第106話 先輩に甘えても良いですか?
これからどうしよう。気にしてなくても良いのかもしれない。所詮は魔王の仲間の発言だ。ただ俺を混乱させる罠かもしれない。だが……。俺の視線はパラマイアが指さした王城方面へと向いた。
あそこに何かあるのかもしれない。真実を見ろか……。
「あの先輩?」
「ん? どうしたの? クロエちゃん?」
「いえ、ぼっーとしていているようだったので……」
「ああ、いや、ちょっとね。そうだ、クロエちゃんは俺のせいでこうなったみたいなことある?」
「は? どんな質問ですか? それ」
「ごめん、なんでもない」
「……ありますよ」
意外にもあるらしく俺は考えた。何かクロエちゃんにしてしまっただろうか。いや、されたことしか思い出せない。
「兄と仲直りのきっかけが得られました。兄が、勇者パーティーに入って変われたと言っていたので、ある意味、先輩のおかげです」
「そっか、いや、うん」
「なんですかその反応……」
またもや意外な回答。悪口を言われるわけではなく、逆に感謝された。俺は少し気まずくなり、目を泳がせてしまった。いや、まさか褒められるとはまったく思っていなかった。
「先輩、良かったら遊びに行きませんか?」
「え、もう夜遅いから帰った方が良いんじゃ?」
「だから気まずいから嫌なんですよ」
「俺は良いけど、後でクライシスさんに先輩にいけない遊びに付き合わされたとか言うなよ」
「そんな事言うわけないじゃないですか」
「いや、言いそうだから釘を刺してるんだけど……」
言っておくが、アニスの前で甘えだした件は許しても忘れているわけじゃないからな。まぁ、いちいち、口に出して責めるのも男らしくなくて嫌だしな。寛大な心で許してやろう。
「どっか遊びに行きたいとことかあるの?」
「えー! そこは先輩の手腕の見せ所ですよ!」
「ノープランかよ……」
俺に任せたら変な店に……行かないけどさ。俺がガリレスさんみたいなやつじゃなくて良かったな。あの人なら即変な店に連れていきそうだ。
「うーん、悩むな」
「本当に彼女さんじゃないんですね」
「え? なんで?」
「デートの場所に悩んでいたので」
ほとんどアニスが決めているからなのも理由だろう。俺はほとんど自らの意思で外出した事が少ないのもある。だから最近は色んな場所を訪れるのが楽しい。
あ、ガリレスさんと言えば。
「飯は食ったしな……あ、じゃあ、酒場でも行く?」
この世界には未成年者という概念は無い。ただ、二十を超えたら一人前の人と認められるくらいだ。だから二十前で酒を飲む人も多い。
「デートのセンスありませんね」
「すいません……」
クロエちゃんの容赦ないセンス無し宣言で俺の肩ががっくり落ちた。ガリレスさんでなぜ連想してしまったのか……。するとクロエちゃんは席から立ち上がり、俺の顔を見て首を傾げた。
「行かないんですか?」
「え、マジで行くの?」
「先輩が行こうって言ったんじゃないですか」
「お、おう」
まさか本当に行くのかと驚きつつ、立ち上がり、俺とクロエちゃんは酒場まで歩き出した。その間、色々話していて分かった事はクロエちゃんはこの前、見かけた友達以外に友達はほとんど居ないらしい事だった。友達をこんな時間に誘えないしということでわざわざ俺を誘ったのか。
――――
王都の酒場は上品だった。酒場というよりはバーと言った感じだろうか。俺とクロエちゃんはバーのカウンター席に座った。お客さんはなかなか入っていた。酒場村の客よりも上品な客層だ。上品な格好を見るとパラマイアを思い出してしまう。俺は頭を振って追い出しながら、酒を頼んだ。
「お客様、大分顔に疲労が見えますね」
バーテンダーのお姉さんが優しく話しかけてきた。俺は美人のバーテンダーさんの顔を見つめ、大丈夫ですよと笑えば、お姉さんも笑顔で会釈をしてきた。
「なにニヤニヤしてるんですか」
ジト目で見てきたクロエちゃんに俺は頬杖を突いてジト目で返した。
「ダメなのかよ」
「ダメじゃないですけど……イチャイチャから逃れてきたのに隣でもいい雰囲気されたら気分最悪ですよ」
「あー、それもそうか」
「彼女さんですか?」
その質問はバーテンダーさんからだった。またこの質問か。俺はバーテンダーの方に視線を向けた。
「今日はその質問よくされますけど、俺は一人身ですよ」
「たらしの間違いですよ」
「お客様もたらされてるんですか?」
「こんなのにタラされるわけないじゃないですか」
こんなのって……あなたね。だが、このクロエちゃんの態度は直らないような気もするし、あまりツッコまないけど、クロエちゃん、バーテンダーさんと楽しそうに話しているし、来てよかった。これでクロエちゃんも気分転換できただろう。
俺はグラス一杯の酒を一気にあおると、新しい酒を頼み、その味をかみしめるように飲んだ。
「俺のせいってなんだろ……勇者パーティーに居るなって事なのかな……」
「どうしたんですか? 先輩?」
「いや、なんでもな……酔ってる?」
振り返ってクロエちゃんを見れば顔を真っ赤にしていた。不安げな視線を送るとクロエちゃんは顔を傾げながら俺の膝に頭を乗せてニコニコと笑いだした。
「せーんぱいっ! 甘えて良いですか!!」
「あ、水! 水ください!」
慌てて言う俺にバーテンダーは微笑むばかり。微笑んでいる場合じゃないですよ! あの! と思う俺をよそにクロエちゃんは頭を動かして甘え出してしまった。クロエちゃんは女子高生と言った雰囲気でアニスとは別方面で興奮してしまうからやめてほしいところだ。




