第79話:試作の限界、黒き野望の継承
巨大な威容を誇る、ブランゼル王国が擁する魔将軍バロールの居城。
その城の前面に広がる、滑らかな滑走路のような巨大な石畳の広場に、彼方から飛来する一機の影があった。
キィィィィン……と高周波の駆動音を響かせ、強烈なジェットノズルを逆噴射させながら、その影――試作型パワードスーツが滑車の上に力強く降り立つ。
着陸と同時に、両脇から頑強な滑車に載ったロボットアーム群が滑り込んできた。
アームが各部位の装甲をがっちりと掴むと、機械的な音と共に一つひとつ鍵が外され、パカパカと装甲が解除されていく。
露出した内部から、魔将軍バロールがゆっくりと歩み出てきた。
待機していた王国の高官や技術者たちが、慌ただしく駆け寄ってくる。
「よくぞ……ご無事で戻られました! 早急に今回のデータを整理し、新兵器の更なる改良に取り掛かりますゆえ――」
バロールは高官のへつらうような言葉に不快げに鼻を鳴らすと、その隣に小さくなっている技術者を鋭く睨みつけた。
「原因は何だ?」
「は、はっ! あ、あれは……まだ試作段階の機体でありますので……」
恐る恐る答える技術者に対し、バロールは語気を荒げる。
「原因は何だと聞いているんだ」
「は、はいっ! チャリオットなどと違い、パワードスーツの形状では大きなサイズの魔法電池を格納することができません……! 単体で動かすだけでも魔力の消費量が跳ね上がり、極めて効率が悪いのです……!」
技術者は顔を伏せた。
「それで? アイゼンはそこをどう解決しようとしていたんだ?」
バロールの問いに、隣にいた高官が軽く咳払いをして前に出る。
「アイゼン様は、その事前段階として、自らのブレスの魔力を『詠唱石』に封印する研究を進めておられました」
「その研究はどうなった?」
バロールが高官を睨み据える。
「はい……」
高官は慎重に手元の書簡をめくりながら答えた。
「研究は滞りなく成功し、特殊砲の開発に至っております。魔将軍の膨大な魔力をそのまま兵器転用できると記されております」
「それで?」
「次の段階では、魔将軍の魔力そのものを直接兵器へ入力する計画でした。魔法電池のような脆弱な魔力ではなく、魔将軍様方の絶大な魔力が使えれば、魔法電池など最初から不要となります」
「なるほどな……。さすがアイゼンだ、実に面白い」
バロールは顎に手を当て、感心したように不敵な笑みを浮かべた。
「それで、その技術の搭載にはまだ時間がかかるのか?」
バロールが再び技術者へ視線を向ける。
「は……はい。既にその入力装置自体は完成しているのですが……」
「なに? ではなぜそれを搭載しない?」
「そ……それが、魔将軍様の魔力出力があまりにも巨大すぎて、装置そのものを内部から破壊してしまうのです! その激しい魔力負荷に耐えうる素材が、この世に存在しないと申しますか……」
「なんだと……!?」
「ひ、ひいぃっ!? い、今、アンカープロセッサーの出力調整によって魔力を限界まで抑え込み、実用に耐える落としどころを模索している最中でございます! け、決して開発が頓挫しているわけではございませんので、どうかご容赦を……!」
技術者は顔を真っ青に染め、必死に訴えかけた。
「ふん……そういうことなら、いいとしよう。さっさと持ち場へ戻れ。次は良い成果の報告を期待しているぞ」
バロールが玉座へと深く腰を下ろし、二人を一瞥する。
高官と技術者は深々と頭を下げて一礼すると、脱兎のごとくその場から逃げるように去っていった。
そこへ、一人の伝令兵が静かに近寄ってくる。
「なに……? プレアデスが、デイルを追うだと……?」
報告を聞いたバロールの傍らで、参謀が小さく声を漏らした。
「デイルというのは、それほどの脅威なのでしょうか?」
参謀がバロールを見上げる。
「まあな。現時点においては、プレアデスの見立てが正しい」
「では、こちらもデイルの捜索を……?」
「いや。プレアデスは俺に、あのガキどもの相手をしろと言っている」
バロールの目が鋭く光る。
「実際、魔将軍を4人も葬ってきたのはあのガキどもだからな。放っておくわけにはいかん。特にヴァレリアは、こちらの内情に精通している……注意して奴らの情報を集めろ。必ず先手を取るのだ」
参謀はその言葉に深く一礼すると、影に溶け込むように姿を消した。
玉座に鎮座する魔将軍バロールの鋭い眼光が、暗闇の中でより一層、冷酷に冴え渡っていった。




