第101話 真実を見ろ
アモンさんの朗読はあらすじを終え、本編に入りかけていた。すると俺は観客にある人が居る事に気づいた。
「あれは……」
「ん? どうした? アービス?」
「パラマイアさんが居る」
「あの胡散臭い男か」
俺の言葉を聞いてアニスもパラマイアさんの方に目を向ける。昨日よりもラフな格好で白いワイシャツと黒いズボンを履いており、クロスハットも被っておらず、黒く綺麗な癖のある毛が目立っていた。
「……本当に君は彼にご執心だな」
「そんな事は……」
いや、あるかもしれない。なんだろうか。彼を見ているとなんだか悪寒と既視感があるのだ。俺はそれが気になって仕方がない。
するとガン見していたためか、パラマイアさんはこちらに気づき、にっこりと微笑んだ。女性なら即落ちなんだろうが生憎俺は男だし、あの男の思惑が分からない限りは油断できない。
「アービス、ここで待ってろ、そんなに気になるなら僕が聞いてくる、僕が隣に居るのに他にばかり目がいかれるのは不快だ」
「あ、おい、アニス」
止めようとしたがアニスは素早く、二階から降りていってしまった。俺の目には駆け足で階段を降りていくアニスを見つめながら、パラマイアさんの方を見るとパラマイアさんが居なかった。
「あれ?」
俺は目をキョロキョロと動かしながらどこに消えたのかを確認するが見当たらない。どこに消えたんだ?
「すると落雷が!」
パラマイアさんを探していた俺の耳にアモンさんの声と共に雷の音が聞こえてきた。魔法をエフェクトサウンド代わりにしているのだろう。
「大きな音でしたね」
「え!?」
大きな落雷のすぐ後に俺の背後から男性の声が聞こえてきた。振り向けばそこにはパラマイアさんが笑みを浮かべて立っており、軽いお辞儀をした。
「こんにちわ、アービスくん、昨日ぶりですね」
「え、ええ、どうも」
「今、壇上に居る彼女。素晴らしい演技力ですね」
他愛もなくそう言いながら俺の横に立ったパラマイアさん。俺は訝しげに彼を見つめるが彼は肩を上げ、残念そうな顔をした。
「ずいぶん疑われていますね。そういえば、ご存知ですか? 勇者の意義を」
「へ?」
「存じ上げていない。だが、それも仕方ない」
「何が言いたいんです?」
「君は勇者様を愛しているかい?」
「アニスが勇者だって知っていたのか!?」
「おやおや、私は勇者と言っただけだよ、そうか、彼女が勇者か」
しまった。つい口を滑らせてしまった。これじゃあアニスの事を叱れないな。
「だが、まぁ、誰でも良いのさ、勇者なんてものは。そうだ、アービス君、決して結ばれない君たちに良いことを教えてあげよう」
「結ばれない……?」
「ああ、そこに食いつくかい? いや、安心してよ、みんなそうだった。昔からね」
「思わせぶりな事ばかり言うのは止めろ」
「だから良いことを言ってあげるんじゃないか、アービス君、私は魔王という傀儡種族に屈した男だ。そんな男からのアドバイスだ」
男は一度区切り、微笑むのを止めるとどこかを指で指した。あの方角だと王城、俺たちの借家、森があるくらいだ。
「もっと真実を見るこ――」
「アービス!!」
パラマイアの言葉を遮り、やってきたのは下に降りていたはずのアニスだった。俺とパラマイアが居るのに気づいて急いで戻ってきたのだろう。
「おっと、勇者様のおなりか」
「お前!」
アニスはパラマイアに黄金の剣を振りかざし、パラマイア目掛けて振り下ろした。だが、振り下ろした先にパラマイアは居らず、一瞬のうちにアニスの背後に背中合わせで立っていた。パラマイアはそのままこちらを見ずに手を上げて手を振ると二階から降りていってしまった。
「待て!」
「アニス!」
一切、迷わずにパラマイアの後を追いかけていくアニス。俺が止める声を振り切り、俺はアニスの背中を追うしかなかった。
「きゃあっ!?」
だが、俺の行動を妨げたのは一階からの叫び声だった。アモンさんの声だ! 俺は二階からアモンさんの方をのぞき込むと、壇上に尻もちを着いたアモンさんと肩を大きく揺らしてアモンさんを見下げているペロパリが居た。ペロパリさんは手持ちの袋をパンパンにさせて持っていた。そして、不思議な事にお客が全員倒れており、気を失っている。これも幻術魔法の一つか。
「下に降りた方が良いかもしれないが……」
ここで不用意に降りて眠ったらお笑いにもならないぞ。俺は考えた。シャーロットさんやガリレスさんも眠ってしまったのだろうか。そう考えていた矢先。
「アモンから離れやがれえええええ!!!」
怒号が図書館に響いた瞬間、台座の下から雷を纏わせた槍がペロパリの足元から突き出た。木片が飛び散る中、ペロパリは目を見開いて後ずさる。
「シャロちゃん!」
槍で開けられた穴から飛び上がってきたシャーロットさん。槍の穂先をペロパリに向けるシャーロットさん。どこに居るのかと思ったらサウンドエフェクト係だったのか。
「おう、変態野郎、アモンを物にしたいなら俺くらい倒してみろや」
「クソっ!」
ペロパリはシャーロットさんを睨みつつ、手持ちの袋に手を突っ込み、手で握れるほどの大きさの木人形で、デッサン人形のような造形をしている物を取り出した、
「幻人形! あの猪女を食い止めろ!」
ペロパリの一声で木人形はペロパリの手から離れ、大人の人間サイズまで大きくなっていく。木人形の丸い手が変形し、刀身のような物を作り上げた。そのような人形が二十体ほど壇上の上に所狭しと現れた。
「だれが猪女だ!」
それを見ても動じず、シャーロットさんは雷を纏わせた槍で近くの木人形を木片へと変えていった。




