第97話:荒野の激突、空を舞う光刃
見渡す限り障害物のない、だだっ広い平地が広がるアリュナス荒野。
その乾いた大地を、猛烈な土埃を巻き上げながら3台のチャリオットが疾走し続けていた。
「おい、フリント。クラウディッツ渓谷へは、この方向で合ってるか?」
先頭を走る『カタナ』のコックピットから、クリストフが通信機越しに声を張り上げる。
「はい、この方角で問題ありません。このまま進みましょう!」
後方を走る『ティーガー』からフリントが即答した。
確認を取ったクリストフは、カタナのすぐ隣を並走する『グラスホッパー』に向けて親指を立てて見せる。
グラスホッパーの操縦席に座るトリスタンは、その合図を目にすると、このまま突き進めばいいという確信を得て力強く頷き返した。
だが、その平穏な疾走は唐突に破られる。
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
通信機から、フリントの必死の形相が目に浮かぶような絶叫が響いた。
「うん? どうした?」
「前方から物凄い速度で、何か飛んで来ます!!」
「え? 何かって言われても、お前……」
クリストフが首をかしげ、前方の上空へ視線を向けた瞬間――。
キィィィィィン……ッ!
耳をつんざくような強烈な高音が大気を揺らし、音速を超える速度で一筋の影が飛来した。重厚な金属装甲を纏った人型の物体――魔将軍バロールのパワードスーツである。
「ふふふ……見つけたぞ……」
上空で不敵に笑うバロールは両腕のパーツを即座に稼働させ、内部に収納されていた大型魔導機銃を展開した。
――ダダダダダダダダダダッ!!
凄まじい轟音とともに、地上を走る3台のチャリオットを目掛けて凄絶な掃射が浴びせられる。
荒野の真っ只中で、高密度の魔導弾幕と衝突した『魔導障壁』が眩い火花を散らし、激しい衝撃に耐えかねた3台は緊急停止を余儀なくされた。
「くそっ!」
フリントはすぐさま操作パネルを叩き、飛翔するバロールの超音速軌道を計算し始める。
一方、グラスホッパーのトリスタンはガチャリとシートの高さを引き上げると、そのままくるりと旋回させ、上空のバロールへ向けて矢継ぎ早に魔導矢を放った。
しかし、バロールは空中での鋭い機動により、迫り来る魔導矢を事もなげにひらりと躱してみせる。
「行っけぇぇっ!」
そこへフリントのティーガーから誘導ミサイルが連続射出された。ミサイルは白煙を吹き出し、音速の軌道を描いてバロールを追尾する。
「このやろう、こっちだってこの前とは違うんだ。見てろよ……!」
カタナから降り立ったクリストフが両腕を大きく広げると、地上に佇んでいたカタナの車体が眩く発光し、バラバラのパーツへと分離して大空へ舞い上がった。
両腕を開いたまま大地に仁王立ちするクリストフへ向け、空中からパーツが次々と飛来する。
――カチャン! カチャン! ガチャリ!
重厚な飛翔パーツが吸い寄せられるように全身へ完璧に装着されていく。
その上空では、バロールが眩いフレアを散弾のように撒き散らし、追尾してきた誘導ミサイルを次々と誘爆させて攻撃を難なく回避していた。
「ふん、くたばるがいい」
バロールのパワードスーツの肩部パーツがスライドし、今度はバロール側から無数のミサイルが解き放たれた。
音速を超える狂暴な軌道を描くミサイル群が、地上のティーガーとグラスホッパーを容赦なく襲う。
「うわあぁぁっ!?」
2台のチャリオットに次々とミサイルが直撃した。
凄まじい爆炎が巻き起こり、過剰な負荷を受けたバウンダリー・ハルが眩しい閃光となって激しく散り、何もない荒野を眩く照らす。
「凄まじい破壊力だ……! バウンダリー・ハルがもたない……!」
あまりの威力を前に、フリントが顔を歪めて驚愕した。
「ヴァレリアのヴリトラがいないから、迎撃できないのか……!」
トリスタンも歯噛みしながら呟く。
だが――そのミサイル群が直撃する間一髪の瞬間、大空へ向かって疾風のごとく飛翔し、壊滅的な直撃を回避した一機の姿があった。
パーツが完全に分離・装着され、パワードスーツ形態へと変形を遂げたクリストフの『ブロード・カタナ-TR』である。
「うおおおっ! こんのやろうっ!!」
クリストフは背部装甲から『エクスカリバー』の柄を引き抜くと、一瞬にして2メートルを超える巨体に匹敵する光の刃を展開した。
爆発的な推進力を生み出し、凄まじいスピードでバロールのパワードスーツ目掛けて肉薄する。
――ズバァンッ!!
クリストフの一閃が直撃し、バロールのバウンダリー・ハルが眩い光粒子となって爆発的に飛び散った。
「なんだと!? 奴らにも同じ技術があるというのか!?」
想定外の空中斬撃を受け、空中での体勢を崩すバロール。だが、すぐさま体制を立て直すと、冷徹に腰部パーツの裏側へと手を回した。
バロールの手には、腰のパーツから引き抜かれた巨大な光の刃を展開する剣が握られていた。
クリストフは勢いを殺さず、追撃とばかりにバロールへ斬りかかる。
「ふん!」
バロールは身を翻すと、クリストフが繰り出したエクスカリバーの一撃を、自らの光の剣で真っ向から振り払った。
――ドゴォォォンッ!!
「うわあぁぁっ!?」
桁外れの衝撃波が吹き荒れ、あまりの威力量にクリストフの巨体が遥か後方へと吹き飛ばされた。
「あっちにもエクスカリバーがあるのか……! それにしても何だ、あの常軌を逸したパワーは……!?」
地上からその光景を仰ぎ見ながら、フリントが険しい表情で戦慄を口にする。
バロールのパワードスーツは、バロール自身の体内から直接魔力が入力される仕様となっていた。その強大すぎる魔力出力に耐えうるよう、すべてのパーツ、すべての武器が異常なまでの過剰強度で設計されていたのだ。
その副産物として、攻撃力も機動性も、通常のチャリオットとは比較にならない数倍の性能にまで引き上げられている。
本来であれば、これほどのモンスターマシンを駆動させられる魔法電池など存在しない。だが、バロール本人の身体から直接魔力を供給するシステムにより、そのパワードスーツは易々と動かされていたのだった。
「ふふふ……その程度の急場しのぎのガラクタで、私のパワードスーツに歯向かおうとは……片腹痛いわ!」
――バアンッ!!
バロールが拳を握ると、強大な魔力に耐えかねたパワードスーツの装甲の隙間から、激しい魔導火花が弾け飛んだ。
大空を自由自在に飛翔するバロールの鋭い眼光。
その視線の先には、同じく空中へ留まり、高出力の光剣を構え直して鋭い眼光を光らせるクリストフの姿があった。




