第104話 俺のせいでどうなるっていうんだ
入ってきたガリレスさんが倒れてしまった。何しに来たんだ。あの人。やはり、台座の上以外は危険か。シャーロットさんは未だにあの木人形に手間取っていた。何しろ、あの木人形は壊れても回復し、襲ってくるからだ。まずいな。二階から飛び降りて、あの台座に着地できるか? ギリギリな気がする。でもここで立ち往生しているわけにもいかないし。
「きゃあ?!」
「アモンさん!?」
アモンさんの叫び声を聞き、再度下をよく見ると、いつの間にか、ペロパリが縄で捕縛されているアモンさんを抱えていた。アモンさんは詠唱が出来ないように口に縄を噛まされていた。ペロパリはそのまま台座の裏に逃げていき、俺も目で追えなくなってしまった。裏口から出る気か!?
「しまった!? アモン!」
シャーロットさんも気づき、追いかけようとしたが木人形がそれを邪魔する。俺はそれを見て反射的に走り出した。確か、階段を降りれば裏口近くまでいけるはずだ。
「ペロパリ!! アモンさんを離せ!」
案の定、真っ直ぐ裏口に行こうとしたペロパリと相交的に鉢合わせになった。一瞬立ち止まるペロパリ。 どうやら階段はセーフのようで気を失いそうな感覚はない。階段を降りないまま片付けたいところだが、遠距離魔法を撃つタイムロスで逃げられてしまう。
「くそっ! 邪魔をするな!」
俺の前を強行して突っ切ろうとしたペロパリ。俺は咄嗟に納刀袋から刀を出すと鞘を左手に握り、右手で柄を握り、一気に抜くがペロパリには届かないと判断し、俺はペロパリから目を離し、真っ正面に視線を向けた。
そして、俺の真っ正面に見える壁にペロパリの影が入った瞬間――。
「今だぁ!」
俺は刀を両手で頭の上に刀身がくるよう構え、階段から大きく飛翔した。
「うおおおおおお!!!」
「なんぃい!?」
ペロパリは間抜けな声を出しながらアモンさんを背後に放り投げると自身の頭の上に細い腕を交差させ、身を守ろうとした。そんなペロパリに俺は躊躇なく、ペロパリが交差していた腕ごと斬り裂いた。
血が目に入らないように目を瞑っておくか。
「あがぁあ?!」
だが、飛んできたのは血ではなく、鈍い音とペロパリの苦痛の叫びだった。
「あり?!」
目を開けてみるとペロパリの腕が赤黒くなっており、背後の壁に背中を預けずるずると地面に崩れ去っていた。ペロパリは恨めしそうにこちらを見だけで動こうとしない。身体が痺れているのだろうか。
「ああ!」
そんなペロパリを見て理解した俺はペロパリから目を離し、刀の全体を見て、内心焦りまくった。つい夢中で攻撃したため、刀身ではなく刃が無い部分で攻撃してしまったのだ。
どこか欠けたりしてないだろうな!? 師匠から貰った大切な物だというのに! だが、俺の心配とはうらはらに特にどこも壊れていないことが確認できたため、つい、安堵の息を漏らした。
「壊れてなくてよかったぁ……まぁ、間違いとは言え、命を奪わずに済んで良かったよ。お前がしたことは許せな――――あれ?」
だが、その壁からペロパリは消えており、アモンさんが縛られながら顎で裏口の方を指していた。見ると裏口は開いており、刀を心配するあまり、確認している間に逃げられてしまったようだ。
「あの野郎!」
慌てて裏口を出て、辺りを見渡すが誰も居ない。あの怪我なら遠くは行っていないはず。俺はさらに大通りとは逆の細い道を走った。大通りは騎士団も居る。行くなら反対方向だ。
「どこに行きやがった!?」
細い道を走り、ところどころにある分かれ道を勘で進み、ペロパリを探すがやはり居ない。
もう逃げられてしまったのか。あの怪我でずいぶんと逃げ足の速い奴だ。俺は自分の失態を恨みながら引き返そうと振り向いた。
「さっきの技はお見事だった」
すると背後に居たのか。今は現れたのか。パラマイアが立っていた。だが、先ほどと違うのは脇にペロパリを抱えていたのだ。ペロパリは意識を昏倒させているようだ。
「ペロパリを渡してください」
「それは聞けない頼みですね。彼は私の用事でもあります。回収物二つ目です」
「あなたは一体なんなんだ!」
俺は苛立つようにそう怒鳴りつけた。だが、パラマイアも笑みを止め、俺に指を指し、声を震わした。
「だからもうご存知のはずだ。哀れな男ですよ。哀れ! 生に見放されたわけでもないのにその心は決して自由ではない! ああ、なんとも可哀想な私たち。だが、しかし、どうせ君たちもそうなる。遅かれ早かれ。だが、それよりも悪いことが起こる。それは君のせいだ。アービス君」
そう強く言い放つ男。俺は自身が責められたことになぜかショックを受け、パラマイアを直視できなくなった。
「俺のせいだと!?」
「ああ、君が来なければ生まれてこなければ……いや、君に怒るのもまたお門違いなのかもしれない。しょせん、あの男の悪戯だったのだろう」
「どういう意味なんだよ! 意味が分からない!」
「だから言っているだろ? 真実を見ろってさ……あの可愛い勇者様によろしく。ああ、そうだ、子どもを残すことくらいは出来るんじゃないかな? あはは! ご存知かな? 結ばれないけど形に残すだけでも違うもんですよ!」
「パラマイア!」
俺は刀を抜き、斬り掛かる。だが、斬ったはずのパラマイアは煙のように消えてしまった。俺は刀を揺らしながら目を右往左往させる。
俺のせい? 何がだ……? 混乱した俺の足は図書館ではなく、細い道の先に向いてふらふらと刀を抜き身で持ちながら歩き出してしまった。




