第80話:影差す要塞、交わらぬ暗流
プラウデンの鋼鉄の要塞。その重々しい大扉が、地鳴りを立ててゆっくりと開いた。
戻ってきた4台のチャリオットが、滑り込むように要塞内へと入っていく。
それぞれの機体から降り立つメンバーたち。しかし、彼らの表情にはどこか暗い影が落とされていた。
試作型パワードスーツの見せた異次元の脅威――その重苦しい空気を察したクリストフは、雑念を払拭するかのように自分を鼓舞し、明るい大声を張り上げた。
「まあ……とりあえず腹が減ったな! 早速なんか作ろうぜ! よし、トリスタン来い!」
「うんっ!」
クリストフとトリスタンは努めて明るく声を掛け合い、調理場のある要塞の奥へと向かっていった。
取り残された格納庫で、フリントは4台のチャリオットの状態を点検し始める。ふと横を見ると、すぐ傍らにヴァレリアが佇んでいた。
「あれ? 自分の部屋に戻らないなんて珍しいね。どうしたの?」
「あんたは、どう思う? あの新兵器」
ヴァレリアは腕組みをしたまま、まっすぐにフリントを見つめる。
フリントは作業の手を止め、キョロキョロと周りを警戒するように見回した。
「正直に言うとね……」
声を潜めて、フリントは吐露した。
「あのパワードスーツは別格だ。今のチャリオットだけじゃ勝てない……あの二人には内緒だけど」
「無理よ。あの二人だって薄々気づいてるわ。それに……これから立ち向かう標的は、彼らにとって特別なものよ」
ヴァレリアは厳しい眼差しで、言葉を重ねた。
「新しい何か……新兵器か作戦か、何か手を考えないとね」
そう呟くと、フリントはカタナの本格的な修理に必要な工具を取りに、要塞内部へ入っていった。すぐに工具箱を抱えて戻ってくる。
ヴァレリアは腕組みをしたまま、そのフリントの様子の一部始終を静かに眺めていた。
「ねえ……本当はわかってるんでしょ? あなたも」
フリントはカタナの曲がったフレームに工具を当て、作業を進める手を止めないまま呟いた。
「わかってるよ……トリスタンのお母さんの仇なんだろ? そして……クリストフの恋人だった人だ」
溢れそうになる不安と雑念を振り払うかのように、フリントは必死に作業に没頭しようとする。
「このチーム、どう思う? もう潮時かしら」
冷徹な響きを帯びたヴァレリアの問い。
「そんなことない! そんなわけないよ……! トリスタンとは本当のチームだって誓ったんだ。俺は、俺たちを信じてる!」
必死に手を動かし続けるフリントの背中を見つめ、ヴァレリアは寂しげに呟いた。
「そう……あなただけは賢いと思ってたんだけどね」
そう吐き捨てると、ヴァレリアは要塞の中へと消えていった。
静まり返った格納庫に、しばらくの間、金属を打つ音だけが響く。やがてフリントの作業服のポケットから無線機の呼び出し音が鳴り響いた。
『そっちの様子はどうだ?』
スピーカーの向こうから、いつもの温かいバレルの声が聞こえてきた。
「いやあ……大変なことが起きまして」
フリントは汗を拭いながら応える。
『また何か起きたってのか? お前らも大変だなあ』
「ええ……でも、この前バレルさんが付けてくれた周辺録画システム、早速あれが役に立ちそうですよ」
フリントの口調が少しだけ明るくなった。
『そうか! じゃあ、また飛空艇でそっちに行くから待っててくれ』
「えっ、またこちらに来るんですか?」
『まあ町の復興も進めなきゃいけないし……お前たちに伝えておかなきゃいけないこともあるからな』
「伝えなければいけないこと……?」
『ああ、カイエンたちのことだ』
「え……? カイエンさん?」
『そうだ。あいつらと二手にバラバラに動かれると、今回みたいな件も起きるからな。できれば双方で一度、直接話し合ってほしいんだが……。ま、いいわ。とりあえずそっちに行くからな。それじゃあ』
カチリと通信が切れる。
ひとり残されたフリントは、押し寄せるいくつもの不安に胸を痛めながらも、それらを打ち消すように、カタナの解体と修理作業へと没頭していくのだった。




