの餌になるのが関の山だ。
分かっていても、もどかしいものだ。
“ズゥゥン’’
一際大きな音があたりに響いたと思えば、そこから音は一切なくなった。さっきまであんなに騒がしかったのに、今はひどく静かだ。
アシバが、死んだの?
それが頭に浮かんでいる頃には私は走り出していた。
「おい、まて!」
後ろから誰かに制止をかけられたけど、関係ない。
私じゃ行っても何の役も立たないけど、それでも彼のところに行きたい。彼命令を無視することになるけど、それでも!
騎士団の言っていた『森には入れない。』という言葉はもう覚えていない。それを気にする余裕はない。
私は森の奥深くまで入っていく。ろくな考えも持ち合わせないまま、奥へ奥へと走っていく。
◆◇◆◇◆◇◆
走っていたせいで息は上がっている。でも関係ない。
早く、早く彼の元に行きたい。
彼と怪物が暴れたせいで木々は折れている。根元からえぐれているものすらある。地面や倒れている木には焦げた後が残っている。跡をさわればまだ暖かい。彼はまだ近くにあるかもしれない。
辺りを草の根を探す勢いで必死に探しているとふと、何か違和感を感じた。違和感を感じた場所に近づいていくと、見つけた。
赤色を。
落ちている葉や土、近くにある折れた木に赤いものが付着している。一瞬頭の中で嫌な考えがよぎったけれど、まだそうと決まった訳ではないと自分に言い聞かせながらさらに近づいていく。
近づいて、匂いを感じた。とても嗅ぎ慣れた匂いだ。
血だ。
そうと分かった途端、視界が揺れ始めた。
最悪な事態を想像したせいで、体の震えが止まらず歯がガチガチとなっている。
血の跡はさらに奥へと続いている。それに合わせてか周りの被害跡が大きくなっている。
震える体を無理やり抑え、走り出す。血の跡を辿っていけば、いつか彼の元にたどり着ける。
きっと生きていると信じて走り続けた。
後ろ向きな事を考えられないように走って走って、ひたすら走って。
走って、見つけた。
「あ。」
大きな赤の中心に、アシバがいた。
目は閉じている。それだけなら眠っているように見えた。
だけど、両手はあらぬ方向に捻じ曲がっている。足の方は右足は腕同様捻じ曲がっているけれど、左足が膝から下がどこにもない。
そしてお腹には、ぽっかりと大きな穴が開いていた。
「あああああああああああああああああ!」
腹の底から、大きな声が出た。




