第105話 懐かしい雰囲気の理由が分からない
僕は王都内を走っていた。アービスを探すためだ。強運と分かれた後、あの図書館に入り口から入るのは危険だと分かっていたため、どこか入れる場所が無いかと探していた所、裏口で縛られているアモンを見つけ、事情を聴くとアービスは詩人を追ってどこかに消えたのだという。そこまで深追いするはずないと思い、僕は別の事に巻き込まれたのではないかとすぐに予感した。僕は躍起になって探し始めた。
「ここにも居ないのか……」
ここは僕らが生まれ育った村だ。僕にとってはアービスが居た以外は無価値な場所だ。だが、アービスはここを気に入っている。なぜだろう。もう僕は居ないのに。
「アービス? 帰ってないわ」
家で家事をしていたアービスのお母さんが隠している様子もない。本当に居ないのだ。後はあそこだが、あそこに居たら僕はどうかしてしまうかもしれない。
僕はこの王国の神様的偶像が並ぶ家に来ていた。ここにはあの泥棒猫のような小動物が居る。殺すのは簡単だが、アービスが悲しんで何をするか分からないから許しているに過ぎない。正直、僕が居れば良いだろうに。彼は欲張りだから。
「ナチ、アービスは来ているかい?」
扉を二、三度叩いただけで出てきたナチは僕を見て怯えていた。キョロキョロと視線を泳がせているのはアービスが居るかどうか確認しているからか? ならばこの家には居ないと言う事か。
「残念だね、ナチ、今日は君を守ってくれる人は居ないよ。元から居ないんだけどさ」
「そんな酷いことを言わないでください……」
鬱陶しいやつだ。そうやって落ち込めばアービスが助けに来てくれると本気で信じているのだろうか。いや、アービスなら助けるから信じているのか。忌々しい。
「……ねえ、居ないと思うけどアービス来てる?」
「来てません……」
そう言うナチはずっと地面に視線を合わせ、こちらを見上げようともしない。その仕草はまるで小動物だ。小動物なんか嫌いだ。僕から見れば小さい愛玩動物などアービスを奪う泥棒猫と大差ない。
「だよね。ナチみたいなのと居るわけないもんね、邪魔したよ」
嫌味を言った。イライラするのだ。うじうじしているナチが。僕は今、どんな顔をしているのだろうか。笑っている……わけでもなさそうだ。
考えるだけ無駄か。もういい。他の村を探しに行こう。
「……」
僕が踵を返して、村から出ようとするのを黙り込んで見送るナチ。何かあるなら言い返せば良いのに。ただ涙目でこちらを睨んでいるのか? いや、違うな。怯えているのか。
ふふ、そんなに僕が嫌ならアービスから離れればいいのに。
僕はナチの家を後にし、別の村へと歩き出した。
――――
「先輩? せーんぱい! 場違い!」
俺は何時間ここに居たのだろうか。白い椅子に木製のテーブル。俺を夕日から隠すように上から影を落とすパラソル。どうやら寝ていたらしい。気づけば、目の前に右の腰に手を当て、困ったような表情でこちらを見つめているクロエちゃんが居た。相変わらず酷い物言いだ。だが、最初、先輩先輩と連呼されていたのは気分が良かったな。
「誰が場違いだ……」
「場違いですよ、こんな氷菓子屋に一人四人席占領して座る男性がぽつんとしてるのは」
「別にいいだろ」
「まぁ、良いですけど」
と言ってクロエちゃんは四人席の俺の対面に座った。他の人を待たせているわけではないのか。てっきりクライシスさんと来ているのかと思ったけど、そしたら一緒に起こしに来るか。
「どうしたの? クロエちゃん? 一人で来たの? そういえばクライシスさんの勇者借家に引っ越したとか……」
そうツッコんだら、クロエちゃんはみるみるうちに不機嫌になっていってしまった。どうやら地雷を踏んでしまったらしい。
「悪いですか? 家に居ても気まずいんですよ」
「なんで? またクライシスさんと喧嘩?」
「違います……兄の隣にべったりくっついている女が居るんですよ、気まずくて仕方ありません」
隣の女? クライシスさんもついに結婚でもするのだろうか。確かにカップルと一緒に住むのは確かにきまずそうだ。
「彼女さんが出来たの?」
「知りません、女の方はそのつもりなんじゃないですか?」
なんかすごいつっけんどんな言い方だな。まさか、クライシスさんが選ぶ女性に限ってそんなことはないだろうが、何か嫌味などを言われるのだろうか。
「なんか嫌がらせとかされたの?」
「逆です。気を遣われているのか。優しくされてばっかりで気まずいんです。後、兄さんは無自覚ですが、彼女と絡んでいるとイチャイチャするし」
本気でうんざりしたような顔でそう呟くクロエちゃんに俺は少し微笑んだ。羨ましい悩みだ。幸せそうなお兄ちゃんを見守ってあげたい気持ちとお兄ちゃん大好きな気持ちがぶつかっているのだろう。
「ああ、獲られたみたいで嫌なのか」
「そういうデリカシーの無いことばっかり言うの止めてください」
「じゃあ、嫉妬で狂いそう?」
「私、あなたの彼女さんとは違うんですけど」
「彼女? 俺に彼女なんて居ないけど」
「え? 勇者様は?」
「幼馴染なだけだよ」
「普段からイチャイチャしてるのに……」
「甘やかしてるだけだよ」
「それをイチャイチャって言うんだけど……」
俺はクロエちゃんの言葉をいまいち飲みこめずに出てきたアニスを思い浮かべた。そういえば俺は何をしていたんだっけ。ペロパリを連れ去られてパラマイアを逃がして。パラマイアにお前のせいと責められ、傷ついて……なんで出会って間もない男に責められて傷ついたんだろうか。でも俺は彼と同じ雰囲気というか懐かしい感じを知っている。そのせいなんだろうか。俺はテーブルに置いてあるグラスを手に取り、上に乗っているイチゴの汁が乗っている氷を口に入れた。
俺、こんなの頼んだっけ。
「ちょっと! それ私のなんですけど!!」
「気にしないでくれ、間接キスくらい気にしないよ」
「私が気にするのよ! バカ!」
クロエちゃんを怒らせてしまったようだが、俺は詫びの意味で好きな氷菓子を三つも買ってあげることによって事なきを得た。




