表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユーシャハシナナイ  作者: 日暮蛍
少女のお話。
13/23

冒険者は赤色を見る。

アシバと一緒に過ごして少し経つけど、その間彼が笑っている姿は見たことがない。泣いた顔も怒った顔も驚いた顔もだ。

いつも無表情で何を考えているのかまるでわからない。


だけど、今は表情を浮かべている。

だけど、それがどういう感情を表しているのかわからない。


彼は目を細めてこちらを見ている。

ただ、それだけだ。

たったそれだけの変化だけど何事も動じない彼が初めて見せてくれた表情だ。だけど無表情の時よりも何を考えているのかわからなくなってしまった。(アシバ)は今、一体何を考えているの?


「ナナ。」


名前を呼ばれた。

いつもならそれだけで心が温かくなるのに、名前を呼ばれた途端胸の奥が締め付けられる感覚になる。


「君は嘘つきなんだね。」

「えっ。」


(アシバ)の様子がいつもと違う。

なぜ、今そんなことを言うんだろう。

あの状況じゃ嘘をつくしかないじゃないか。


「だ、だってあの場合は仕方ないじゃない。アシバだってあの力のことを誰かに知られることは嫌だったんでしょ。」

「・・・・・。」


言い訳がましいけど、そう言わざるを得ない。


「本当は覚えてるんでしょ。」

「…何を?」

「あの生き物、見るのは初めてじゃないだろ。」


バレてる。

バレたバレたバレたバレたバレた!

一体いつから?最初から?それとも洞窟の時に?わからない。どうしてバレたのかわからない。


「あの夜、僕聞いたよね。本当に覚えてないの?って。」


彼が私に近づいてくる。一歩一歩、確実に。

わからない。彼が何を考えているのかわからない。


「あの時ナナは覚えてないって言ったけど、嘘をついてたんだね。」


彼が一歩、私との距離を縮めようとする。それと同時に私も一歩、後ろを歩き彼との距離をあける。だけどろくに周りを確認しなかったせいで後ろにあった木にぶつかってしまう。もうこれ以上後ろに行けない。


「ナナ。」


気づけばもう私と彼との距離は拳1つほどしかない。身長差があるせいで彼は私を見上げているけどそんな事は気にならないほどの圧を感じる。

思わず彼から目を背けていた。


「こっちを見て。」


だけど、そんなこと(アシバ)は許してくれない。

言われるがままに彼の目を見る。

髪に負けないくらい綺麗な赤い目。こんな時じゃなければ見惚れていたけれど、今は見たくない。心の奥底まで見られているようで余計に胸が締め付けられる感覚に陥ってしまう。


「初めて見たあれは、どうやって死んだの?」


それはあなたがよく知っているはずだ。

だけど、(アシバ)はあえて私に聞いてくる。私がどこまで知っているのか知るために。

これ以上嘘はつけない。言っても(アシバ)ならすぐに見破ってしまう。嘘だとわかってしまえば何を言われるかわからない。何をされるかわからない。


「…燃えて、死んだ。」

「どうして燃えたかわかる?」

「あなたが、やったから?」


2度目の質問の答えは何の確証もない、私がそう思っているだけだからつい疑問形で返してしまう。

何か言われると思っていたけど今度はすぐに反応は返してくれない。沈黙が痛い。


しばらく私の目を見ていた(アシバ)はやがて目をそらし、私から2、3歩ほど離れたところまで後ろに下がり、口を開いた。


「そうだよ。あの炎は僕がやった。」


そう言って(アシバ)は左手を私に向かって差し出す。何だろうと思い、じぃっと見てると手のひらの上に親指の爪ほどの小さな火が灯る。

火はだんだんと大きくなり、やがて炎となる。

拳ほどの大きさになった炎を(アシバ)は躊躇なく握り潰した。それによって炎はあっけなく消えてしまう。


「君やあいつらの傷を直したのも僕のせいだ。」


私も?


「あの時ナナの身体が結構損傷してたから直しておいたんだ。」


あの時?あの時、あの時っていつ?

…そういえば、アリの化け物に攻撃された時の傷がなかった。あれほどの痛みなのだからアザとか紫斑ができているはずなのに、それが全くなかった。

当時は訳がわからなかったけど、あれはアシバのおかげだったのか。


「…別にいいでしょ。もう取り繕う意味なんてない。ナナは知っていた。知ってて知らないって嘘をついたんだ。」


今のは私にではなく、ここにはいない誰かに話しているように見える。

誰かって、誰?

(アシバ)は今、何をしているの?


「…少し、黙ってて。」

「えっ?」


さっきまで少し距離があったアシバが私のすぐ目の前にいる。彼から目を離してはいなかった。なのに、気がついたらもう目の前にいる。

突然のことで体がうまく動かず、後ろの木に背中を預けるように寄りかかってしまう。


「あぁ、ナナの事じゃないよ。」


(アシバ)はそう言って私のお腹あたりに手をつける。

防具をつけているため彼の体温は伝わらないはずなのに、触れられているところが熱い気がする。


「何であの騎士にあんな嘘をついたの?」


お腹は強く押されていないからそこまで圧迫感はないのに、呼吸がしづらい。暑くないのに汗が流れている。拘束されているわけではないのに体がうまく動かせない。


怖い。

私が知っている彼とは全く違う。

怖い。

それでも、これだけは言わなきゃ。


「…ごめんなさい。」


ようやく口に出せた言葉は口の中が乾いているせいかかすれていた。


「えっ?」

「あの時は、言わないほうがいいと思ってた。知らないふりをしていた方があなたのためになると思ってた。嘘をついてごめんなさい!」


本当は頭を深く下げたいけど、この体勢だ。少し下を向くくらいしかできない。


「・・・・・。」


アシバは返事を返してくれない。

まさか他にも彼の怒りを触れてしまうことをしてしまったの?

どうしようさっぱりわからない。

いや、とにかく思い出せ。私にとっては些細なことでも(アシバ)にとっては侮辱されたと思っているかもしれないんだから。


「ちょ、ちょっと待ってて。今頑張って思い出すから!」

「怒ってないよ。」


黙ったままではいけないと思い弁明の言葉を言いながら記憶を探ろうとしていたけど、アシバの言葉で思考が一瞬停止した。

その間に彼はお腹を抑えていた手を離してくれた。

恐る恐る(アシバ)の方を見ると、そこには無表情で何を考えているのかわからない表情をしているアシバがいる。私が知っている(アシバ)の姿だ。


「えっ?」

「僕のために黙っててくれたんだからお礼は言うけど怒るわけないだろ。」

「え、でも。」

「とにかく、僕は怒ってないよ。」


強引に話を切り上げられた。


でも良かった。嘘をついて(アシバ)に嫌な思いをさせていたと思っていたから、本当に良かった。

安堵のあまり、足の力が抜けてその場に座り込んでしまう。


「あー良かった。」


結局あの表情に込められた感情が何なのかわからないけど、いつもの彼に戻ってくれたからこれ以上詮索するのは止めよう。

またあんな顔で迫られたら耐えられない。


「大丈夫?」


手を差し伸べられた。

今度は炎は灯されていない。ただ、私を起こしてくれるために差し伸ばしてくれたものだ。

それに甘えて彼の手をとり、立ち上がる。

立ち上がって、ある事を思い出した。


「ねぇアシバ。そういえば用事があるって言ってなかった?」

「それは大丈夫。そろそろ来る頃だから。」


足元に違和感を感じた。

地面が振動している。それはだんだんと大きくなってくる。

この時点で嫌な予感しかしない。


「来るって、何が?」

「親玉。」


少し離れた場所の地面から何かが吹き出した。土煙のせいではっきりとした姿は見えないけど、何か大きいものが見える。


「本当は洞窟にいる時に決着つけたかったけどけっこうすばしっこくて仕留め損ねた。」


土煙は晴れていき、地面から出てきた正体が見えてくる。


「あそこには人が来ちゃったし、しょうがないからここまで誘導したんだ。」


それを見て私は、絶句した。


それは黒い筋肉の塊だ。

見た目はあのアリの化け物に似ているけど身長は化け物4匹分ほどあり、それに比例して体の肉付きはよく腕の太さなんかは私の腰ほど、いやそれ以上ありそうだ。それが4本もある。

筋肉隆々のその姿を見た私は不思議なほど冷静だった。恐怖を感じていないわけではない。だけど、あれよりも怖いもの(アシバの目)を見たせいで落ち着いていられるのかもしれない。


もしくは


「わぁ。」


ただ、現実逃避しているだけかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ