第86話:鋼鉄の共鳴、新たなる飛翔の芽
荷物をまとめたカイエン、デイル、エルム、サヤの4人は、次なる目的地へと向かうため、宿を後にして港町の通りを歩いていた。
数日間にわたる滞在。穏やかで心地よいこの町並みを惜しむように感じつつも、一行は未だ見ぬ伝説の武器「クロイツ」を求め、確実な一歩を踏み出そうとしていた。
――ピピピピ! ピピピピ!
その矢先だった。聞き慣れない電子音が静かな通りに響き渡る。
「ん? なんだ……?」
エルムが音の出所を探すように、首を傾げてキョロキョロと辺りを見回す。
「え……? 俺か……!?」
カイエンが驚いたように自分の鋼鉄の義手を覗き込む。腕の装甲部分で、小さなランプがチカチカと点滅していた。
精神感応装置――カイエンは義手に顔を近づけ、すっと精神を集中させた。
『おーい! 聞こえるか? おーい!』
義手のスピーカーから、聞き覚えのあるバレルの声が響いてきた。
「またお前、変な仕掛けを俺の腕につけやがって……」
カイエンは呆れたような溜息をつきながら応答する。
『良かった、上手く応答できるようだな。それが新しい連絡手段だ。そっちからも俺を呼び出せるようになっているぞ』
「ああ、助かるよ。この先は人里離れた方向へ向かうからな。どうやって連絡を取ろうか迷っていたところだ」
『人里離れたところ?』
「ああ、クラウディッツ渓谷のほうだ。ロンカ帝国が遺した、古い神殿の跡地があるらしい」
『わかった。じゃあ、何かあったら連絡してくれ』
そう告げると、バレルからの通信は静かに切れた。
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同じ頃、海岸沿いにある雰囲気の良いレストラン。
クリストフ、トリスタン、フリント、ヴァレリア、そしてバレルの5人は、テーブルを囲んで優雅な食事を楽しんでいた。
「上手く連絡が取れたみたいだな」
クリストフが大きな肉を口に頬張りながら、バレルに声をかける。
「ああ……クラウディッツ渓谷か。あんな辺鄙な場所に行かれたら、本格的に消息がつかめなくなるところだったぜ」
バレルは安堵のため息をついた。
「クラウディッツ渓谷ね……」
ヴァレリアが上品にナイフを動かしながら、小さな声で呟く。
「でも、ここの料理すごく美味しいね。景色も最高だし、来て良かったよ」
トリスタンが笑みを浮かべ、隣のフリントに語りかける。
「その通りだ。どうせここまで来たんだから楽しまないと。……そうだ、あの新兵器の対策、ひとつ考えがあるんだ」
フリントの言葉に、トリスタンがすぐさま反応した。
「え? どんな考え!? ぜひ教えてよ!」
「その前に……クリストフには申し訳ないんだけど、ちょっとカタナのダメージが思った以上に深刻でね……」
「えっ!? そうなのか!?」
クリストフは思わず食事の手を止め、フリントを凝視した。
「それで? どんな感じなんだ?」
バレルもグラスを置き、フリントの方へ視線を向ける。
「一旦すべて解体して、新しいフレームやパーツで組み直す必要があります。ですが……今まで、特にバレルさんのおかげで俺の技術もかなり向上しました。今なら、多少の時間は必要ですが問題なく対応できます」
フリントは一口料理を口に運び、飲み込んでから言葉を続けた。
「この前、バレルさんが言っていたパワードスーツの衝撃や関節の可動域、そして排熱の問題……それを解消するためのアイデアを考えていたんです」
バレルが肉を頬張りながら、横目でフリントを見る。
「ん? それで……?」
「えーと……アームとチェスト、腰回りとレッグガード。プレートメイルのように、複数のパーツに分けた状態で装着するんです」
「うんうん……本来なら魔法電池を入れるスペースがさらに小さくなって実用不可なところだが、こっちには『永久機関』の技術がある」
バレルがニヤリと笑い、思考を加速させる。
「魔法電池を極限まで小型化して、パーツごとに複数搭載することは可能なはずだ」
「それです! 上手くいけば、パーツ一つ一つに推進力を付けて飛ばせる。サイコドライブで制御されたパーツが分解して離れ、自動で飛翔し、体に各パーツが装着される……!」
「ゲホッ……! ゲホッ……!」
クリストフが思わず料理にむせて激しく咳き込んだ。
「そ……そんなこと、可能なのか!?」
「三輪バイクの形状から各パーツが分離・飛翔して、パワードスーツの形状に合体・変形する……。上手くいくかは分かりませんが……挑戦させてもらえませんか?」
フリントが熱い眼差しでクリストフを見つめる。
クリストフは豪快に笑い飛ばす。
「面白いじゃないか! どんどんやろうぜ! こうなったら酒だ! 酒を持ってこい! 楽しくなってきたな!」
バレルが豪快に笑い、フリントの背中をバシバシと叩いた。
「ここに来て良かったなあ、フリント! 今夜はとことん飲もうか!」
港町の海岸沿いに佇むレストランでは、その後も絶え間なく料理と酒が運ばれ、夜遅くまで賑やかな歓声が響き渡り続けていた。




