第96話:極秘の翼、解き放たれし魔力
魔将軍バロールの巨城。その敷地内深くに隠された極秘研究施設には、一基の重厚なパワードスーツが佇んでいた。
機体には無数のケーブルが這わされ、3基の大型魔法電池から高密度の魔力が絶え間なく注入されている。
――プシュー……。
重厚なエアロックが開く音とともに、魔将軍バロールが足音を響かせて研究室へと入室してきた。
「魔法電池を繋いでいるのか? このバッテリーはどこに格納するのだ?」
「い……いえ! 只今『刻印門魔装填』を実施中でして……!」
研究員の一人が、突然の問いかけに驚き、慌てて背筋を伸ばして答えた。
「エングラムゲート?」
「つまり……このパワードスーツに必要な弾丸やミサイル、ならびに『魔導障壁』のエネルギーを満たしている最中にございます」
「それは……魔法電池で行うのか?」
「はい……将軍様の魔力を直接送り続けるとなると、出撃直前まで将軍様ご自身を機体に繋ぎ留めておく必要がございますので……」
「そうか。ならば、これを実際に動かす際は、私の魔力で動くのだな?」
「左様でございます! ……が、しかし……」
「なんだ?」
バロールの鋭い眼光が研究員を射抜く。
「え、いや……その……」
しどろもどろになる研究員を、バロールはぎろりと睨みつけて問い詰めた。
「なんだ? 早く言え」
「ま、魔法電池によって装填された装備類は……将軍様本来の魔力に比べて、非常に脆く繊細な状態となっております……」
「つまり、どういうことだ?」
「つ、つまり……魔力の出力を上げすぎますと、内部でオーバーロードを起こし、最悪の場合は空中で爆発する危険性がございます……!」
「ああ、そういうことか。で、これはいつ動かせる?」
「あと三十分ほどでエングラムゲートが完了いたします。その後、魔法電池を取り外し、すぐに出撃できるよう滑走路へ移送いたします!」
「そうか。では、滞りなく作業を進めておけ」
「は、はい! かしこまりました!」
研究員が深々と頭を下げるのを確認し、バロールは研究室を後にした。
---
研究室を出たバロールは、城内にある監視室へと足を運ぶ。部屋には無数の魔導ディスプレイが並び、各地の状況がリアルタイムで映し出されていた。
「奴らの動きはどうだ?」
「はっ……プラウデンから、3台のチャリオットが発進したのを確認いたしました」
「どこに向かっている?」
「数日前、奴らのチャリオットのうち1台がクラウディッツ渓谷に向かい、そこで大破した模様です」
「クラウディッツ渓谷……? 確か、プレアデスの作戦拠点があったはずだが……それで?」
「どうやらその3台は、大破した『ヴリトラ-APC』の現場へ向かっているように見受けられます」
「なるほどな」
そう呟くと、バロールは傍らに控えていた参謀へ目を向けた。
「おい」
「はい、何でございましょう?」
参謀がそそくさとバロールの下へ駆け寄る。
「奴らに仕掛けるとしたら、どこが良い?」
参謀は画面に映る3台のチャリオットを見つめながら思案した。
「そうですね……この先にあるアリュナス地方――見渡す限り何もない、広大な荒野地帯がございます」
「ほう?」
バロールが不敵に顎へ手を当てて促す。
「遮蔽物が一切存在しない平地です。地を這うことしかできぬ奴らのチャリオットに対し、上空から自在に攻め立てられるバロール様が圧倒的有利に立ち込めましょう」
「よし、分かった。直ちに出撃する」
「はっ! 承知いたしました!」
参謀が素早く立ち去り、バロールも監視室を出て滑走路へと向かった。
---
強風が吹き抜ける屋外滑走路には、高官と担当技術者が固唾をのんで待機していた。
バロールが姿を現すと、高官がすぐさま駆け寄ってくる。
「エングラムゲートが完了いたしました! パワードスーツはいつでも出撃可能でございます!」
「うむ。ご苦労」
バロールが滑走路の中央へと歩みを進めると、左右から巨大なロボットアームが迫り出し、パワードスーツの各パーツを運んできた。
――ガチャリ! ガチャリ!
重厚な金属音を立てて、次々とバロールの身体へ装甲が組み上げられていく。
そして完全に装着が完了した瞬間――ズドン! と激しい衝撃音が響き、装甲の隙間から眩いばかりの魔力火花が撒き散らされた。
「ふははは……! 前回の試作機とはまるで違う……凄まじい魔力を感じるぞ! これが私の真の力か!」
バロールは満足げに、重厚なパワードスーツの拳を力強く握りしめた。
空を見上げた次の瞬間――ドォンッ!! と音速を超える衝撃波とともに爆発的な加速が巻き起こる。幾筋もの眩い火花を残し、バロールの巨体は瞬く間に空の彼方へと姿を消した。
見送る担当技術者は、高すぎる魔力出力が引き起こすオーバーロードで機体が空中分解しないことを祈り、ただただ震える両手を合わせて祈り続けていた。




