第85話:運命の交差点、二つの刃
波の音が静かに響く、港の近くに佇む広い倉庫。
バレルが臨時に借り受けた作業場には大きな作業机が置かれ、そこに向かい合う形で一同が会していた。
「悪いな、こんな場所しかなかったんだ」
バレルが口を開き、集まった一同をぐるりと見回す。
左手にはカイエン、デイル、エルム、サヤの4人。
右手にはクリストフ、トリスタン、フリント、ヴァレリアの4人。
中央の座席に座るバレルを挟み、両陣営が静かに対峙していた。
「クリストフと言います。どうぞ、よろしく」
クリストフが勢いよく立ち上がり、爽やかに手を差し伸ばした。
「俺は、カイエンだ。よろしくな」
カイエンも立ち上がり、その無骨な手をしっかりと握り返す。
(あなたが……カイエン……)
クリストフがカイエンの佇まいをまじまじと見つめていると、カイエンは顎で示して座るよう促した。
「お前……討伐隊か?」
「はい、そうですが」
「どうやって、レイドールを見つけた?」
カイエンの眼光が鋭く光る。
「え? どうやってって言うか……」
突如放たれた鋭いプレッシャーに、クリストフが言葉に詰まる。
その横から、ヴァレリアが冷徹な視線を打ち返した。
「私たちは、アイゼンを倒しに行っただけよ。そっちこそ、どうやってアイゼンを見つけて倒したの?」
「いえ……私たちは数ヶ月あのあたりを捜索して、ようやくアイゼンの居城を突き止めたのです。私とエルムの二人でね」
デイルは穏やかな笑みを崩さず、静かに答えた。
「カイエンさんたちには、私とエルムから声をかけたと言いますか……」
「そうじゃないわ」
ヴァレリアの視線が一層険しくなる。
「え?」
「どうやってアイゼンを倒したの? あなたたちは一体何者?」
「古代の極大呪文……いわゆる『ハイエイシェント』と呼ばれる術です。お聞きになったことはありますか?」
デイルは穏やかな瞳でヴァレリアを見つめた。
「あるけど……魔将軍を倒せるほどの威力があるっていうの!?」
「魔将軍と言っても、所詮は精霊世界の下僕に過ぎません。それを上回る魔力をもってすれば……倒せます」
デイルのあまりにも淡々とした、しかし揺るぎない言葉に、ヴァレリアは「そんな……」と絶句した。
「まあ、ともかく……お前らがアイゼンを倒しに行ったら、なぜかそこにレイドールがいたってことか?」
カイエンが腕組みをしながら尋ねる。
「ああ。俺たちはドラゴンをも倒せる『チャリオット』っていう兵器を持ってる。それを使って何とか勝ったよ」
クリストフが胸を張る。
「なるほどな……」
カイエンは深く息を吐き出すと、苦々しく言葉を続けた。
「俺が先に見つけられなかったからだ……うまいことヴァルガスに逃げられちまったか」
「なあ……ヴァルガスは、何を恐れて逃げているんだ?」
バレルが尋ねるが、その問いを遮るようにデイルが割って入った。
「おそらく、我々が目指している『クロイツ』でしょうね……」
「クロイツ……? ああ……何かで聞いたことがあるな……」
バレルが頭を抱え、天井を見上げて記憶を掘り起こそうとする。
「さすがですね……精霊工学の粋を集めて作られた伝説の武器です。『運命の羅針盤』が引き起こす脅威の対策として用意されました」
「う、運命の羅針盤……!? あんなものが実在するっていうのか!? わかったぞ、確か精霊に対抗できる唯一の武器の名前……御伽噺じゃなかったのか、あれは!?」
バレルが驚愕の声を張り上げた。
「ふふふ……精霊工学の最高技術でありながら、それは精霊術の最高峰の魔力結界によって厳重に守られています」
デイルの眼光に深みが宿る。
「仮にその場所に辿り着けたとしても、真に『ふさわしい者』でなければ手にすることは出来ません。……何者かはわかりませんが、おそらくこの中に、鍵となる人物がいます」
デイルは、静かにそこにいる全員の顔を順番に見回した。
「とにかく、残る魔将軍はプレアデスとバロール……これが最大の脅威のはずよ」
ヴァレリアが我に返り、声を張る。
「私の炎の魔力と、そちらのチャリオットという兵器……いまのところ、このまま二手に分かれて対応したほうが良いかもしれませんね」
デイルがカイエンとクリストフを交互に見つめた。
「そうだな。何とか連絡を取り合って、このまま二手に分かれて進もう」
カイエンが静かに立ち上がる。
それを機に、場にいた全員がゆっくりと腰を上げた。二組のチームとしての進路が、ここに定まった。
「……すみません。お嫌じゃなければ、そのマントの中を見せていただけませんか?」
立ち上がりかけたデイルが、ふとトリスタンに声をかけた。
「え? 僕……? いいですけど……」
戸惑いながらも、トリスタンは肩のマントを少しはだけ、隠されていた2本の右腕を露わにした。
「なるほど……『鍵』となる人物……」
デイルが満足そうに小さく呟く。
「え?」
エルムが首を傾げてデイルを見る。
「いえいえ。……ですがいずれ、あなたが必要になるかもしれません。その時はまた会いに行きますよ」
デイルはトリスタンに温かく微笑みかけた。
「では、行きましょう」
デイルが声をかけると、カイエン、エルム、サヤの4人は静かに倉庫の扉を開け、先に出て行った。
「じゃあ、俺たちも出るか」
バレルの言葉に促され、クリストフ、トリスタン、フリント、ヴァレリアもまた、新たなる決意を胸に後に続くのだった。




