第78話:空を舞う鋼、新鋭の襲撃
ペッツパーク連邦からプラウデンへの帰途に就く4台のチャリオット。
乾燥した大地を踏みしめ、重厚な走行音と共に砂埃を激しく巻き上げながら街道を西へと進んでいた。
『カタナの調子はどうですか?』
フリントからの通信が、後方を走るカタナのスピーカーから入る。
「まあ……確かにな。少しガタつくが、プラウデンまでなら何とか行けそうだぜ。今のところ問題ない」
ハンドルを握るクリストフが通信に応答する。
『よかった。慎重に行きましょう』
短く告げると、フリントからの通信が途切れた。
その直後――!!
キィィィィン……と、耳をつんざくような高周波の奇怪な轟音が大気を引き裂き、上空から巨大な影が超高速で飛来した。
その物体は旋回するや否や、眼下の4台のチャリオットへ向けて連射式の魔導銃を乱射。激しい弾幕がヴリトラとティーガーの重装甲を襲う。
――バババババババンッ!!
凄まじい密度の弾丸を受け、バウンダリー・ハル(魔導障壁)が幾何学模様を描いて眩く弾け飛んだ。
「きゃあああっ!? なに!? なになに!?」
激しい衝撃に車内を揺らされ、ヴァレリアが狼狽しながら周囲を必死に見回す。
「く……くそっ! 敵襲だあぁっ!!」
フリントは叫ぶと同時に、すぐさまモニターの各種センサーをフル起動し、未知の敵の状況を即座にサーチし始めた。
先頭を走行していたカタナとグラスホッパーが急停車し、迅速に臨戦態勢へと移行する。
クリストフは後部座席に固定された大剣の柄を力強く握りしめた。
「ぬ……抜けねえ!?」
いくら力を込めても剣は固定されたまま動かない。焦りの表情を見せるクリストフ。
『無理です! エングラムゲートの同期処理が終わっていません!!』
通信機越しにフリントの叫び声が飛び込んでくる。
一方、グラスホッパーのトリスタンは冷静だった。座席の高さをすばやく調整して視界を確保すると、上空へと向けてロングボウに魔導矢を番え引き絞った。
「な、何だ……? あれは……!?」
敵の全貌をその目に捕らえたトリスタンが、驚愕の声を漏らす。
空中に浮いていたのは――全身を鋼鉄の重装甲で固めた、人間を模した巨大な人形の物体だった。背中や両足、腕のノズルから激しい魔導ジェット噴射を吹き上げ、自由自在に空を滑空している。
トリスタンは躊躇うことなく、鋭い3本の魔導矢を射ち上げた。
矢は風を切り、轟音を上げて敵の装甲へ正確に命中する。しかし直前で幾何学模様の眩い障壁が展開され、直撃は完全に阻まれた。
「えっ……!? バウンダリー・ハル!?」
モニターでその光景を確認したフリントが驚きで目を見開く。
「なんだあ!? バレルの言ってた P-LOTみたいなもんか!?」
クリストフが叫ぶ。
『全然違います! あれは……チャリオットの魔導技術を応用した、全く新しい「飛行型パワードスーツ」……新兵器だ!!』
フリントが戦慄を込めて叫び返す。
空中を浮遊する新兵器の肩部装甲が滑らかに開き、内部から小型ミサイルが数発射出された。ミサイルは超高速度の軌道を描き、寸分違わずティーガーを狙う。
『させないっ!』
迎撃システムを起動させたヴァレリアのヴリトラから、ビームブラスターの閃光が放たれ、迫るミサイルを寸前で全て撃ち落とした。
「よ、よし! 何とかロックオン完了だ! 今度はこっちの番だぞ!!」
フリントが咆哮し、誘導ミサイルの発射スイッチを叩き込む。
ティーガーの後部ハッチが一斉に開き、白炎を吹き上げる誘導ミサイル群が解き放たれた。ミサイルは鋭い音を立てて空中の敵へと襲いかかる。
だが、空中を舞うその敵は、即座に回避運動へと移行した。
パパパンッ!!と無数の高温の火花を空中に撒き散らすと、ジェット噴射の出力をブーストさせ、垂直に物凄いスピードで急上昇する。
ティーガーから放たれた必殺のミサイル群は、空中に漂う高温の火花群へと突っ込み、爆煙と轟音を上げて空しく誘爆していった。
「そ、そんな馬鹿な……!? フ……フレアだと……!?」
高度な対空回避手段を見せつけられ、フリントは驚愕の表情を浮かべる。
――空中を飛ぶ試作型パワードスーツ。その密閉された装甲内部へ、自国の技術者から緊急の通信が入っていた。
『バ、バロール様! そのままでは魔力が枯渇して墜落してしまいます! 一旦、退却してください!!』
「なんだ……? もう少しで仕留められそうだって時に……。まあ、試作機だから仕方ないか」
装甲内部の暗がりで、魔将軍バロールはつまらなさそうに吐き捨てた。
(……この装甲が無ければ、あの黄金の光すら防げまい。ふん、忌々しいガキどもめ。楽しみは次の機会に取っておくとしよう)
重厚なマスクの中で冷酷で不快な微笑を浮かべたバロールは、最後の魔力を絞り出してジェットノズルの出力を一気に限界まで引き上げた。
新兵器を身に纏った魔将軍バロールは、爆音を残して空の彼方へと一瞬で飛び去っていった。
「なんだ……あれは……? いきなり襲ってきて、勝手に逃げたってのか……!?」
ポカンと空を見上げ、クリストフが戸惑いを隠せない表情を浮かべる。
「わかりません……でも、助かった……」
フリントは冷や汗を拭い、未知の破壊的威脅が去ったことに深く安堵の息を漏らした。
プラウデンへの平穏な帰路の最中で――彼らの前に、今後迫りくるであろう強烈で絶望的な新兵器の影が、重く落とされたのだった。




