第95話:交錯する思惑、崩れ去る要塞
慌ただしく出撃していったカタナ、グラスホッパー、ティーガーの3台を見送るバレル。
その時――彼の懐から突然、けたたましい電子音が響き渡った。
「わっ!? わわっ……どこだっけ!?」
バレルは慌てて全身のポケットをバタバタと叩き、鳴り続ける小型無線機を必死に探し回る。
「はいはい……バレルだ。どうした?」
ようやく探し当てた無線機を取り出し、応答のボタンを押した。
すると、スピーカーの向こうから、聞き覚えのある幼馴染の親友の声が聞こえてきた。
『……カイエンだ。悪いな、お前に聞きたいことがあってな』
「ん? なんだ?」
『あの右腕が2本ある少年……あいつが今、どこにいるか知らないか?』
「え? ああ……トリスタンか。ちょうど今、のっぴきならない用事で出て行ったばっかりなんだけどな……」
『どこへ行った?』
「クラウディッツ渓谷のほうだ」
『じゃあ、こっちに向かっているのか?』
「そうか、お前らも今クラウディッツ渓谷にいるのか……」
カイエンの言葉に、バレルは少し顎に手を当てて考え込んだ。
「とは言え……正確な居場所を知らずに、あの広い渓谷あたりで見つけるのはお互いに難しいだろうしな……」
バレルはアイデアを思いつき、カイエンに尋ねる。
「そうだ、あの港町に来られるか?」
『分かった。俺たちは先に港町で待ってる』
「よし、あの港町で落ち合おう。じゃあな」
通信が切れると、バレルは「ふう……」と長いため息をついた。
彼は広大な「鋼鉄の要塞」の戸締まりや機械類の一通りの点検を終えると、要塞を出て復興が進むプラウデンの町へと足を進めた。
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復旧した建物の中には、各地の戦乱で行き場を失った避難民たちの受け入れが少しずつ始まっていた。
プラウデンの町に引っ越してきた新しい住民たちが、歩いてくるバレルの姿を見つけて顔を出す。
「バレルさん!」
「おう! この町の住み心地はどうだい?」
バレルは気さくに笑顔で声を返した。
「もう……こんなにしていただいて、感謝の言葉もありません。本当にありがとうございます!」
住民たちは深々と頭を下げた。
「よしてくれよ! 大袈裟だって!」
バレルは照れ隠しにわははと笑ってみせる。
その様子を見て、近くで建物の建築作業をしていた職人たちも手を止めて顔を出した。
「あんたは、俺たちプリコーグの村人にとっても命の恩人さ。心から感謝してるよ」
「おいおい……あんたたちまで……。悪いけど、また鋼鉄の要塞を留守にするからさ。後をよろしく頼むよ!」
バレルは住民たちにそう言い残すと、広場に繋ぎ止められていた飛空艇に乗り込み、エンジンを吹かせて空高く飛び立っていった。
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それから、数日が過ぎ――。
キュラキュラキュラキュラキュラ……!
地響きのような不気味なキャタピラ音を大音量で響かせ、プラウデンの町へ侵入してくる3台の巨大チャリオット。
「何事だ!?」と、町の人々が遠巻きに怯えながらその様子を眺めていた。
3台のチャリオットを率いる精鋭軍隊は、迷いなく「鋼鉄の要塞」の前へと整列する。
先頭に立つヴァレリアは、慣れた手つきで要塞の重厚な門を開け放ち、広大な格納庫の中を見渡した。
「留守のようね……。フリントが言っていた新兵器……あれも持っていかれているようだわ」
ヴァレリアの隣に走り寄ってきた参謀が低く声をかける。
「いかがいたしましょうか?」
「その新兵器を手に入れたかったけれど、居ないのなら仕方ないわね」
ヴァレリアと兵士たちは一度要塞の外へと出た。
門から少し離れた位置まで歩くと、ヴァレリアは冷徹な眼光のまま、すっと片手を高く振り上げる。
その合図とともに、3台の大型チャリオット「クイーンシャーク」が同時に前進した。
「――撃て!」
ドドドォォォンッ!!
3台のクイーンシャークの主砲から爆風とともに放たれた凄まじい集中砲撃が、要塞の装甲を破砕し、内部ごと容赦なく吹き飛ばしていく。
かつてフリントたちが丹精込めて改修し、クリストフたちの拠点であった「鋼鉄の要塞」は、一瞬にして猛火と黒煙に包まれ、壊滅的なダメージを受けて崩れ落ちた。
絶望的な破壊劇を、恐怖に震えながら遠巻きに見ていた住民たちへ、ヴァレリアはゆっくりと近づいていく。
彼女は懐から一枚の地図を取り出すと、目の前の住民へ突起するように差し出した。住民はガタガタと震える手で、その地図を受け取る。
「鋼鉄の要塞の住人たちが戻ってきたら、こう伝えなさい……『ブランゼル王国の王女、ヴァレリアが来た』とね」
そう言い捨てると、ヴァレリアは冷ややかな視線のまま、優雅に踵を返した。
「引き上げるわよ」
ヴァレリアの短く冷酷な命により、3台のクイーンシャークを従えた軍勢は、黒煙の上がるプラウデンの町から静かに離脱していった。




