第102話 彼を惑わす奴は死ね
アービスにちょっかいを出すな。僕のアービスに触れるな。話しかけるな。やめろ。意識から消えろ。僕のだぞ。
「追いかけっこが楽しくてつい、走りすぎてしまいましたね」
図書館を出た人通りの少ない場所で立ち止まるお邪魔虫。
「観念したか、辺境地主の分際で僕のアービスにちょっかいを出すとは良い度胸だ」
「手なんか出さないよ、ちょいと真実を語ろうとしただけさ」
「真実?」
「ああ、君と彼は結ばれな――」
イライラして、頭で考えるより手が出てしまった。だが、僕の剣はこの胡散臭い男には当たらない。それにもイライラする。僕は予測をし、振り向けばやはり彼は僕の背後を取ってニヤニヤと笑っていた。
「僕とアービスは結ばれる運命だ」
「妄想ごっこも卒業した方が良いと思うけどな、まぁ、そこら辺は自由だ」
「妄想? お前を殺せば妄想じゃなくなる、余計な事を言うお前が消えればな!! 百本木杭!」
手を上に上げ、唱えれば百本の杭がこの周辺に散らばって地面に突き刺さっていく。僕の背後にももちろん行き届き、ただ僕の居る場所には振らない仕様だ。
「うわ、片づけが大変そうだね」
「そんなっ!?」
僕の考えを上回ってきたこの男。この男、空中に浮いており、僕の頭頂で百本の杭を見て要らぬ心配をしていた。この男に対する憎悪とイライラが募っていく。僕が上を見上げると彼は薄く笑い、僕の目の前に降り立った。
「悪いね、ここで退場する気は無いんだ、だが、君を退場させる気もない、僕はただの偵察と欲しいものを回収しに来ただけ、まぁ、ここへは遊びに来ている感覚なんだよ」
「お前、何者だ」
「私かい? 私は魔王と呼ばれる傀儡種族に属している哀れな男さ」
「魔王軍の者か」
「魔王軍ではないな。それに属しているのは自分が哀れなで虚無を生きるだけと悟れない可哀想な女の子だけさ、僕らはそんなものには属さない」
「魔王の仲間なのは間違いないということだな、アービスが君の事で不安になっていたり、無駄に意識しているのにイライラして葬ってやろうかと思ったがちゃんとした理由が出来てやりやすくなったよ」
僕のその言葉にこの辺境の地主は首を振って、残念そうな表情でため息を吐く。死ね。僕の前から消えろ。僕とアービスの前から消えろ。
「光雨」
光の柱が生まれる。魔王の手先なら効くはずだ。僕はすでに血眼でこの男を見ていたに違いない。天から降り注ぐ光の柱は男を包もうとしたが、男は僕が狙った場所から消えて、別の場所に居た。だが、光の柱は狙った獲物を追尾する。光の柱は石畳を破壊しながら、男を方へ素早く移動していく。男は軽快な動きでまるで魅せつけるようにバク中や横回転をしながら避けていく。
「勇者様は短気だね」
「黙れ。光雨」
さらにもう一本。光の柱が二本、男を追尾し、移動する。男はそれでも避けていき、決して壁側にいかないため、追い込めない。
「魔王の仲間は伊達じゃないか」
「お褒めの言葉をありがとうございます」
「腹が立つ男だ」
「それもお褒めの言葉かな? よっと!」
「くっ!」
光の柱を消し飛ばした。あいつが乗った場所は図書館のベランダだ。ここを壊せばアービスもただじゃすまない。僕は恨めし気持ちで男を見つめるが男は微笑むばかりだ。
「おや、君は……」
すると男は僕ではなく、ベランダの隅を見つめ、屈んだ。誰か居るのか? 仲間か? 誰でも良い。全員倒す。倒してアービスのそばに居たい。
「がぁあ!?」
そんな事を考えていた僕の目の前に見覚えのある男が降ってきた。なんでこいつが……。いや、盗み見でもしたいたのだろうな。僕は一気に目の前で背中を打ってもだえる男から興味を無くした。そして、僕が上を見れば男は満足そうに手を叩いていた。あいつが落としたのか。だが、まぁ、こいつがどうなろうが知った事ではない。
「おいこら! 大丈夫か? くらいの言葉はかけろよ!」
地面から避難の声が上がる。相変わらずうるさい男だ。
「盗み見をしていたお前を心配する義理は無いぞ、強運」
「お前があんな場所に誘導しなきゃバレなかったのによ、運が悪いぜ」
「ふん、貴様を助ける義理は無いが、目の前に居られてもうざいだけだ、さっさと消えろ」
「相変わらず手厳しい! だが……俺もあいつに用があるんでね」
強運は普段のおちゃらけた様子を隠し、男を見上げた。アービスに比べれば一切取るに足らない男だが、覚悟があるなら視界に映るのは許してやろう。
「君、誰? 私に用があるの?」
「ああ、まぁ、俺じゃなくて俺を脅迫してこんな任務を任せたやつだがな」
「ほほう、自分から来ないとは。そんな腰抜け。知り合いに居たかな」
バカにするような態度で腕を組み、あからさまに思い出す気の無い態度で考え込む男。だが、強運は文句を言わずに単語を発した。
「隻腕」
その単語を聞いた男は固まり、腕を組むのを止め、だらりと腕を垂らしながら目に力を入れる。
「生きていたか……隠れて過ごしていれば良いものを。もう居ないのにさぁ、哀れだ、俺たちも哀れだがその男もいつまでも哀れだ」
悲しそうなその態度に普段なら何か感づくかもしれないが、今はこいつを倒すのが最優先だ。さっさと存在を抹消したいランキング堂々の三位に入るこいつを消したい。アービスを惑わすこいつを消したいとそれしか考えれなかった。




