第84話:再会の潮風、新生する鉄腕
朝日に照らされ、心地よい潮風が吹き抜ける海岸沿い。エルムとサヤの二人は、波打ち際に沿って並んで歩いていた。
「ここらへんは、本当にいいところね」
サヤが頬を緩め、にっこりと微笑む。
「そうだね……いつか、こんなところで一緒に暮らせたら――」
言葉を口にしてから、エルムはハッと息を呑み、「しまった」という顔で口を噤んだ。
「……え?」
「ううんっ! 何でもないよ! あっちの港の近くまで行ってみよう!」
エルムは何事かをはぐらかすように、慌てて歩みを早める。
「ふふふ……変なエルム」
サヤはクスリと笑うと、エルムの背中に合わせるように歩調を速めた。
港に近づくにつれ、サヤの表情が驚きに変わり、ふと足を止めた。
「うん? どうしたの、サヤ?」
「え……? この気配って……」
サヤのただならぬ雰囲気を察し、エルムは咄嗟に辺りを見回す。
「あっ……! あれは……!?」
エルムが目を止めた先には――見覚えのある流線形の美しいフォルムを誇る、一隻の帆船(飛空艇)が静かに停泊していた。
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同じ頃、港町にある魔法教会の連絡所。
順番を呼ばれたカイエンは受付へと歩み寄り、手紙で依頼していた物資が届いているかを尋ねた。
「それにつきましては、案内の者が参りますので、奥でお待ちください」
「え……? 案内の者……?」
カイエンは受付の対応にわずかな違和感を覚えたが、とりあえず指示に従うことにした。
奥から屈強な衛兵のような男が現れる。
「どうぞ、こちらへ」
カイエンはその男の案内で、連絡所の最奥にある重厚な応接室へと通された。
扉を開け、部屋に入った途端――カイエンの表情が驚愕に染まる。
「バレル……!? なんで、お前がここに?」
「よう。たまにはこうやって、直接手渡そうと思ってね」
バレルはテーブルの席に深々と腰掛け、片手を上げてにっこりと笑ってみせた。
「どうやって……?」
「ああ、魔法教会から特別な権限をもらってね。まあ、座ってくれ」
カイエンはいぶかしげな表情を浮かべつつも、向かいの椅子に腰掛けた。
「一体、何があった……?」
まっすぐな眼差しでバレルを見つめる。
「落ち着いて聞いてくれ……レイドールが殺されたんだ」
「な……そ、そんな馬鹿な!? 一体誰が……っ!?」
思わず激昂して立ち上がろうとするカイエンを、バレルは両手を広げて制した。
「気持ちはわかるが、まずは落ち着いてくれ。その『殺した奴ら』を連れてきてるんだ。これから、そいつらの下へ案内する」
バレルは一呼吸置き、足元に置いてあった袋からごそごそと何かを取り出した。
――ゴトンッ!
静かな室内のテーブルに置かれたのは、黒光りする重厚な鋼鉄の塊――最新の精霊工学によって磨き上げられた、新鋭の義手だった。
「こ、これは……」
「いい加減、その義手も傷だらけで古くなってただろ? 新しく仕立て直してやろうと思ってな」
かつての特徴的だったリボルバーの回転装填部は姿を消し、代わりに2本の強力な魔導ダンパーが鈍く光を反射する、洗練された新デザインへと変貌を遂げていた。
バレルは席を立ち、カイエンの古い義手を持ち上げる。
「すまんな。少し響くが我慢しろよ」
バレルが接続部のロックを解除すると、バチンッ!と硬質で鋭い音が弾け、カイエンの腕から古い義手が外れた。
バレルは古びた義手をテーブルに置くと、真新しい義手を両手で持ち上げる。それを、ゆっくりとカイエンの切断面にあてがった。
バチンッ!!
再度、大きな衝撃音と共にカイエンの腕へとしっかりと新しい義手が装着された。痛烈な衝撃が走るも、カイエンは眉ひとつ動かさずに耐え切った。
「……さすがだな。どうだ? もうサイコドライブの同期は取れているはずだが?」
バレルが義手の反応を尋ねる。
カイエンは義手を豪快に振り回し、指を一本ずつ滑らかに折り曲げたり伸ばしたりしてみせた。
「……ふむ。確かに前より軽いな。随分と良くなっている」
その反応を見届け、バレルはほっと安堵の表情を浮かべた。
「じゃあ、古い弾丸はもう要らねえな。回収しとくよ」
カイエンは腰から取り出した、特殊弾丸の入った袋をバレルに手渡す。
「……で、これはどうやって弾丸を装填するんだ?」
カイエンの問いに、バレルはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「弾丸の装填なんか、もう要らねえよ。内部に『無限弾倉』を内蔵した」
「はあ……!? なんだそりゃ……!」
カイエンは思わず、あまりにも荒唐無稽な精霊工学の領域に呆れたような声を漏らした。
「ここで実弾を発射するわけにはいかねえが……弾を込めずに空撃ちしてみろ。連射できるように調整してある。やってみろよ」
カイエンが構えを取り、意図を伝達させる――。
――コココココココンッ!!
重厚な2本の魔導ダンパーが滑らかに超高速スライドし、驚異的な連射挙動を披露した。
「……一発ずつでも撃てるのか?」
カイエンがバレルを見る。
「ああ、単発精度も今まで以上だ。魔導ダンパーが反動をガッチリと固定する構造になっている。マズルブレーキ、コンペンセイター……とにかく考えられる限り最高の精度で調整してある」
カイエンは深く納得したように頷くと、銃身を収納し、折りたたまれていた手首のパーツをガチャンと元の手に戻した。
「それで……そいつらはどこにいる?」
カイエンの眼光が、再び鋭く冷ややかに光る。
「それじゃ、行くか」
バレルは床の袋を背負い、静かに部屋の扉を開けた。
魔法教会の連絡所の奥から続く長い廊下を、重厚な足音を響かせながら、二人の男が歩を進めていった。




