冒険者は見てしまう。
「大丈夫?」
「だいじょうっぶ。」
「大丈夫じゃないね。」
地下から戻ってこれた私達だったが、1つ問題があった。
急な速度で上に飛んだせいで私の具合が悪くなってしまった。アシバは元気そうだ。
こんなに小さな体のはずなのに何故あんな事が出来るんだろうと一瞬思ったけど、きっと答えは出ないから考えるのは止めることにした。
「ごめんね。なるべく遅くしたつもりだったんだ。」
あれよりもさらに加速できるの?
彼は一体何者なんだろう。どうしても疑問に思ってしまう。
だけど聞くのはどうしても嫌だ。聞いて彼が嫌な思いをしてしまうかもしれないからなるべく彼の事を詮索しないよう決めている。
「ナナ。先に帰って。」
「…アシバは?」
「片付けが終わったら僕も帰るよ。」
気分がだいぶ良くなった頃に、彼から帰れと言われたけど、彼はまだここに残るつもりだ。
あの化け物がまだ残っているのだろうか?
「〜〜〜〜。」
「〜〜〜!」
「〜〜〜〜〜。」
遠くから、誰かの話し声が聞こえる。そしてたくさんの足音も。この音は鎧を着た者の足音だ。だんだんこっちに近づいてきている。
一瞬黄銅の爪が仲間を連れてここにやってきたかと思ったけど、思い返せばあいつらの服装はオルトドール以外は動き易さを重視した格好をしていたから重たい鎧などは着ないと思う。
「ちょうどいいや。ナナ、あの人達と帰りなよ。」
「いやいや、味方とは限らないよ。」
「じゃあ味方だったら一緒に帰って。」
どうやらアシバもこっちに来る存在のことは気づいているようだ。いや、私が気づけたんだから彼が気づかないはずがない。
いや、それよりもだ。
彼が執拗に私を帰らせようとしている。確かに私は戦力的に彼のお荷物だ。そこはちゃんとわかっている。わかってはいても少し傷つく。
でも、ここは彼の言う通りにしよう。
変に足を突っ込んで死んでしまうのは嫌だし、さらに彼に迷惑をかけるのはもっと嫌だ。
しばらくして、私達が通ってきた穴から3人ここに入ってきた。3人とも立派な鎧を着た兵士だ。そして鎧に刻印されているあの紋章には見覚えがある。
カルツォーネ騎士団のものだ。
「! これは。」
「このことをセイロリー様に報告してくる。」
「わかった。」
兵士達は私達と私達の後ろにある巨大な地面の穴。そしてアシバがアリの化け物との戦闘の後を見て驚き、そのうちの1人は入口前に待機しているであろう上司と仲間にこのことを伝えるために小走りで洞窟から出ていく。
「おいお前達。見たところ冒険者のようだが、ここで何があったかわかるか?」
「えーと。」
絶対に彼の力のことは知られてはいけない。
魔法なんて非現実的な力が存在しているなんて知られてしまえば絶対にロクなことにならない。
それにどういうわけが彼には人の怪我を治してしまう力も持っている。もしあれが病気も治せてしまえたら大変だ。
もし力のことがバレてしまえば彼は国の命令で拘束され、謎を徹底的に解き明かしたい変な研究者に非道な事をされてしまう。
さて、なんて言い訳をしよう。
…そうだ!
「さぁ。私達は暴牛について調べていたら偶然ここの入り口を見つけてしまったんです。興味本位で中に入ったらすでにこんな状況でした。そうだよね、アシバ。」
「…うん。」
よかった。彼が話を合わせてくれている。
まさか洞窟内をこんな惨状にしたのがアシバのような少年1人だとは思わないはずだ。
そしてアリの化け物は全部炎で消し炭になり原型はない。
まぁ化け物を燃やしたせいで洞窟の中は焦げ臭い匂いで充満しているけど、何がどう燃えたかまではわからない。
これだけじゃここで何が起こったか知る由もない。
「暴牛の?」
「はい。依頼で以前町に襲来してきた暴牛の大群がなぜああなったのか調べているんです。」
「あぁ。そういえばそんな話があったな。」
よし、これ以上追求される前にこのまま何も見なかったように振舞いながら立ち去ろう。
「キッス。彼等は?」
「セイロリー様。どうやらたまたまここにやってきた冒険者のようです。」
今日は本当に厄介ごとに遭遇する。
まさかカルツォーネ騎士団の団長であるセイロリーをこんなに間近で見られるとは。セイロリーは国民に慕われている人気者だ。そんな彼の近くにいるなんて昨日までは思いもしなかったな。もしここにロロナがいたら顔を赤らめて気絶するかもしれない。
周りを見れば兵士の数が増えている。
どうやらさっき出て行った兵士の報告を聞いて外で待機していたセイロリーと他の兵士がここに入ってきたようだ。
「冒険者?」
「はい。仕事をしてたまたまここにやって来たそうです。」
「…たまたま、か。」
どうやらセイロリーは私達を少し怪しんでいるようだ。だけどここにある情報だけで私達を拘束するわけにはいかないはずだ。なら、さっさと立ち去るべきだ。
「あのー。私達仕事があるのでそろそろ失礼してもいいでしょうか?」
セイロリーではなくさっきまで話していたキッスと呼ばれた兵士にセイロリーにも聞こえるくらいの小声で確認をとる。
セイロリーは貴族だ。
平民である私が彼に気安く話しかけて後で何を言われるかわかったもんじゃない。まぁキッスと呼ばれたこの人も貴族かもしれないけど、私が知っている限りではセイロリーの家よりも位の高い貴族の家はなかったはずだ。
だから、セイロリーよりも身分が下の彼に声をかけた。
「セイロリー様。如何いたしますか?」
「むぅ。」
こいつ、勘がいいかもしれない。
無意識に私達を関係者だと感じているようだ。
まぁ何を聞かれても嘘をつけばいいだけだ。真実なんてわかるはずがない。
「…。引き止めてすまない。仕事に戻ってくれ。」
「はい。失礼いたします。」
よし!セイロリーはまだこっちを怪しんではいるけど確証がなければ必要以上に拘束することは出来ない。
私としてはさっさとこんなところは出たいけど、アシバはどうなんだろう。
彼はまだここに用事があるはずだ。
出口へ向かいながら後ろを見ると彼はついてきている。
ひとまず外に出て今後どうするか聞いてみよう。
◆◇◆◇◆◇◆
「ここまでくればいいかな。」
外に出て少し歩いたところで立ち止まる。あたりには人の気配がないのは確認済みだ。これなら他の誰かに話を聞かれることはない。
「ねぇアシバ。洞窟に用事があるみたいだけど、どうするの?あそこには騎士団の人達がいるからすぐには戻れないかもしれないよ。」
なぜ騎士団がこんなところにいるのかわからない。
私達と同じように暴牛のことを調べているのか。それとも別の何か?
聞くのは簡単だけど情報を得られるのは難しい。そんなことを聞いてさらに怪しまれるのもごめんだ。
「…アシバ?」
一向に彼から返事が返ってこない。
聞こえなかったのかと思い彼の顔を見た。
見てしまった。
彼の表情の変化を、初めて見てしまった。




