第103話 使い走りも楽じゃない
非常に面倒な任務だ。というかこれでただ働きってさすがにボイコット案件だぞ。しかも普通に見つかったせいで背中は痛いわ。あのおっかねえ勇者にも会っちまうしで、まったく運がねえ。あの時、忍び込まなきゃ良かったぜ。あれも結局後々脅される要素を作っただけで得なんか無かったしよ。依頼料も入れなかったから半分だったし……。
「哀れ哀れってうるせえやつだなぁ! お前は哀れついでにここで倒されとけよ! 勇者の手で!」
ふふん。こっちには勇者が居るんだ。魔王の仲間じゃ勝てるわけがねえ。
俺は期待を混じらせた目で勇者を見るが勇者はこちらを振り返り、ため息を吐いた。いや、吐かれた。
「君に命令されたみたいでやる気が少し無くなったんだが」
「んなっ!? そんな事言うなよ! さっきまでやる気満々だったろ?」
「横からの言葉というものは時として人のやる気を削ぐと知る事だな。強運」
なんというめんどくさいやつだ! 俺があんなのに勝てる可能性なんか微塵もねえぞ!
不意にあの男が気になり、視線を上げれば男はベランダの手すりに寄り掛かり、こちらを見ながら手を振った。
「君たちの会話を聞くのも面白いんだけどそろそろ私は行くよ、楽しかったよ」
「あ、おいこら待ちやがれ!」
男はそう笑いながら言うと、煙のように消滅した。俺は制止の声を形だけでも上げるが、正直、消えてくれて助かった。勇者もそれを見て諦めが付いたらしく、剣を鞘に納め、図書館の入り口の方に歩き出す。
「強運」
「……なんだよ?」
図書館に行くと思われた勇者が振り向いて俺に問いかける。
なんかめんどくさい事聞かれそうだな。逃げたら後が怖いし、一応、聞いてやるか。
「隻腕に頼まれたんだな?」
「ああ、頼まれたというより脅されたが正しいな。ちょいと借りがあってよ」
おどけた風に言ってみるがウケは狙えなかったようだ。この勇者、本当に笑わねえな。
「なぜ隻腕はここにあいつが来ると知っていた?」
「さぁね、ただこの行事に参加しろって事だけしか聞いてねえ。でも俺、ああいうの興味ねえから二階で居るだけの形を取ってたらよ、急に戦闘が始まってびっくりしたぜ」
「そうか。分かった」
「おいおい、隻腕が誰か聞かないのか?」
「ああ、知り合いだ」
んだよ。また結局、勇者絡みで巻き込まれただけかよ。俺、勇者パーティーじゃねえんだぞ。なんでこう、関わらねえといけねえんだか。まぁ、金は貰えるから良いんだけどよ。この前の人身売買の件でも一応。クライシスを通して金貰えたし。
「はぁ……帰るか……」
頭の中で愚痴っても仕方ねえか。帰ろ帰ろ。図書館の中での件はなおさら俺に関係ないし。お先に失礼って感じだ。
そんな風に知らぬ存ぜぬで通りを抜けて図書館から離れようと歩いていたその時――――。
「うおっ!?」
どこからとんできたか分からない矢が俺の足元に突き刺さった。石畳みの地面を砕いたその矢じりに恐怖を覚えたと同時に何かが巻き付けられているのが分かり、恐る恐るそいつを矢から抜き去り、開く。それは紙で、文字が書いていた。
『去るな。行け。』
「これは図書館に行けということか?」
周囲を見渡して撃ってきたやつを確認しようとしたが弓を持った奴やそれらしき人物は誰も居ない。まぁ、この用件だと撃ってきたのはあのロン毛野郎。人を使い走りみたいに扱いやがって。
この中、入ったって出来る事なんかあるわけね――――。
「うおっ!? ひっ!? がっ!?」
なんか、立て続けに俺の足元へ三本も飛んできたんだけどどんな荒業だよ。ふざけんな。しかもご丁寧に三つ全部に紙が巻かれてるし。
「どれどれ……」
『天は』
『見て』
『るぞ』
「紙の無駄すぎるだろ!?」
こんな一文書くだけで何三枚も使ってんだ。しかも天は見てるだぁ? 地獄の底から見上げてる悪魔の間違いだろ。
「もう分かったよ……行けば良いんだろうが、行けば」
どこに居るかも分からない狙撃手に向かって叫ぶように叫ぶと、狭い路地をのぞき込んでひそひそ話を始める主婦が現れてしまった。
俺は黙って、大通りに出ると図書館の入り口に立った。すでに色んな人がひしめき合う状況になっており、騎士まで図書館を囲んでいた。勇者はすでに中か? 中は……人が倒れてやがる。
ここからでも見えるのは壇上でシャロちゃんがアモンを守って戦闘中か。ん? ペロパリの野郎が居ね――うおっ!? 誰だ!? 肩を掴んだのは!
「今度はなんだよ!?」
「ガリレス何をしている」
ここを任せているのは騎士団、最上級魔術士のツキュウか。まぁ、お似合いの任務だな。俺とこいつは昔からの知り合いではあるが、仲が良いわけでは無い。やんちゃしていた時にお世話になっただけだ。
「何ってマブダチたちが困ってるから助けに来たんだよ」
「ほう、お前にしては素晴らしい行いだな? 火事場泥棒かと思ったよ?」
「いつまで俺をあの底辺時代のままだと錯覚してんだ、兜女」
「昔の貴様が酷すぎたんだ」
「昔も今も変わらない。人は変わらないってか?」
「そうじゃないが……分かった、すまかったよ、だが、お前を恨んでいる人間も多いんだからな。気を付けろ」
「そんな奴らはな、堂々と来るわけねえんだ、気を付けれるかよ……それより中をどうにかしろよ」
「今、倒れている原因を……あ、ガリレス! 待て!」
あばよ。ツキュウ。今、お喋りしてる暇ねえんだよ。下手したら俺の頭が弓矢で貫かれるかもしれねんだからな。
俺はツキュウを振り切り、館内に入っていた。だが、不意に頭が揺れ、俺は転倒してしまった。
「あ? ああ……?」
だんだんと俺の視界が暗くなっていき、意識が……消え……た。




