第83話:波音の港町、繋がる予感
潮風が心地よく吹き抜ける、穏やかな砂浜が広がる港町。
そこには大型の船がゆったりと停泊できる立派な港と設備が整えられており、数多くの行商人や船乗りたちで行き交い、大層賑わっている様子だった。
その活気あふれる街路で待っていたデイル、エルム、サヤの三人のもとへ、魔法教会の連絡所から出てきたカイエンが合流した。
「悪かったな、付き合わせちまって。さあ、先を急ごう」
カイエンが三人に声をかける。
「差し支えなければ、連絡所で何をされていたのか教えていただけませんか?」
デイルが静かに尋ねた。
「まあ……ここら辺の情報収集と、あとは旅費や弾丸、その他の細かい物資を送ってもらうようバレルに手紙を出してきたんだ」
「言ってくれたら、お金なら僕が出すのに」
エルムがカイエンの顔を見て言った。
「エルムってお金持ちなの?」
サヤが不思議そうにエルムへ問いかける。
「まあね。討伐隊になりたての頃、何のあてもなくただ闇雲に黒本党を討伐していた時期があったんだ。そのおかげで、いまだに回収していない賞金がこんなにあるんだよ」
そう言うと、エルムは腰にぶら下げた革ポーチから、数枚の重厚な討伐証を取り出して見せた。
「その物資やお金は、どこに届くのですか?」
デイルが重ねてカイエンに尋ねる。
「もちろん、そこの連絡所に届くように手紙に書いたさ」
カイエンは先ほど出てきた連絡所の建物を指差した。
「どのくらいで届きますか?」
「そうだな……早くて1週間。まあ、2週間から3週間ってところかな」
カイエンは顎に手を当てながら答える。
「このまま例の武器の場所に向かって、帰ってきたらまたここに立ち寄らせてもらう。……それでいいか?」
カイエンはデイルの顔を覗き込んだ。
「そうですね……」
デイルは少し顎を引き、深く考え込むような動作を見せた。
「え? デイル、何か気になることでもあるの?」
エルムがデイルの顔を見つめる。
「もしよろしければ……それが届くまで、この町で待ってみませんか? この町は非常に雰囲気が良く、滞在もしやすそうですから」
デイルが顔を上げ、みんなの顔を順番に見回した。
カイエンが驚いたように目を丸くする。
「それは俺にとっては願ってもない提案だが……本当にそれでいいのか? みんな」
「いいじゃないですか! 僕もこの町の雰囲気は好きだし、ここに宿をとってたまにはゆっくりしましょうよ」
エルムがにこやかに答える。
「それに、これはちょうどいい機会だ。前から思ってたんだよね。今度は絶対サヤに美味しい料理をごちそうするって」
「え? なんで? 私なんか別にいいのに……」
サヤはエルムの思わぬ申し出に戸惑いの声を漏らす。
「だって、あんなパンの半分こが思い出なんて寂しいじゃないか……もっと美味しいものを食べようよ」
「あれはあれで、私の大切な思い出なんだけどな……ふふ、でもエルムがそう言ってくれるなら、お言葉に甘えようかな」
サヤは目元を緩め、穏やかな微笑みを返した。
「でも、デイルさん……本当にそれでよろしいのですか?」
サヤは気遣うようにデイルへ問いかける。
「私たちは……少し急ぎ過ぎていたのかもしれません。時が満ちるまで待つことも、また必要なのです」
デイルの言葉に、カイエンが鋭く反応した。
「時が満ちる……?」
「ええ……もしかすると、ここで『鍵となる人物』に出会えるかもしれない。そんな予感がするのです。すみません、私の我儘に付き合わせてしまって」
カイエンはデイルの思いがけない言葉に静かに首を振った。
「いや、そもそもこの町に立ち寄ろうと言い出したのは俺だ。お前たちがそれでいいなら、何の問題もないさ」
カイエンはデイルの言葉の真意までは掴みかねていたが、今は素直にその直感に従うことにした。
「そうと決まれば、早速美味しいご飯を食べに行こう! さっき海沿いにすごく雰囲気のいいレストランを見つけたんだ!」
エルムが意気揚々と先頭を切って歩き出す。
港町には、どこまでも優しく穏やかな潮風が吹いていた。
夢で告げられた「未だ見ぬ出会い」を信じ、4人はこの活力に満ちた町に暫し滞在することを決めたのだった。




