第94話:飛翔の鋼鉄、不穏の報せ
爽やかな風がそよぎ、どこまでも広がる広大な高原。
トリスタン、フリント、バレルの3人が並んで歩いていた。
3人の歩く速度に合わせ、その隣をゆっくりと並走するのは、改修を経た愛機「ブロード・カタナ-TR」である。
「今回は結構遠くまで来ましたが……この広さなら、思う存分新兵器を試せそうですね!」
フリントが高原を見回して頷く。その隣でトリスタンは新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込み、深呼吸した。
「よし、いっちょおっぱじめるか、クリストフ!?」
バレルがニヤリと笑い、車上のクリストフに声をかける。
――ブオォォォン!
クリストフがハンドルから手を離して立ち上がると同時に、重厚なエンジン音が轟いた。
直後、カタナは従来の常識を覆す異様な挙動を見せる。なんと車体がカチャカチャと音を立てて分解し、前輪部分と後輪部分、各パーツが独立して散開したのだ。
バラバラになったパーツ群は、クリストフの周囲をぐるぐると旋回する。やがて各パーツから可動式ノズルが展開し、甲高いジェット噴射音とともに上昇を開始した。
「いいぜ、いいぜ! いい感じだ……そのまま来い!」
両手を広げて大空を見上げ、クリストフが叫ぶ。
その声に応えるかのように、パーツたちが一斉にクリストフへ向けて殺到した。
頭部、胸部、腕、胴回り――精密な機構音を響かせながら、クリストフの肉体へと順次装着されていく。
飛来した右脚パーツが噛み合い、レッグガードが完璧に装着される。しかし、左脚用のパーツはタイミングがズレ、クリストフの脇を通り抜けて向こう側へ飛んで行ってしまった。
「くそうっ!」
クリストフは脳内のサイコドライブで飛んで行ったパーツを力ずくで呼び戻す。今度は飛来するパーツを迎え蹴るようにして合わせ、力技で全パーツの装着を完了させた。
「うわあぁ! カッコいい……!!」
全身に重厚なパワードスーツを纏ったクリストフの雄姿に、トリスタンは目を輝かせる。
だが、当のクリストフは不満げに首を振った。
「いや……納得いかねえな。やり直しだ!」
クリストフが両手を広げると、装着されたパーツ群が一斉に外れ、再び上空へと散開した。
クリストフは全速力で高原を駆け出す。追尾するパーツたちがジェット噴射を吹き上げ、走るクリストフを追いかける。
やがて追いついたパーツが、頭部、胸部、両腕、胴、両脚――今度は一切の滞りなく、一瞬の隙もなく完璧なシームレスさで完全装着された。
「どんなもんだ!!」
クリストフはそのまま力強く大地を蹴った。
レッグガードと背部ノズルから爆風が放たれ、その巨体が推進力によって一気に大空へと躍り出る。
「うおぉぉぉッ!? すげえ……飛んでる、飛んでるぜぇぇ!!」
クリストフは大はしゃぎで歓声を上げながら、広大な上空を悠々と旋回した。
「すごい! すごいよ、クリストフ!!」
大空を自在に舞うパワードスーツを見上げ、フリントも興奮を隠せない。
クリストフは背部ラックから大剣「エクスカリバー」を引き抜いた。
2メートルを優に超える光の刃が展開される。縦横無尽に大空を駆け巡り、機敏な旋回を見せながら、動作確認のためにエクスカリバーを豪快に振り抜いてみせた。
「こりゃあ、全く問題なさそうだな。安心して見ていられるぜ。おめでとうフリント、大成功だ」
バレルが隣のフリントの肩をぽんと叩く。フリントは満面の笑みで大きく頷いた。
やがてクリストフが地上へ滑らかに着地すると、スーツのパーツ群が瞬時に離脱。空中でスムーズに組み合わさり、一瞬で元のカタナの形状へと戻った。
満足げな表情で再びカタナに跨るクリストフ。4人はテストを終え、プラウデンの要塞を目指して歩き出した。
「しかし……こういう時に、みんなで乗れるヴリトラがないと不便だな。ヴァレリアはいつ帰ってくるんだ?」
クリストフが尋ねる。
「わかりません……ですが、ヴリトラの遠隔魔力反応自体は捉えていたので、問題ないとは思います。戻ったら詳細を確認しますね」
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しばらくして、4人はようやくプラウデンの要塞へと帰還した。
クリストフはカタナを収めるため、フリントはヴリトラの反応を精査するために格納庫へと向かう。
「大変だ―――っ!!」
突如、フリントの顔が真っ青になり、悲鳴のような絶叫が響き渡った。
「どうしたっ!?」
クリストフが驚いて駆け寄る。
「ヴリトラの反応が……大破しています!!」
「なっ……!?」
フリントの報告に、クリストフは言葉を失った。
(大破……? まさか、ヴァレリアが……)
慌ててモニターを覗き込んだバレルが、眉間にしわを寄せて言った。
「そういえば……あいつ、クラウディッツ渓谷のことを俺に聞いてきてたな……」
「クラウディッツ渓谷……!?」
クリストフが反芻する。
「行こう!!」
トリスタンが迷わず愛機「グラスホッパー」へ飛び乗った。
フリントも慌てて「ティーガー」へ走り込み、ハッチを開けて乗り込む。クリストフも再びカタナへ跨がった。
「すまない、バレル! 後は頼んだぜ!」
「わかった! 何か分かったらすぐ連絡してくれ!」
カタナ、グラスホッパー、ティーガー――3台のチャリオットが重厚な駆動音を爆発させ、緊迫した空気のなか、鋼鉄の要塞から飛び出していった。




